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Smartboxグルメ旅

日没前のクリックシュテッテン村は、澄んだ青空が印象的だった swissinfo.ch

「Smartbox」は、近頃スイスで贈り物として人気上昇中の、一種のギフトボックスである。その名の通り、平たい箱の中には、クーポン券が入っており、同封の案内書の中で紹介されている施設の中から行きたい場所や体験したいコースを自由に選ぶことができる。

 全部で30コース以上あり、値段も様々。「宿泊滞在」「癒やしと健康滞在」「美食」「冒険」など7つのカテゴリーに分類されている。

 先日、結婚記念日の贈り物として娘2人から半年ほど前に貰っていた「Smartbox」を使い、ソロトゥルン(ドイツ語でSolothurn、フランス語でSoleure)州にあるレストランで食事をした。

ホームページからの注文の他、スイスの駅やキオスク、デパートなどで購入可能だ swissinfo.ch

 娘達からのプレゼントは「美食」カテゴリーの中の1つで、タイトルは「世界の料理」。スイス・イタリア両国合わせて60軒のレストランから選ぶことができるが、日帰りで行ける場所、ソロトゥルン州にあるロマンティック・ホテル・シュテルネン(Romantik Hotel Sternen)内のレストランを選んだ。

 ちなみに、Smartboxのサービスを利用するには、前もって施設に連絡を取り、Smartbox使用と伝えた上での予約必須である。なかなか日程が決まらなかった私達が最初に予約を試みたレストランからは「直前過ぎる」と断られてしまった。2番目に電話をしたレストラン、つまりロマンティック・ホテル・シュテルネンで予約が取れた時は、心底安堵した。

 また、有効期限があるので、クーポン券上の記載事項を隅から隅まで読んだ方が良い。公式ホームページ上で、2015年度に新しく発売される9つのSmartboxに限り、購入後の交換可、かつ有効期限がないと宣伝しているので、こちらも合わせてご確認いただきたい。

 当日は晴天に恵まれ、快適なドライブとなった。目的地クリックシュテッテン(Kriegstetten)は、州都ソロトゥルンから10kmほどのところに位置する人口1300人ほどの閑静な村だ。

 スイスの村、特にカトリック地域には、村の大小に関わらず、立派な教会がある。このクリックシュテッテンも例外ではない。ホテルレストランの隣に巨大な尖塔を持つ教会がそびえ建っており、ひときわ目を引いた。

レストランに隣接する聖モーリシャス教会。人口1300人ほどの小さな村だが、内部装飾がきめ細かで美しい教会がある swissinfo.ch

 教会内は、手入れが良く行き届いている上、なかなか豪奢な造りであった。数々の宗教画や彫像も大作が多く、一見の価値がある。

 教会を出た後、夕食まで時間があったので、車で10分ほどの州都ソロトゥルンの町に行くことにした。

 現在、バーゼル司教区の本部が置かれているソロトゥルンは、私が住むポラントリュイと無関係ではない。「古の権威打倒」を掲げたフランス大革命軍に追われて命からがらポラントリュイを脱出し、スイス各地を点々としたバーゼル司教及び司教区が時代を経てソロトゥルンに安住の地を見出す以前、歴代バーゼル司教は、大公として1527年から1792年までポラントリュイ城に居住していたからだ。

 夕闇迫るソロトゥルン旧市街では、到着直後からみるみる気温が下がっていったが、街の好感度は小さな通りに至るまで失われなかった。中世色が色濃く残る、厳かな美しさを湛えた建物に囲まれているからだろうか。この日は時間がなくて残念だったが、またいつかこの歴史深い町をゆっくり訪れてみたいと思った。

クリックシュテッテンから車で10分ほど、ソロトゥルンで散歩とコーヒータイム swissinfo.ch

 ソロトゥルン小観光を楽しみ、クリックシュテッテンに戻ると、既にレストランは会食を楽しむ人々で賑わっていた。

 レストランは、大通りに面している建物だけを見ると小じんまりと見えるが、実は奥深く広がっており、ホテル部分と合わせると敷地は広大であった。季節のいい時は庭での食事も楽しめるそうだ。

ホテルに通じる廊下。建物は大きいが、むしろ家庭的な雰囲気である swissinfo.ch

 建物内の回廊は古い家具調度品が多く、個人の屋敷に紛れ込んでしまったかのようだった。隅々に至るまで、家族経営ならではの温かな落ち着きと経営者の品格が漂っていた。

 レストランに案内された私達は、まず地元産のリンゴジュース(アルコール入りか無しかを選べる)で乾杯した。

 メニューはスイスドイツ語で記されていた。ソロトゥルン産の食材を利用した料理で、Smartboxクーポン使用者用メニューということだ。

郷土料理のメニューは「ソロトゥルンドイツ語」で記されている swissinfo.ch

 飲み物は別勘定だが、2人だけの外食は久しぶりなので、奮発して最良のボルドーワインを頼んでみた。オー・メドックの「シャトー・ド・ラマルク(Château de Lamarque)」は古い歴史と伝統を誇る、クリュ・ブルジョワを代表する人気シャトーの1つで、ブルジョワ級として高水準。「しなやかな舌触りとエレガントな余韻の楽しめるワイン」に定評がある。

 ワインに関する知識はほぼ皆無で、決して酒に強くない私だが、まろやかな風味が楽しめた。

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 白ワインで煮込んだこのスープはソロトゥルン名物ということ。細かくカットされた野菜の歯ごたえがクリーミーなスープにマッチしており、ほんの僅かに舌に残るワインの酸味が隠し味的に効いていた。

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 続くメインディッシュは、見た目鮮やかで珍しい料理を期待する人にとっては、もしかしたら少々がっかりする素朴さかも知れない。ローストビーフは、ほぼ日常的に食卓に上がる料理である。

 しかし、料理で一番大切なものは味である。ビネガー入りソースのローストビーフは絶品だった上、付け合わせの野菜も含めてその地方の食材が楽しめた。また、ホテル支配人直々の挨拶、フランス語での料理の説明や細やかな配慮が行き届いたサービスにも大変好感が持てた。

 デザートは、メニュー上では「リンゴの小さなケーキ、バニラソース添え」と理解していたが、思いも寄らないことに夫の大好物「リンゴのベニエ」だった。

夫の大好物で幼少時の良き思い出のデザート、リンゴのベニエ swissinfo.ch

「ベニエ」とは、フランス語で「揚げた生地」という意味。パイ生地かパン生地に果物を詰めて揚げたお菓子である。表面に砂糖をまぶすとドーナツに似た味になる。

「おばあちゃんが作ってくれたリンゴのベニエは最高に美味しくて、一度に10個食べたことがある」

 リンゴのベニエにまつわる幼少時の思い出を楽しそうに語ってくれた夫を見ながら、Smartboxをプレゼントしてくれた娘2人にも思いを馳せた。

 形状は「スマート」でも、真心が一杯にこもったSmartbox。ちょっとした観光も兼ねたグルメ旅行に両親を送り出し、嬉々として留守番できる娘達の成長ぶりを頼もしく思うと同時に、感謝の気持ちで胸が一杯になった。

マルキ明子

大阪生まれ。イギリス語学留学を経て1993年よりスイス・ジュラ州ポラントリュイ市に在住。スイス人の夫と二人の娘の、四人家族。ポラントリュイガイド協会所属。2003年以降、「ラ・ヴィ・アン・ローズ」など、ジュラを舞台にした小説三作を発表し、執筆活動を始める。趣味は読書、音楽鑑賞。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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