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近親相姦は罪か?

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近親相姦を刑罰の対象から除外しようと、連邦政府は刑法の改正を検討中だ。保守派の政党は理解を示さず反対している。これについて集団遺伝学の専門家に聞いた。

近親相姦が犯罪でなくなることに国民の心は揺れている。これは刑法上の問題でなく、文化に深く根ざした性道徳の問題だからだ。また、近親相姦の回避なくして人類の発展はなかったとの声もある。

対立する意見

 近親相姦が刑法から除外されると、血縁関係にある成人同士の合意の上での性交渉は罪に問われなくなる。これを支持する連邦政府の見方は、近親相姦の禁止にはあまり意味がなくなったというものだ。公式な統計によると、1984年から2007年の間に判決が下された近親相姦に関する裁判は年間で平均3、4件程度だった。

 これについて、チューリヒ大学進化生物学・環境学部の集団遺伝学教授ホマヨウン・バンゲリ氏に話を聞いた。

swissinfo.ch : 近親相姦の禁止を刑法から除外しようとする動きへの批判がありますが、この批判を理解できますか?

バンゲリ : はい、基本的には。このような重要なテーマについてスイスという代表的な民主主義国家の中で議論するのは、必要不可欠なことだ。

swissinfo.ch : 近親相姦で生まれた子どもには病気に対する低い免疫力および抵抗力、短命、限られた生殖能力といった大きなリスクがあるという反対意見について、自然科学者としてどう思いますか?

バンゲリ : 生物学的な視点は重要だ。近親交配の程度によっては、特定の病気にかかる可能性が高くなり、子孫を残しにくくなり、長生きできなくなる。

しかし、この程度には差がある。中東やアジアには、いとこ同士の結婚や性交渉が問題視されない社会もある。生物学的に見ると、いとこ同士の場合ではその子どもの死亡率は普通の場合よりも1%から4%高い。

親子間、兄弟姉妹間の近親相姦では、同じ遺伝子が約半分を占めると考えられ、遺伝性の病気のリスクが非常に高くなると思われる。一方、いとこ同士ではそれがせいぜい8分の1までにとどまる。共通の遺伝子が多ければ多いほど、問題が起こる確率は高くなるということだ。

swissinfo.ch : 近親相姦の回避なくして人類の進化はなかったという主張をどう思いますか?

バンゲリ : やや誇張しているように思う。過去5万年から10万年間の歴史の中で近親相姦がもっと盛んに行われていたら、進化や社会の発展の仕方は今とは違っていたかもしれない。しかし、そのために人類は発展しなかったということはないだろう。

近親相姦が今以上に多く見られた発展段階もある。例えば、人口のかなり少なかった氷河期や孤島でなどだ。

swissinfo.ch : 近親相姦の禁止撤廃に最も激しく抵抗しているのは国民党 ( SVP/UDC ) 、キリスト教民主党 ( CVP/PDC ) 、福音国民党 ( EVP/PEV ) です。これらの党は「家族制度の保護」を訴えていますが、この主張を理解できますか?

バンゲリ : 基本的には。近親相姦について語る際、遺伝的なリスクがあるという生物学的な側面だけで考えるべきではないからだ。

親子間や兄弟姉妹間の近親相姦に関して、よく成人同士の合意の上での行為だと言われる。しかし、注意は必要だ。こうした近親相姦では、一方が子どもの時から始まっていることがあるからだ。親または兄や姉が性的な圧力をかけていることもある。

swissinfo.ch : つまり、近親相姦を禁止するということは、優生学上の理由からというよりは、倫理的、道徳的、社会的な意味合いが強いということですか。

バンゲリ : 最も重要なことは、この二つの観点を乱暴に混同しないことだ。優生学的な問いと倫理的、社会的な問いが一緒くたにされることがこれまでによくあった。これは良くないことだ。第2次世界大戦中のナチズムがその良い例だ。

どんな時でも、科学と倫理はまず分けて考えなければならない。それから、双方を社会の中で統合するよう試みるべきだ。しかし、これはそう簡単なことではない。

swissinfo.ch : 道徳的な主張か価値観の変化か。どちらを支持しますか?

バンゲリ : その質問には科学者としてではなく、一個人として答えたい。親子間や兄弟姉妹間の近親相姦では力の不均衡がよく見られると思う。

子どもや年下の相手を守るためには、おそらく今後も ( 近親相姦を禁止する ) 法律がある方が良いのではないかと思う。

国民党 ( SVP/UDC ) 、キリスト教民主党 ( CVP/PDC ) 、福音国民党 ( EVP/PEV ) は、近親相姦の禁止を刑法から除外するという連邦政府の方針に対し、憤りを見せている。

国民党はこの提案を論外とし、近親相姦の禁止は何世紀にもわたりスイス社会やその文化の中に定着していると主張。

キリスト教民主党と福音国民党は家族制度の保護を訴え、近親相姦は今後も罪とすべきだという考え。

急進民主党 ( FDP/PLR ) は連邦政府の提案に賛成の立場を表明してはいるが、連邦政府の統計の捉え方は一面的すぎると批判している。

社会民主党 ( SP/PS ) は反対はしていないが、他党の激しい抵抗を目の前にして、不支持の態度をほのめかしている。

近親相姦に対する反応はさまざま。

1942年に刑法が施行されて以来、スイスでは近親相姦は罰せられている。それ以前、ジュネーブではフランスの習慣にならい、近親相姦は罪ではなかった。

フランスでは仏革命後、近親相姦は罪に問われなくなった。イタリアも同様だったが、近親相姦が公のスキャンダルになると再び処罰の対象になった。

近親相姦を厳格に罰する国もある。ドイツの連邦憲法裁判所は近親相姦を憲法上で禁じており、スイスと似た規制を行っている。

( 独語からの翻訳・編集 中村友紀 )

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