ナビゲーション

ナビゲーションへ

グローバルメニュー

28番目のEU加盟国 美しさと紛争の傷跡の地、クロアチア

地中海の最も美しい町の一つ、ドゥブロヴニク。1979年ユネスコの世界遺産に指定された

(Keystone)

7月1日、クロアチアが欧州連合(EU)に加盟する。美しい自然に恵まれた文化的にも豊かな国。しかし紛争から20年を経た今でも、その傷は癒えていない。絶景のドゥブロヴニクから紛争の傷跡残るヴコヴァルまで、7日間1000キロにわたるクロアチア旅行記の一部を紹介する。

 「ドゥブロヴニク(Dubrovnik)を見ずして、天国を語る無かれ」とは、1929年のバーナード・ショーの言葉だ。ダルマチア地方(Dalmatia)沿岸の、緑の自然とコバルトブルーの海に囲まれたこの「地上の天国」は、石の街だ。数世紀にわたり人間の手で石が切り出され、加工され、積み上げられて出来た街。飾らない美しさの石材が堂々たる姿で、教会、宮殿の城壁、ゴッシクやバロック様式の石像に使われている。

 「この街は観光があるからこそ成り立っている」と言い切るのは、空港でレンタカーを手配するペロさんだ。「冬には国内線の発着が1日3便あるだけだが、夏にはヨーロッパ中から50~60便が到着する」しかし、ここを訪れる観光客が目にするのはドゥブロヴニクの街の美しさだけではない。この街は1991~95年の旧ユーゴスラビア連邦に対する独立紛争時の苦しみを、風化させまいとしている。

 

 まず、城壁ツアーの最初の観光スポットで音声ガイドから流れてくるのは「セルビア・モンテネグロ勢力による残忍な攻撃」を語る解説。他の観光スポットでも繰り返される。全ての街の入り口には、紛争中に砲弾を受けた場所や、火災、倒壊した建物を示す詳細な地図。それから114人の犠牲者の肖像写真を展示するギャラリーもある。

 クロアチアの最南端に位置するこのドゥブロヴニクから、1165個の島を持つ沿岸を北上する。なんという美しさだろう!。ここではロシア人投資家が隣国モンテネグロに強引に建設したコンクリート製のホテルなどは見られず、ほとんど手つかずの自然が残っている。観光客は民家に泊まることが多い。

 「私たちは金がないという幸運に恵まれていた」と皮肉を込めて話すのは、スイス外務省開発協力局(DEZA/DDC)でエンジニアをしていたゼルコ・イェンブリさん。一方、ザグレブにあるスイス大使館のデニス・クノーベル大使は、より外交的に「紛争が観光の発達を遅らせてしまった」と言う。前出のペロさんは、EU加盟を機に投資家が集まり、雇用が拡大して給料も上がるのでは、と期待している。現在ペレさんの月収は700ユーロ(約9万1千円)だ。

クロアチア 砲撃された世界遺産の町、ドゥブロヴニク

セルビア軍が地中海の美しい町ドゥブロヴニクを爆撃し始めた1991年の晩秋、欧米諸国はやっとバルカン半島で何が起こっているのかを理解した。2千発の砲弾がこのユネスコの世界遺産の町に落とされた。 ...

犠牲になった都市

 ボスニアへと続く幹線道路沿いの都市、クニン(Knin)。紛争前、住民の大半はセルビア人だった。クロアチア王国の首都であったクニンは、短命国家クライナ・セルビア人共和国の首都となる。その後、クニンはクロアチア軍により再び制圧されるが、それまでにクニンから逃れていたセルビア人のほとんどは街に戻ることはなく、ボスニアのクロアチア人が流入した。

 クロアチア、ボスニア、コソボはどこも同じ歴史をたどった。住民は紛争中に国内外へ散り散りに追い払われ、闘いが終わり一度国境が定まってしまうと、その国境を越えて旧敵の地に戻る人はほとんどいない。その状況下では、人が去った住居を再び割り当てることは容易ではない。

 街の中心地では、閉塞感が漂う。工事のため大きく穴の開いた駅前通りのカフェで働く若いマリアさんに、EU加盟に何を期待するかと聞いたところ、返って来た返事は一言、「何もありません」。では投資家への期待は?「所詮お金の行き先は決まっています・・・」。カフェから2軒先の荒廃した建物群の中にある、一軒の人目を引くオレンジ色の家が、スイスの援助で再建されたことを彼女は知っているのだろうか?

 

 紛争後、スイス開発協力局は2400万フラン(約25億円)をこの地域の再建に投じた。その資金は、家屋の建て直し、用水路の整備、農業協同組合の支援、または救急車の購入に充てられた。だが、今ではザグレブにコンサルタント会社を構える前出のゼルコさんは、援助資金が使われた優先順位を疑問視する。「まずは工場を再建するべきだった。人々には寝るところがあったのだから、新しく家を与える前に、勤め口を再確保する必要があった」ここクニンでは、先行きは暗い。

 

 そこから、別の道を行く。アドリア海沿岸から低いディナル・アルプス山脈を横切り、スラヴォニアの大平原へと続く道だ。その道の行き着く先に、セルビアと国境をなすドナウ川に河港を持つヴコヴァル(Vukovar)がある。スレブレニツァの虐殺が起こる4年前の1991年夏、第2次世界大戦以来ヨーロッパ史上で最悪と言われる激戦を見た街だ。

 今日では再建のため多額の資金が投入されたことが分かる。記念建造物などは真新しいが、当時の建物の外壁には生々しい戦闘の傷跡が残る。かつてドナウ川の対岸を行き来していたフェリーは、たったの1度しか運航されていない。自国の犯した20年前の過ちを謝罪しに、2010年11月セルビアのボリス・タディッチ前大統領が訪れたときだった。

