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製薬大手が大型取引 ノバルティス、抗がん剤事業に注力 その背景にあるものは?



ノバルティスのジョセフ・ジメネス最高経営責任者(CEO)は、同社の抗がん剤部門拡大への野心を持つ

ノバルティスのジョセフ・ジメネス最高経営責任者(CEO)は、同社の抗がん剤部門拡大への野心を持つ

(Keystone)

スイスの製薬最大手ノバルティスが、英製薬大手グラクソ・スミスクライン(GSK)の抗がん剤製品群を買収する。売上不振が続いた同製品群に最大160億ドル(約1兆6400億円)もの資金が投入されるが、この取引は無駄ではないとアナリストは分析する。

 命を救う抗がん剤は製薬会社が努力しなくても売れると思われているが、成功するためには市場動向を見極め、特定の疾患領域に的を絞らなければならない。

 一つの例が乳がん治療薬だ。ヨーロッパでタイヴァーブの名で発売されているGSKのタイケルブは7年前の発売以来効能が証明されているものの、これまで大ヒットの気配も無いまま売上低下が続いている。そして、タイケルブと競っているのは、やはりスイスの製薬大手ロシュが製造したハーセプチンとその後続製品パージェタだ。

 GSKはタイケルブを含む抗がん剤の可能性を有効に活かしきれず、ノバルティスに売却した。しかしGSKの主力領域は呼吸器疾患で、がん領域は全事業のわずか5.4%に過ぎない。チューリヒ州立銀行のアナリスト、ミカエル・ナウラト氏は、GSKには新薬開発を推進できるような大型製品がないと指摘する。

 抗がん剤の世界二大製薬企業ロシュとノバルティスでGSKのような状況が発生することはおそらくありえない。両社とも利益率の高い製品の研究開発に焦点を絞り、抗がん剤専門の販売営業部を持っているからだ。

 過去数年間にノバルティスはがん研究のインフラを強化し、抗がん剤で世界第2位に躍進。この結果、今回買収する抗がん剤群のために既存の販売網を利用し、販促関係の研究ができるようになったとナウラト氏は説明する。

 またGSKの昨年の売上16億ドル(約1630億円)と比較し、「同じ抗がん剤製品群を(ノバルティスの)開発とマーケティングに委ねていたら、2013年には約29億ドル(約2960億円)の売上があっただろう」と指摘する。

 さらにナウラト氏は、それらの抗がん剤製品群の売上が、将来最高120億ドル(約1兆2240億円)に達する可能性もあると予測する。

 ノバルティスは、がん領域でライバルのロシュと同水準にないと見なされてきた。ノバルティスの白血病治療薬グリベックは、2013年に47億ドル(約4800億円)の売上を記録し、ロシュのトップ三大抗がん剤に次ぐ第4位のがん治療薬となったものの、ノバルティス唯一のヒット商品に終わると見られていたからだ。

 しかし現在、GSKとの事業取引によってノバルティスへの期待が高まった。ノバルティスのジョセフ・ジメネス最高経営責任者(CEO)は、ロシュを追い抜くと大衆紙ブリックに明言している。ノバルティスが買収した製品は、2023年から2030年まで特許権が守られており、成長拡大が見込まれる。そのため大型商品の特許が切れた後に起こる「パテントクリフ(新薬の特許が切れた後、ジェネリック医薬品の発売によって売上が激減すること)」をよりスムーズに乗り切れるようになる。

 今後ノバルティスは、10億ドル(約1020億円)を超える大規模な売上を達成する可能性を持つ抗がん剤の自社製品が少なくとも三つできると考えている。同社の広報担当スギモト・サトシ氏によると、それらは腎細胞がん治療薬ヴォトリエント、及び皮膚がんの領域でノバルティスを世界首位に押し上げるであろう悪性黒色腫治療薬タフィンラーとメキニストだ。

事業の取引

 ノバルティスは4月22日、取引総額約285億ドル(約2兆5700億円)に上る大規模な事業再編を発表した。ワクチン事業をグラクソ・スミスクライン(GSK)に、動物薬事業をイーライリリー(Eli Lilly)に売却する一方、GSKから利益率の高いがん治療薬群と今後開発中の抗がん剤についての商業化の権利を買収した。

 ワクチン事業の売却(71億ドル/約7200億円)と動物薬事業の売却(約54億ドル/約5530億円)は現金流入をもたらすが、アナリストは抗がん剤製品群に対する160億ドル(約1640億円)の買収金額については批判的だ。それらの製品群には、腎細胞がん治療薬ヴォトリエント、悪性黒色腫治療薬タフィンラーとメキニスト、乳がん治療薬タイケルブ、慢性リンパ球性白血病治療薬アルゼラ、血小板減少治療薬プロマクタ、さらに開発段階の抗がん剤から今後ノバルティスが選択するものが含まれる。

GSKの製品群のおかげで、ノバルティスは350億ドル相当の腫瘍免疫療法市場に強い足場を築くことになる。チューリヒ州立銀行のアナリスト、ミカエル・ナウラト氏によると、(化学療法と腫瘍免疫療法の)併用治療法は薬品の売上を何倍にも引上げる可能性があり、免疫療法は製薬会社が意欲的に取り組んでいる革新的な研究分野だ。

腫瘍免疫療法は、腫瘍細胞とより効果的に戦うために患者の免疫システムを利用する方法で、腫瘍細胞を直接攻撃する物質と併用する。こうした併用治療は致死性の病気を、エイズ、糖尿病、高血圧などのように管理が可能な慢性病に変える可能性がある。

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秘密を売る?

