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大麻の非合法栽培に反撃

すべて合法?ヴァレー/ヴァリス州マルティニー ( Martigny ) 近郊で大麻を収穫。その繊維は繊維製品、縄、紙の製造に利用される Keystone

ザンクトガレン州は大麻の非合法栽培の取締り強化に乗り出した。今後10本以上の大麻を栽培する場合は、当局に申し出なければならない。

これを怠ると、収穫は差し押さえられ処分される可能性もある。

立証の負担が逆に

 何事においても量が肝心。それは大麻も同じだ。大麻は何千年も前から知られている有用植物であり、薬草でもある。スイスでは1951年に制定された麻薬取締法によって、テトラヒドロカンナビノール ( THC ) と呼ばれる、酩酊をもたらす物質の含有率が0.3%を超える大麻の栽培は禁止されている。

 しかし抜け目のない人はどこにでもいるもので、彼らはこれまでTHCの含有率が許容量を越える「強い大麻」を「喫煙用ではない」とか「育てている種が非合法だとは知らなかった」とかと言い訳をしながら栽培してきた。

 だが、そんな言い逃れももうできない。少なくともザンクトガレン州では。
「栽培者には申告義務が課せられ、大麻の合法的な利用を証明しなければならなくなりました。私たちの仕事はこれで大幅に軽減されます」
 と言うのはトーマス・ハンスヤコプ検事だ。

 「この申告義務を怠っただけでも、当局は当事者の大麻を差し押さえ、処分することができます。その大麻が麻薬として利用されることを証明する必要はありません」

 この申告義務はザンクトガレン州の新しい公衆衛生法、つまり今年初めに発効した条例に明記されている。これまで立証で不利な立場に置かれていたのは検察側だった。当局は、栽培者が非合法の利用目的で大麻を栽培していることを証明しなければならなかったのだ。ハンスヤコプ氏によると、ときには立証が難しいケースも出たという。

合法栽培に直接支払制度

 しかし、これまで規制以下のTHC含有率しかない大麻を栽培してきた人にとっては、新たに申告義務が設けられたといっても以前とあまり変わったことはない。
「栽培許可が下りている種の栽培には補助金が下りるため、彼らはこれまでも申告をしていたのです。ただ、申告書に記入する項目がいくらか増えただけですよ」
 とハンスヤコプ氏。

 非合法の大麻栽培に対し、申告義務を課して攻撃に転じた州はザンクトガレン州ばかりではない。これまでにトゥールガウ州、バーゼル・ラント準州、グラウビュンデン州、ルツェルン州もすでに申告義務を導入した。一方、ベルン州では2008年に州政府が申告義務案を却下している。

「ターボ」インドア栽培

 当局の調べによると、スイスでは近年、麻薬製造に適した種の大麻の栽培が激増している。軽い麻薬として消費される大麻は今では野外栽培ではなく、ほとんどがいわゆる「インドア」設備で栽培されている。集中的な照明と肥料とで、未受精のメス花は20%以上のTHC含有率を得ることができるのだ。

 2002年に行われた調査によると、20歳から24歳までの若い男性の45%は最低1回は大麻を吸った経験があるという。同じ年齢層の女性でも31%が大麻消費を認めている。

 専門家はこれまで、大麻の消費は人体にそれほど有害ではないという見解だった。そのため、軽い麻薬の消費の合法化を支持する人は増加し続けた。しかし現在は、大麻の消費によって精神に異常をきたすことがあり、法的には「軽い麻薬」と位置づけられている大麻にも害がないわけではないという見方が一般的になってきた。

 このような意識の変化が2008年末、スイスの有権者に大麻消費の合法化を求めるイニシアチブを一蹴させることとなった。このイニシアチブは左派・緑の党のみでなく、中道の政治家からも支持されていた。

レナート・キュンツィ 、swissinfo.ch
( 独語からの翻訳、小山千早 )

大麻消費の合法化は左派政治家の長年の関心事であり、中道のハト派政治家からも支持されている。

2000年代に入り、麻薬取締法改正によって風穴が開くかに思われたが、2004年、連邦議会は政府の提案を否決した。

その後、2006年にある委員会が大麻消費の合法化を求めるイニシアチブを提議。しかし、連邦政府および連邦議会はこれを却下した。

2008年11月に行われた国民投票では、有権者も「ノー」と判断。これにより、当分の間このテーマが取り扱われることはなくなった。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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