スイスの視点を10言語で

くしゃみが出たらまず…

エキナセアはドイツ語で「日よけ帽 ( Sonnenhut ) 」と呼ばれる imagepoint

立春が過ぎたとはいえ、2月もようやく中旬を迎えたばかり。気温は低く、空気も乾燥したままだ。風邪をひきやすい環境はまだしばらく続く。

「はくしょん!」とくしゃみが出たらすぐに薬を…。いや、そうとばかりは限らない。自然の力を借りた代替医療「フィトセラピー ( 植物療法・phyto therapy )」 を試してみてはどうだろう。
 

エキナセアで免疫力を増強

 「ノバルティス ( Novartis ) 」や「ロシュ ( Roche ) 」といった世界的な医薬品会社を抱えるスイスだが、一方では薬草を使った治療、フィトセラピーも古くから伝わる。薬局に入ると、「A.フォーゲル ( A.Vogel ) 」や「薬草牧師キュンツレ ( Kräuter –Pfarrer Künzle ) 」といった会社の薬がごく当たり前に置かれている。これらは伝統的なフィトセラピーの薬メーカーだ。

 チューリヒ市内にある薬草処方の老舗「ベルク薬局 ( Berg Apotheke ) 」の経営者、アンドレアス・レンヘア氏によると、例えば咳やのどの荒れにはバーネットサクシフリジ ( Pimpinella majorおよびPimpinella saxifraga ) から作ったハチミツが昔からよく使われてきたという。

 ベルク薬局ではまた、のどが痛いときにはスグリのつぼみから作った液体を口の中にスプレーしたり、日ごろからエキナセア ( 同Echinacea purpurea ) で免疫力を高めたりすることを客に勧めることも多い。
「 ( 風邪がこじれて前頭が痛くなる ) 前頭洞炎にかかった場合は、ユーカリオイルを入れた熱湯の蒸気を吸入するといいですよ」
 とレンヘア氏。

 しかし、わざわざ薬局で売られている製品を買わなくても、家にあるもので治療することもできる。すでに風邪をひき、発熱するまでになってしまったら、酢を混ぜたぬるま湯 ( 酢1:水4 ) にタオルを浸してそれを両ふくらはぎに巻きつけると下熱作用がある。また、シナノキの花の熱いお茶に発汗作用があることもよく知られている。

発展を続けるフィトセラピー

 
 仕事や育児でどうしてもベットに入って休めないとなると、つい医薬品に手を出してしまいがちだ。レンヘア氏によると、フィトセラピーの利用者は小さい子どもがいる家族と幼いころから薬草に慣れ親しんできた高齢者が特に多い。まず薬草や代替医療での治療を試み、あまり効き目がなかったら西洋医学の薬を服用するという人が65%以上に上るという。

 「フィトセラピーでは、症状を化学の力で押さえつけるようなことはしません。そのため、効力が発揮されるまでに少し時間がかかります」
 だが、その代わりに副作用が少なく、利用者から受け入れられやすい。

 とはいえ、まったく危険がないわけではない。例えばHIV感染者や臓器移植をした人、あるいは免疫抑制剤を服用しなければならない人は、セイヨウオトギリソウ ( ヨハネスクラウト ) やエキナセアを服用することはできない。
「医薬品の効能を下げ、望ましくない拒絶反応を起こす可能性があるからです」

 昨年5月の国民投票で、代替医療は連邦憲法で医療として認められ、健康保険でカバーされる領域もこれから増える見込みだ。中世の修道院ですでに用いられていた薬草治療は、今もまだ発展を続けている。
「クソニンジン ( Artemisia annua ) からマラリア治療用の物質が抽出されたり、タイヘイヨウイチイ ( Taxus brevifolia ) から癌の治療に使える物質が発見されたりしています。また、スズランからもアルツハイマーの進行速度を抑制する物質が抽出されました」

小山千早 ( こやまちはや ) 、swissinfo.ch

薬草を利用して、疾患や心身の不調を治療したり、緩和したり、予防したりする方法。スイスでは代替医学のほか西洋医学の分野でも用いられている。

レンヘア氏によると、現在フィトセラピーは向精神薬としても盛んに利用されている。特に需要が高まっているのが、軽中程度の欝 ( うつ ) に効くセイヨウオトギリソウ ( ヨハネスクラウト ) だ。その効能は化合物と変わらないことが数多くの調査で証明されている。医薬品の服用ではときに重度の副作用があるが、この薬草には副作用もないという。

また、免疫力を高めるエキナセア ( Echinacea purpurea ) のほか、良性の前立腺肥大に効くノコギリヤシ ( Serenoa Repens ) 、耳鳴りがするときの脳の血行改善、偏頭痛、物忘れ、手足の震え ( パーキンソン病 ) などに用いるイチョウの人気も高まっている。

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部