スイスの視点を10言語で

スイス初の人工衛星 打ち上げに成功

Keystone

スイス時間9月23日午前8時30分、「スイスキューブ ( SwissCube ) 」を搭載したインド製の推進ロケットが宇宙に向かって打ち上げられた。「スイスキューブ」はスイスが自国で開発した初の人工衛星だ。

人工衛星の開発のみならず、それを宇宙へ運ぶロケットを探し出すことも大切な仕事だ。スイスの研究者たちは、開発から組み立てまですべてスイスで行われた「スイスキューブ」用に、高さ45メートル足らずのインド製推進ロケット「PSLV」を選んだ。PSLVは「Polar Satellite Launch Vehicle ( 極軌道衛星打ち上げロケット ) 」の略称だ。

インドの技術の発展

 連邦工科大学ローザンヌ校 ( ETHL ) 宇宙センターで初の完全スイス製人工衛星を設計・製作した学生プロジェクトを率いるムリエル・ノカ氏は、スタートの数日前、 
「完璧に信頼している。インドのロケット計画に対する信頼はこの30年間でとても大きくなった」
 と語った。ノカ氏はこれ以前、カリフォルニア州パサデナ ( Pasadena ) にある著名な「ジェット推進研究所 ( Jet Propulsion Laboratory ) 」に勤務した経験を持つ。米航空宇宙局「NASA」が宇宙へ送っているロケットのほとんどはこの研究所で作られたものだ。

 「インドは素晴らしい宇宙計画を持っている」
 とノカ氏は絶賛する。当初は一般市民に対するサービスの構築が主な仕事だったが、経験を積み、月探査を行うなどして、インドは現在、研究にも積極的になったと話す。

 「スタートはつつましいものだったが、インドはその技術を少しずつ発展させ、今ではPSLVという非常に優れた推進ロケットを所有するまでになった。ヨーロッパにはまだ一つのタイプしかないが、インドにはすでに二つある」

ヴェガロケットの計画の遅れ

 スイス製の小さなキューブが実際に宇宙に送り出されるまでに長い時間がかかったのはいくつもの理由が重なったためだ。

 昨年6月、幅わずか10センチメートル、重量は1キログラムにしかならないサイコロ型の小さな人工衛星「キューブサット ( CubeSat ) 」は、ヨーロッパが作った新しい宇宙ロケット「ヴェガ ( Vega ) 」に搭載されることになっていた。開発は主にイタリアが行い、スイスも参画していたこの小さな推進ロケットの積載重量は2トン。積載物を高度200キロメートルから1500キロメートルの宇宙へ運ぶように設計されている。

 ヴェガロケットは、現在の主力ロケット「アリアン ( Ariane ) 」よりも性能的には劣るが、経済的には何倍も効率的だ。そのため、イタリア製のこのロケットは膨大な可能性を秘めているといえる。ただ、2006年には完成の予定だったが、完成までにはまだ時間がかかりそうだ。

孤立状態のアメリカ、事故のロシア

 アメリカは自国の武器取引規制に縛られ、宇宙開発関連貿易に大きな支障が出ている。航空関連産業全般にわたる物品は武器として扱われているが、「9.11米同時多発テロ」以降、ブッシュ政権はこの規制のさらなる強化に動いた。このため、アメリカは身動きができない状態だ。

 「アメリカとの協力は非常に難しくなった。アメリカの学生はわたしたちに彼らのキューブサットの仕様内容を明かせなくなっている」
 とノカ氏は語る。実際、アメリカの技術者は孤立状態にある。
「アメリカは厚いカーテンに覆われてしまった。このため、私たちの衛星はアメリカ製推進ロケットで飛ばすことができなくなった」
 という。

 一方、宇宙開発ではアメリカと競うロシアも、2006年7月、新ミニ衛星ドニエプル ( Dnjepr ) が爆発事故を起こして以来、その信頼性が揺るぎ始めた。なにしろ爆発事故では、14台のキューブサットがその運命を共にした。

推進ロケット仲介会社

 しかしこの事故は、オランダの元学生たちがミニ衛星と推進ロケットの仲介役を担う会社を創設する機会にもなった。
「おかげで、わたしたちの荷はずいぶん軽くなった。この会社に頼めばよいだけになったからだ。今回もインドの推進ロケットを仲介してくれたのはこの会社だ」

 ロケット発進は、もともと今年1月に予定されていたが、衛星母体との問題が生じ延長されたとノカ氏は明かす。そして9月23日、スイス時間8時30分、スイスキューブは「オーシャンサット ( Oceansat ) 」と共にやっと宇宙に飛び立った。1トンの推進ロケットの「モンスター」に助けられ、小さなサイコロのスイスキューブは大洋で漁師の体温さえキャッチすることになる。

 8月にはノカ氏はインドのサティシュダワン宇宙センターに赴いたが9月23日には、ローザンヌの同胞の学生たちと共に、スタートを見守った。

マーク・アンドレ・ミゼレ、swissinfo.ch
( 佐藤夕美、小山千早 訳 )

<次世代への期待>
小型人工衛星「キューブサット ( Cube Sats ) 」打ち上げ計画は「学生の人口衛星」としてカリフォルニアの2校の大学で生まれた。各国の学生が携わるこの計画は「宇宙の支配」に参加しようというもの。第1号は、2001年に宇宙に放たれた。

<グローバル>
既にヨーロッパの25校を含む世界の大学80校がキューブサットを打ち上げた。毎年、情報交換に世界から学生が集まる。

<ミニ>
「スイスキューブ ( SwissCube ) 」はスイス製キューブサットで、ミルクパックより軽い820グラム。なお、キューブサットは1キログラム以下であることが条件。

<学・公・民の連携>
スイスキューブ開発には、連邦工科大学ローザンヌ校、ヌーシャテル大学のほか専門大学5校の180人以上の学生が携わった。また、宇宙開発関連企業の協力も得た。

<ハイテク>
スイスキューブには、ミニ望遠鏡1台、エレクトロニックス地図16枚を搭載し、回線357本が張り巡らされ溶接部分は700カ所以上。1000以上の部品からなる。

<スイスの予算>
予算約50万フラン ( 約4400万円 ) 。このうち7万5000フラン ( 約665万円 ) は、インド製の推進ロケットの経費。大学、民間企業、連邦政府、スイスロマンド宝くじによって負担されている。

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部