スイスとクロアチア

経済関係:取引額は小額で下降傾向にあり2011年度3億フラン(約306億円)。スイスは主に医薬品、機械類を輸出し、機械類、木製品を輸入している。

 

欧州連合(EU)加盟支援:スイス政府は4500万フランの支援を連邦議会に提案の予定。2004年以来新しくEUに加盟した12カ国への支援額に応じている。

移民:スイスに住むクロアチア人は約4万人。クロアチアに住むスイス人は1300人以上で、大半がクロアチア人女性と結婚した男性。

民族大移動は目前ではない:クノーベル大使によると「若者の間で潜在的な移住の可能性があるとしても、専門家はEU加盟後クロアチア人が大量に国外流出するとは見ていない。近年スイスに移入するより、移出するクロアチア人が多いことを見ても、クロアチアの人口は安定して保たれると思われる」

それでも慎重に:クロアチアがEUに加盟しても、加盟国でないスイスとの間で自動的に人の往来が自由化されるわけではない。スイスと新規EU加盟国との間で2国間協定が結ばれるかどうかによる。これまでにルーマニアやブルガリアとの自由化拡大に反対するレファレンダム(最終的に国民投票で賛成6割で可決された)を起こした国民党やその他の右派は、クロアチアに関しても反対の構えだ。

インフォボックス終わり

崩壊した経済

 ヴコヴァル周辺では、至る所で紛争の傷跡が目に付く。廃墟と化した農場や工場、荒れ放題の農地、人のいなくなった村。旧ユーゴスラビアの穀倉地帯であったスラヴォニアは、今ではクロアチアの平均的な生活水準を下回る。

 ゼルコさんは「実にもったいない」とため息をつく。「スラヴォニアは死んだも同然だ。国内需要の5倍もの農作物を生産出来るというのに、農業従事者は高齢化し、若者は村を出て行く。しかし、(それに歯止めをかけようとするどころか)輸出入に従事する強力な圧力団体が地元の農作物を買い上げ、EU内で非常に高く売りさばいている」

 では今回のEU加盟による影響は?「更に損失が出るだろう」と、このエンジニアは答える。ゼルコさんは2012年の(EU加盟の是非を問う)国民投票で反対票を投じた。「EUは脅しをかけてくる。ハンガリーが良い例だ。まるでEUの奴隷になったようだ。それにブルガリア。良質の果物の生産国だったのが、今では輸入しなければならなくなっている」

 一方クノーベル大使はそれほど悲観的ではないにしろ、こう指摘する。「独立と同時に旧ユーゴスラビア国内市場を失ったクロアチア経済は、国外からの影響に抵抗できない状態にある。国は構造改革に着手してはいるが、早急にその競争力を拡大しなければならい。政府は、EU加盟に際する財政支援(スイスも一部負担する)により、2014年の経済回復を期待している」

 「だが、外国からの投資が増えたとしても、その利益は再び国外に出て行く。私たちに何のメリットがあると言うのだ」と、ゼルコさんは問いかける。彼はまた、国境が開かれることによって、より能力のある人たちが国外に出て行くだろうと考えている。だが彼はその一人ではない。同僚のイゴー・ススティッチさんも同様だ。二人とも「私たちは楽天家ではない。ただ働くだけだ」ときっぱり言う。

 これはクロアチアに広く共有された感情のようだ。この7日間で出会ったネヴェンカ、ズドラヴコ、アナ、といった名の学生やウエイトレス、店主など、ごく一般の人々でヨーロッパやスイスの黄金郷を夢見る人はいない。EUに懐疑的、または明確に反対する若者たちは、まず何と言ってもクロアチア人なのだ。そしてクロアチア人は自国をこよなく愛する人たちなのだ。

汚職問題:改善の余地あり

「6年以上にわたる加盟交渉で、クロアチアはこれまでの加盟候補国の中でも最も厳しい条件を要求された」とザグレブのスイス大使は言う。「欧州委員会(EC)は、司法、法による支配の徹底、汚職防止、などの項目を追加した。クロアチアはまさにこの分野で大きく進歩したと言える。これまでに、ある時期の政治家とあるカテゴリーの経済界トップが逮捕された。もちろんこれは氷山の一角に過ぎず、下級レベルや経済下部組織での問題も残るが、ECは同国の汚職防止のプロセスは信頼できる、と言っている」

 

実際にECは、クロアチアに関するモニタリング最終報告書(2012年10月)の中で「司法の枠組みが確立されており、特に上層部での法適用を担う各機関は活発に機能している」としている。

だが一般市民は、欧州法に倣って制定された国内法がより厳格に適用されることを期待する。「クロアチアには優れた法律がある。しかし的確に適用されていない」と言う声が多い。

国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナル(TI)が発表した2012年腐敗認識指数では、クロアチアはスコア46点で対象174カ国のうち62番目に腐敗度が低い(腐敗度が高い0点~腐敗度が低い100点)。隣国スロベニア(37位、61点)より腐敗度が高いが、その他の旧ユーゴスラビアからの独立国や、主な貿易相手国であるイタリア(72位、42点)より腐敗度は低い。

インフォボックス終わり


(仏語からの翻訳 由比かおり), swissinfo.ch

Neuer Inhalt

Horizontal Line


subscription form

ニュースレターにご登録いただいた方に毎週、トップ記事を無料で配信しています。こちらからご登録ください。

ニュースレターにご登録いただいた方に毎週、トップ記事を無料で配信しています。こちらからご登録ください。