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若者が自動車で暴走しないために

監視する場所を増やす方が刑罰を厳しくするよりも、暴走防止の効果がある imagepoint

2008年11月8日未明、シェーネンヴェルトで若者3人が自動車で暴走し、1人の女性が死亡した事件の裁判が行われ、主犯のギリシャ人男性に対し、殺人罪、重傷害罪、道路交通法の複数の重大な違反の罪により5年8カ月の禁固刑が言い渡された。

トルコ人とクロアチア人の2人には、道路交通法の複数の重大な違反の罪で、一部執行猶予付き28カ月の禁固刑が言い渡された。

 ザンクト・ガレン州裁判所で判事兼裁判長を務めるニコラウス・オーバーホルツァー氏が裁判の判決について説明する。また、自動車の広告内容を制限したり、速度制御機能を車内に設置したりすることで、自動車の暴走を防ぐ対策について話を聞いた。

swissinfo.ch : シェーネンヴェルト ( Schönenwerd ) の一般車道でカーレースを行った若者3人に対する裁判の判決は、暴走に厳しく処罰する姿勢の現れでしょうか。

オーバーホルツァー : 法廷は今回の裁判を通して、自動車の暴走がどれだけ厳しい犯罪かということをはっきりと示しました。判決はまったく許容する余地がなく、容認できる行為ではないという内容でした。既に5年前に起きた2件の自動車の暴走事件に関する裁判でも、連邦最高裁判所は「未必の故意」による殺人罪であるという有罪判決を下しました。

swissinfo.ch : しかし、あなたは暴走事件の裁判で厳しい判決が下されることによって今後、暴走が減っていくということは疑問視していますね。

オーバーホルツァー : 今回の判決も未必の故意による殺人罪で有罪となりました。それは法廷が、被告の若者が暴走したとき、一般の人も死に至らしめるかもしれないことを認識していたと判断したからです。ということは、被告も同じように、自らの命を落すかもしれないことを容認していたと首尾一貫して判断すべきです。

暴走したら死ぬかもしれないという恐れに動じない人は、2年か3年の、場合によっては8年の懲役を受けるかもしれないとも考えません。そういう人は処罰が厳しいと分かっていても、一般道でカーレースをしてしまうでしょう。

swissinfo.ch : なぜそのようなカーレースをしてしまうのでしょうか。

オーバーホルツァー : 暴走する人は何も起こらないと信じ込んでいるのです。そうでなければ危険を冒しません。また彼らは、警察には捕まらないだろうと安易に信じているのです。

犯罪学研究によると、人が犯罪を思い止まるのは、刑罰が厳しいからではなく、警察に捕まる可能性が高いからだということが明らかになっています。一方で、刑事訴訟に至る可能性がほぼ無に等しいと知れば、人は非常に高いリスクを冒そうとします。

swissinfo.ch : 暴走事件が起こるのは、道路交通の取り締まりが厳しくないからですか。

オーバーホルツァー : 至る所で取り締まれば、交通ルールを守る人が増えるでしょう。わたしも高速道路で10キロメートルおきにカメラが設置されていることを知っていたら、違う走り方をするでしょう。監視する場所を増やす方が刑罰を厳しくするよりも、暴走防止の効果があると思います。

swissinfo.ch : 暴走する人の大部分が移民の若い男性だと聞きますが。

オーバーホルツァー : 暴走をするほとんどの人は若い男性です。暴走する人が移民とどれだけ関係があるかは判断できませんが、暴走する人は大抵、男らしさをアピールしたがるマッチョなタイプです。また、自分の能力を完全に信じていて、平気で危険を冒したがる若い男性です。彼らは自分の能力を過信し、他人を顧慮せずやりたい放題なのです。

swissinfo.ch : どうすればこの問題を解決できると思いますか。

オーバーホルツァー : わたしが知る限りでは、暴走する若い男性は仕事における展望が特になく、あまり社会に溶け込んでいないタイプの人です。これは、問題を解決するための最初のポイントになります。また、若い男性はなぜこのような危険を冒すのか考えながら自動車の宣伝を見ると、宣伝が暴走するように促しているのではないかと思うのです。

