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ソブリンマネー・イニシアチブ、否決の見通し

ソブリンマネー・イニシアチブ反対派のポスター
ソブリンマネー・イニシアチブには強い向かい風が吹いている。直近の世論調査では反対派が54%を占めた Keystone

スイスの銀行には朗報かもしれない。10日実施の国民投票に対する第2回世論調査によると、スイスの金融制度の抜本的改革を目指す改憲案「ソブリンマネー・イニシアチブ」は圧倒的な反対過半数で否決される見通しだ。一方、新賭博法は可決が見込まれる。

 調査機関gfs.bern外部リンクが先月15日~23日に実施した第2回世論調査外部リンクで、ソブリンマネー・イニシアチブは外部リンク34%が賛成、54%が反対の意思を示した。

 一方、賭博に関する連邦法(賭博法)外部リンクは58%が賛成、37%が反対の意思を示した。

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 言い換えると、有権者は10日に実施される国民投票で、連邦政府(内閣)および連邦議会と同じ立場を取ることが予測される。

結果は決まったも同然か

 ソブリンマネー・イニシアチブが否決の見通しであることにgfs.bernの政治学者たちはほぼ納得している。この憲法改正案はスイス国立銀行(中央銀行/SNB)だけに現金および預金通貨の創造を認めるというもので、賛成派の割合は4月の第1回世論調査に比べ1ポイント減少。一方、反対派の割合は5ポイント増加した。

 反対派の割合が54%と絶対過半数を超えており、まだ賛否を決めていない未定の人(12%)全員が賛成に傾いたとしても否決は避けられない見込み。

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 第1回世論調査ではフランス語圏およびイタリア語圏で賛成派の割合が高かったが、今回の調査では全ての言語圏で反対派が優勢を占める。

 フランス語圏のスイス西部では賛成派(40%)と反対派(41%)が拮抗しているが(未定は19%)、傾向としては否決の見通しが強い。

社民党、緑の党から支持者

 経済学者、金融専門家、企業が起草した同案に対し、支持を表明している政党はない。

 だが、同案への賛否を表明しないことを決定した緑の党には、同案を歓迎する支持者が比較的多く、賛成派は64%。一方、反対派は24%だけだ(未定は12%)。

 党として反対の立場を表明している社会民主党支持者の中でも、賛成派の割合は、緑の党に比べれば低いが、44%と若干多い。また反対派は41%、未定は15%に上る。

 他の政党支持者や、無党派層では反対派が賛成派を上回っている。

結果はほぼ決定的か

 新賭博法の是非を国民投票で問うために、一部の政党青年部が提起したレファレンダムも失敗に終わりそうだ。

 新賭博法のねらいはスイスの賭博市場に新しいルールを設けることだ。一定の条件を満たせばオンラインゲームも認められるほか、スイス当局は連邦の認可がなくてもすべての賭博プラットフォームを閉鎖できるようになる。

 第2回世論調査では賛成派が前回から6ポイント増えて58%。一方、反対派は2ポイント減らし37%。未定は5%。

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 今回と前回の世論調査結果を比較すれば、新賭博法の可決は決定的だ。しかしgfs.bernの研究者は、「6月10日に可決される可能性は高いが、必ず可決されるとは言い切れない」と慎重な姿勢を保つ。

ティチーノ州の結果に意外性?

 反対派は新賭博法の問題点をいくつか挙げているが、多くの有権者から理解を得るにはいたっていない。ただ、政府によるサイトブロッキング(接続遮断)、いわゆる「ネット検閲」が可能になる点だけは一部の有権者も問題視している。この点には連邦議会に議席を持つ全ての政党の青年部(キリスト教民主党青年部を除く)が批判。しかしこの点を批判するだけでは同法が否決に傾くことはないだろうと、gfs.bernの政治学者はみる。

 他方、賛成派は三つの点を強調し、様々な層の有権者から支持を得ている。一つ目は新賭博法により外国への資金流出が防げる点。二つ目は国内における課税ベースが維持される点。三つ目は、新賭博法の反対派が外国から資金援助を受けてレファレンダムを提起している点だ。三つ目の点が理由で反対派に悪い印象を抱く有権者は多い。

 第1回目の世論調査ではどの言語圏でも賛成派が過半数を占めたが、今回の調査では意外な結果が表れた。イタリア語圏では反対派が前回の38%から61%に増加し、賛成派は62%から33%に減少したのだ。だが研究者は「この言語圏の回答者サンプルは少なく、反対派の割合が国民投票の実施日まで維持するとは言い切れない」とし、この世論調査結果をさほど重くみていない。

投票率は低くなる見込み

 一方、年齢層別にみた賛否の割合に意外性はなかった。反対派が55%と絶対過半数を占めたのは、18~29歳の層だけだった。

 第2回世論調査は前回調査で予測された通りの結果になった。ソブリンマネー・イニシアチブも新賭博法も有権者からあまり注目されておらず、第2回世論調査の実施期間中の日曜日、5月20日に国民投票が実施されていれば投票率はたった40%だ。

調査方法

2018年6月10日実施の国民投票に対するスイス公共放送協会(SRG SSR)の第2回世論調査は、調査機関gfs.bernが同協会の委託で実施。同協会にはスイスインフォも所属。

回答者は統計理論に則り抽出された有権者1411人。調査期間は2018年5月15日から23日。誤差は±2.7%。

個人情報保護により在外スイス人の連絡先は非公開のため、在外スイス人は回答者に含まれていない。 

(独語からの翻訳・鹿島田芙美)

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