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ボローニャ改革から10年

昨年11月に起こった学生抗議運動では、ボローニャ改革も批判された Keystone

「ボローニャ改革」導入から10年が経過した現在、ヨーロッパ履修単位相互認定システムによって留学が簡単になり、ヨーロッパ内の大学卒業時の学位も統一された。

ボローニャ改革は、ヨーロッパ内の大学卒業時の学位を統一させ、学生が修学中にほかの大学に編入することを可能にさせたとベルン教育委員会長で大学委員会総長のベルンハルト・プルヴァ氏は語る。

新しい履修単位システム

 スイス教育連盟 ( VSS ) の代表者、ラヘル・シーグリスト氏も、ボローニャ改革によっておおよその目標が実現したと次のように語る。
 「学士課程、修士課程、博士課程の一環システムも導入され、ヨーロッパ履修単位相互認定システム ( European Credit Transfer System/ECTS ) も導入されました。しかし、このシステムは、学業にどれだけ時間を割いたか、つまり履修単位を測るだけのもので、最終的に学生がどれだけの専門知識や能力を身につけたかを測るものではありません。学業の成果までは定義できないからです」
 
 ヨーロッパ履修単位相互認定システム は当然ながら、学生が単位を集めることだけに専念してしまう結果に陥る危険性がある。
 「目的は、結局はどこの大学で勉強したのか重要でなくなってしまうほど大学での学業システムが統一されることではないのです。本来はそれぞれの大学に個性があるべきです。ただ、どの大学でも学士課程を終了した人は、その専門分野とテーマにおいてすべて学んでいると思ってよいでしょう。しかし、完全に教育システムを統一することが目的ではありません」
 とシーグリスト氏は説明する。

増える受講数

 「ボローニャ改革の導入によって教育課程で受講しなくてはならない教科が増えました。以前よりカリキュラムに柔軟性がなくなり、あっという間に仕事などのほかの活動をしながら大学に通うことは、困難になりました」
 と学生の代表者は語る。

 今では学生が学業終了後に就職する際に既に身につけていなければならない専門知識を得るために、学業以外に仕事をし、その上大学で修業するという両立が困難になってしまったようだ。

 大学委員会総長は大学講義受講の状況に対しても次のように語る。
「医学部生や法学部生には、既に以前から教育課程に大きな変更がありました。学生はいつ、どの試験を受けなければならないか、いつまでにどの科目を受講しなければならないかということを熟知していました。こうした厳しいカリキュラムが心理学、経済学、歴史学の教育課程においても増えてきています。しかし、これは行きすぎだと思います」

 プルヴァ氏は、大学は時にはゆっくりと時間をかけて勉強できる選択肢があり、自由に思考できる場所であるべきだと考えている。また、彼は大学側とも協議中であり、大学も履修単位の負担増加を望んでいたわけではないと言う。

 これは履修単位制度が変更されたために起こった問題でもあり、過去20年間で既にあった政治的方針でもあるという。
 「大学側はやっと改革を始めたばかりです。現在、どこに問題があるかを見極め、何を変更したいか、また変更できるかをみんなで考慮しなければなりません」

無駄のない教育

 「商品としての教育」、「無駄を省いた教育」は昨年11月に行われた学生運動の際の批判の対象となり、スイスでも大学の運営の妨げになるほどの規模だった。抗議運動では、学生たちは無駄を省いた教育制度になってしまったのはボローニャ改革に責任があると主張した。

 プルヴァ氏はこういった学生からの危機的な感情に対して異論を唱えず
「わたしは、無駄を省いた教育に関してとても憂慮しています」
 と語る。しかし、彼は問題の核は大学側にあるのではなく、教育制度に対する政治政策にあるとしている。

 「しかし、わたしたちはまだ引き返せないほどの段階にまでは来ていません。教育には無駄を省いて経済的にしようという見方が増えてきていますが、それはある意味、正当性もあります。しかしわたしは、教育の合理化が決して行き過ぎることがないよう注意することが大切だと思います」
 とプルヴァ氏は語る。

社会的観点から見る教育制度

 さらにボローニャ改革において学生の批判の的になっているのは、誰にでも平等な教育の機会を保証していないという社会的な側面だ。

 「平等な教育の機会をみんなに与えるという社会面は、スイスでもおろそかにされています。スイスの学生の家庭環境にはまだ大きな偏りがあります。大部分の学生は少なくとも一方の親が大学で勉強していたか、社会的経済的に良好な家族に恵まれている人たちです」
 とシーグリスト氏は付け加える。また、通学日数が増加したことによって、この問題はより厳しいものになってしまったとシーグリスト氏は批判する。
 「スイスには充分な奨学金制度がありません。ヨーロッパの高等教育には全員が参加できるようになるべきです。参加できる人だけを大学に通学させるというのが目的ではありません。教育の機会は均等であるべきです」

 プルヴァ氏もこの状況について同じような見方をしている。
 「学生を支援するという社会的な部分において、わたしたちはまだ充分な準備ができていません。スイスで学ぶための奨学金は本来必要とされているほど用意できていないのです」

 州立教育統轄委員会は奨学金制度をある程度統一させようと試みている。
「しかし、それにはまだ少し時間がかかるでしょう」

エヴェリン・コーブラー、swissinfo.ch
( ドイツ語からの翻訳、白崎泰子 )

ボローニャプロセスはヨーロッパ内の大学の教育過程で取得する単位を2010年までに統一しようとする計画。
1999年、ヨーロッパ29カ国の教育大臣がボローニャに集まりボローニャプロセスに署名した。これは国際法上では拘束力がない。
ボローニャプロセスは、学生がほかのヨーロッパ内の大学に編入できるよう促し、国際競争力を高め、実践に必要とされる能力を身につけることを目的としている。

ヨーロッパ履修単位相互認定システムは、学生がヨーロッパ内の大学間で履修した単位を相互に認定できるものにし、ほかの大学に編入する際にも問題なくこれまで取得した単位を評価、換算できるようにしたシステム。
教育課程において大学間で統一された換算可能な履修単位を取得することで可能。このシステムは主に、大学の学士課程と修士課程の履修単位評価に利用されている。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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