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国際法に情熱を傾けて

「将来は子どもの人権を擁護する仕事に就きたい」と言うクリステル・ダイエールさん swissinfo.ch

環境と海洋に関する国際条約の検索サイトを立ち上げた、若いスイス人女性クリステル・ダイエールさん ( 28歳 )。「外交官など専門家はもちろん、学生、一般市民の誰もが、国際条約を簡単に、スピーディーに検索できるサイトを作りたかった」と話す。

9月末から検索が可能になったサイト「ワットコンベンション/ www.whatconvention.org」には、約476の環境関係の条約、190の海洋関係の条約、そして2万2000の条例が載る。

一つの例としてのオーフス条約

 「例えばオーフス条約( The Aarhus Convention ) は、自宅の傍で黒い煙を吐く工場が環境基準に沿って運営されているかどうかを示す証拠のデータを、市民レベルで工場に対し要求する権利を保障するものだ」
 とダイエールさん ( 28歳 ) は言う。

 オーフス条約 は環境関係の国際条約の一つ。正式名は「環境に関する、情報へのアクセス、意志決定に関する市民参加、司法へのアクセスに関する条約」だ。

 この条約には、遺伝子組み換え作物 ( GMO ) に関する情報へのアクセスも追加されている。
フランスはこの条約に批准している国だが、ある団体が、遺伝子組み換え作物をマウスに食べさせた実験結果として組織に起こった変化のデータを、ある企業の実験所に要求した。
 「ところがまず拒否され、次いで牛を使った実験結果を渡された。その後ドイツのグリーンピースの助けで、『オーフス条約に批准している以上、要求されたデータを渡すのが義務だ』という判決を裁判所で得て、データを手に入れた」
 という話を挙げる。

 しかし、こうした働きかけも条約の存在を知っている人に限られている。しかも、自分の国が批准しているかどうかによって、起こす行動も違ってくる。こうした条約に批准しているか、それとも署名だけかといった情報を含め、もっと多くの人が簡単にアクセスできる、誰にも開かれた検索サイトが望まれていた。

手で一つ一つ打ち込む作業

 実は、ダイエールさんがこの仕事を行ったのは「マンダ・インターナショナル ( Manda International ) 」のメンバーとしてだ。このNGOは、ジュネーブでの国際会議に途上国から出席するNGOの代表など、関係者の宿泊施設を提供し、また彼らに会議での内容などに関する情報提供を主な任務としている。

 しかし
 「過去、国際会議に出席する人々があまりに国際条約の内容を知らないことにショックを受け、国際条約の検索サイトを立ち上げることになった」
 という。まず、人権と人道権に関する国際条約の検索サイトを2006年に完成させ、今回の海洋と環境に関する国際条約検索サイトはその第2弾だ。

 3年間かけてようやく終了したこの仕事の困難な点は
 「プロジェクトの予算がないため、国際法の学生見習いなど、多くて9人少ないときは3人、それも数カ月単位で交替するスタッフに協力してもらい、しかも精度の高い仕事をしなければならないことだった」

 条約も、ほとんど使われておらず、その存在さえ忘れられているようなものまで探し出した。検索サイトの信頼度を高めるために完璧さを期したからだ。
 「また、条約を原本から写すことを基本にしたが、本当の原本かどうかを検索する仕事は大変だった。その後、すべての条例を手で一つ一つ打ち込んでいった」
 という。

 しかし、それ以上に大変だったのは、各国がいつ条約に批准したか、その日付は正しいかなどを検証することだった、各国の政府や関係者に直接連絡を取り、また関係の国際機関にもコンタクトして検証を重ねた。

人を助ける仕事

 ダイエールさんはジュネーブで生まれ。子どもの頃から人を助ける仕事をしたいと思っており、人権などにも関心が深かった。そのため大学で国際法と政治学を学んだ。学生のとき、国際法を必要とする銀行で見習いをしたが
 「結局性に合わなかった。卒業後赤十字国際委員会などにも応募した。でも経験がないと断られ、NGOのマンダ・インターナショナルの正職員に採用されたときはうれしかった」
 と言う。

 ところで、将来本当に手掛けたいのは、子どもの権利に関する仕事だ。
 「特にアフリカの多くの国では子どもの人権はまだ確定されていない。犯罪に巻き込まれた子どもが、大人と同格に扱われて刑罰を受けるのには心が痛む。また、少年兵の存在も許しがたいことだ」
 と顔を曇らせる。

 絵を描いたり、旅をしたり、読書したりという趣味はあるが、やはり情熱は国際法に傾けたいという。グローバル化が進む中、今後ますます国際法の重要性は増していくと思うからだ。

 「ただ国際法の欠点は、警察が行使するような強制力がないことだ。そのため、たとえ批准した国が国内で国際法の規定を守っていなくても別に問題にならない。ましてや批准していない大国に至っては、なおさらだ」

 「だから、できることは国際的にプレッシャーをかけていくいことしかない。そのためにも、この検索サイトを活用して、どの国が批准しているか否かを調べてほしい」
 
 それに
 「今のアイデアだが、国際法に一番多く批准している国から順番に一覧表を作り、それもサイトに載せて行きたい」
 と、話は絶えず国際法に戻っていく。

3 年前から、NGO「マンダ・インターナショナル ( Manda International ) 」
で働くクリステル・ダイエールさんが中心となって立ち上げたサイト。

基本的に多国間の国際条約に限っている。約476の環境関係の条約、190の海洋関係の条約、そして2万2000の条例が載る。条約をそのまま探すことも、またテーマ別で探すこともできる。英語、仏語、スペイン語で検索可能。

環境の国際条約「オーフス条約 ( The Aarhus Convention ) 」の正式名は「環境に関する、情報へのアクセス、意志決定に関する市民参加、司法へのアクセスに関する条約 ( Convention on Access to inforamtion, Public Participation in Decision – making and Access to Justice in Environmental Matters )」。

1998年にデンマークのオーフスで採択された。現在39カ国が批准している。スイスは署名しているが批准していない。日本は署名も批准もしていない。

 海洋に関する国際法では、19世紀半ばから20世紀初頭にかけて海域などを規定する条約が多かったが、現在、生物の多様性の保護や魚業規制などの必要性が叫ばれ、今後この分野の国際法の重要性が高まるという観点から、検索サイトの1分野となった。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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