 ノバルティスは、今回新たに買収したタイケルブやヴォトリエントには、抗悪性腫瘍剤アフィニトールの販売網を使用できると考えている。これら3剤は同様の症状の治療に用いられるためだ。また、悪性黒色腫治療薬タフィンラーなどにも同じことが言える。これらには専門性と販売体制がすでに整っているため、余分な経費がかからないとアナリストは分析する。

 医薬品販売のカギを握るのは医者だ。製薬企業は患者の人口と処方箋からビジネスの可能性を分析する。医薬品を処方する可能性が最も高い医者を特定し、標的に定めるのだ。

 従来は販売員が数週間おきに医者に連絡を取り、臨床情報、医療記事、医薬品の無料サンプルを提供してきた。

 コンサルタント企業のバーソン・マーステラ―によると、ノバルティスは2009年ごろまで、アメリカ国内だけで約6千人の専任販売員を揃え、降圧剤ディオバンのような人気商品一点だけを販売するために約1億フラン(約100億円)以上もの予算をかけていた。

ノバルティスの買収

1996年 スイスの製薬企業サンドとチバガイギーの合併によってノバルティス誕生。

1997年 化学分野がチバ・スペシャルティー・ケミカルズとして分離。

1999年 農業部門がアストラゼネカの農業部門と合併、シンジェンタ設立。

2001年 ロシュの株式を買収。

2002年 ジェネリック医薬品企業LEK買収。

2005年 ジェネリック医薬品企業ヘクサルとイオン・ラボを買収ブリストル・マイヤーズ スクイブから店頭事業買収。

2006年 シロンからワクチン事業買収、栄養・ヘルスケア事業売却。

2007年 栄養医学、ベビーフード事業売却。

2009年 ジェネリック注射剤企業EBEWE買収。

2010年 眼科領域の医薬品企業アルコン買収。

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時代は変わる

 しかし時代は変わりつつある。医者はもはや販売員に頼らずインターネットで情報を得られるようになったため、販売員の数は減少しているとバーソン・マーステラーは指摘する。現在販売員は、医者に大量のプレゼントや薬品サンプルを提供する代わりに、医者を説得するための臨床情報を蓄えたタブレット型コンピューターで武装している。

 製薬企業は一つの疾病の治療で首位争いをしている薬剤を比較し、どちらの薬剤が優れているか、あるいはどちらの薬剤の費用対効果が高いか証明するためにコストの高い臨床試験を実施している。ノバルティスもまたその準備を整えるために昨年研究開発に96億ドル(約9800億円)を投じた。

 GSK の悪性黒色腫治療薬タフィンラーとメキニストは、ロシュの皮膚がん治療薬ゼルボラフと正面から競争している。GSKの2剤は、併用療法が最近承認された初の皮膚がん治療薬で、ノバルティスはこの2剤が薬剤耐性などの面でゼルボラフより優れていることを証明する構えだ。

 製薬企業に対し、医者に対する支払いや贈答品についての開示要求が高まっているため、それらの高額な経費に見合うだけの成果を生み出さなければならないというプレッシャーが生じている。

 販売員の数がピーク時を迎えた2006年の10万7000人から2013年の6万人に減少したのは、これが理由の一つだとマーケティングサービス企業のZSアソシエイツは分析する。同社のアナリストによると、医者への接触が制限されるようになった上、複雑な抗がん剤の販売には、がんの専門医を説得できるよう特別な訓練を受けた販売員が必要になった。さらに他社の製品の品質が同等の場合は、こうした専門性が必要になる。

 「1990年代には、多数の販売員が無料サンプルなどを添えて販売攻勢をかけていた」とナウラトさん。「しかし今日では販売営業以上のものが求められている。患者に対する(治療薬の効能という)利益だけでなく、一つの治療にかかる年間約5万フラン(約570万円)の薬価がもたらす経済的な利益の正当性を証明しなければならない」

 ノバルティスは競争上の理由から、販売員の総数と各事業別販売員数の公表を拒んでいる。しかし、グローバル・セールス・フォース・イフェクティブネスの社長ペーター・デーンさんは、2013年に製薬産業のウェブサイト eyeforpharma で、ノバルティスの販売営業部には総計1万8千人の販売員とマネージャーがいると言及している。


(英語からの翻訳 笠原浩美、編集 スイスインフォ), swissinfo.ch


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