swissinfo.ch : では、問題を解決するには自動車の宣伝に規制が必要だということでしょうか。

オーバーホルツァー : 既にアルコールやタバコの消費を防止するために、宣伝内容が制限されています。今日では、楽しく愉快なときにタバコを吸うシーンや、タバコと快楽を結び付けて宣伝することが禁止されています。自動車の宣伝を見ると、ステータスや男らしさを表すシンボルとして自動車を美化しているところがあります。

swissinfo.ch : それでは自動車の宣伝を禁止するべきでしょうか。

オーバーホルツァー : そうは言っていません。わたしはただ、宣伝内容に規制を設けることで、自動車の暴走を防止できるのではないかという提案をしているのです。

swissinfo.ch : タバコの宣伝に規制をかけたように、自動車の宣伝においても「自由な感覚」を伝えることを禁止するということですか。

オーバーホルツァー : 場合によっては、ほかの人を危険に巻き込むことなく、また環境を破壊することなく、A地点からB地点まで自動車で移動するという、本来、人が自動車に対して求めている条件を満たすだけの宣伝に制限することができると思います。

swissinfo.ch : あなたは自動車を利用することに反対ですか。

オーバーホルツァー : わたしは、交通機関を利用することにも、自動車を利用することにも反対していません。ただ、人口が集中していて、交通機関が充実している地域で、自動車を利用することが理に適っているか疑問に思うのです。

swissinfo.ch : 自動車産業界は宣伝の制限を受け入れるでしょうか。

オーバーホルツァー : それは難しいと思います。

swissinfo.ch : 自動車の暴走が絶えない問題を解決の方向へ導くために、ほかにどのような策がありますか。

オーバーホルツァー : 運転免許証をすぐに交付せずに、最初は仮運転免許証を発行するという対策があります。この規則は既に導入されています。また、自動車に制御機能を設置する方法も議論されています。

swissinfo.ch : それはどういうことですか。

オーバーホルツァー : GPSを利用して、走行中の自動車の速度を操作するテストが行われています。自動車が走行中にある地点に達したときに、エンジンの回転数が減少するように自動車の外部から直接操作する実験が行われています。

swissinfo.ch : 実現すれば革命的ですね。

オーバーホルツァー : しかしこの方法によって交通事故に関する全ての問題を解決できるわけではありません。たとえ時速50キロで走行しても、子供を轢 ( ひ ) いてしまうことだってあるのですから。ただ、この対策は少なくとも自動車の暴走を防止するには効果的だと思います。

swissinfo.ch : これは実際、政策を取る上で実現可能でしょうか。

オーバーホルツァー : それは実際どうなるかまだ分かりません。自動車はわたしたちの社会では尊重され、侵し難い存在になっています。法律改正の提案がある度に強い反対意見がでてくるのです。自動車業界のロビーの権力は侮れません。

10月末、オルテン・ゲースゲン ( Olten-Gösgen ) で行われた裁判で、シェーネンヴェルト ( Schönenwerd ) の一般車道でカーレースを行った3人の若い男性の被告に対して判決が下された。3人は、2008年にソロトゥルン ( Solothurn ) の街中で自動車のレースを行った。一番先頭を走行していた被告が、交通規則通りに一般車道を走行していた自動車に衝突し、その自動車に乗っていた当時21歳の女性が死亡した。
事件の主犯となった被告人は、未必の故意による殺人で懲役5年8カ月の実刑判決が言い渡された。残り2人の被告は、過失致死で起訴されたが無罪となった。一方、道路交通法違反で起訴された別の裁判では有罪となり、 一部執行猶予付き懲役28カ月の禁固刑を受けた。

2005年末よりスイスで自動車運転免許証を取得する場合は、最初に仮免許期間が課されるようになった。正式な免許証は、3年間の仮免許期間が終了し、規定の講義を再受講したことを免許証申請の際に証明した後に発行される。

( 独語からの翻訳、白崎泰子 )

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