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新型コロナ なぜスイスでは外出の「自粛」を「勧告」なのか?

Residents on the balconies of an apartment building in Geneva during coronavirus outbreak
新型コロナのパンデミック(世界的流行)を受けて、スイス連邦政府は全住民に対し、外出を自粛するよう強く勧告している。ジュネーブでは、ベランダで過ごす人の姿も見られる。 Stephan Torre

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)拡大へのスイスの対策について、swissinfo.ch各国語の読者から多くの質問が寄せられている。そこで今回の新型コロナQ&Aでは、連邦政府が打ち出した「社会的距離」ルールと、それに対する住民の受け止め方を取り上げる。 

スイスでは、全国で拡大する新型コロナウィルスの感染を抑制するため、連邦政府が段階的に措置を強化してきた。連邦内閣は、公共のスペースで5人を超える人が集まることを禁止し、全住民に対し、外出自粛を勧告する。しかし、これらの勧告は曖昧な部分があり、解釈に幅ができてしまうとの指摘が読者から出ている。

連邦内閣は全ての住民に対し不要不急の外出を自粛するよう強く求めている。特に、重症化リスクの高い65歳以上の高齢者と基礎疾患のある人には、可能な限り外出を控えるよう呼び掛けている。しかし今も、テレワークができない従業員の通勤や医者の受診、スーパーや薬局での買い物、他の人を助けるための外出は可能だ。

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このコンテンツが公開されたのは、 ​​​​​​​ 人口880万人のスイスで、当初「握手や挨拶のキスを避ける」だけだった勧告は、今や「できるだけ外出させない」ための措置に変わった。新型コロナウイルスの流行を収束させるには何が許されて何が許されないのか、国民も困惑している。

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連邦内閣は、フランスやイタリアなど近隣諸国のように外出禁止令を出すことまではしていない。例えば、フランスで外出する際には、外出理由を記した文書を携行しなければならない。さもなければ、高額の罰金を科される。 

保健行政を担当するアラン・ベルセ内相は記者会見で「政府の決定が厳しすぎるとして人々があまり順守していない、という事態が他の国ではみられる」と指摘。行動制限が長期化することを前提に、人々が長く守れるルールでなければ意味がない、と説明した。

 さらに、「これはとてもスイス的なアプローチだ」とした上で、「人々が受け入れられない制限を連邦内閣が課すことはない」と明言した。 

その一方で、ベルセ内相は、政府の措置を真剣に受け止めるよう人々の市民意識と責任感に訴えた。 

スイス公共放送協会(SRG SSR)の委託を受け、世論調査会社ソトモが実施し、24日に発表した調査によると、調査対象者の圧倒的多数がその前の週末に外出したと回答した。しかし、その多くが接触した相手は4人以下だったと答えた。65歳以上の高齢者で外出自粛の措置を厳格に守っていると回答した人は約25%にとどまった。

新鮮な空気を吸うために外出することは禁止されていないスイス保健庁感染症班のダニエル・コッホ班長は、1人で出るか、同居する家族と出掛けるよう勧めた。また、他の人と2メートル以上の距離を空けることが推奨されている。 

親が自分の子供をサイクリングに連れ出すこともできる。しかし、子供達は5人を超えるグループで遊んではならないと保健庁は注意を促す。高齢者は子供とのあらゆる接触を避けなければならない。

連邦内閣は全ての学校に対し、少なくとも4月19日まで休校するよう命じた。しかし、保育園に対しては、事業を続ける、あるいは代替の保育サービスを提供するよう要請した。

その違いの理由は、義務教育かどうかだ。スイスでは幼稚園から中学校までは義務教育であるため、開校している限り親は子供を学校に行かせなければならない。一方保育園は義務ではないため、開園していても親が自粛することができる。また保育園の運営は州の専権事項で、政府は閉園を強制できない。

政府は当初、「新型コロナに感染した場合に重症化するリスクの高い65歳以上の高齢者が孫の世話をする状況を避けるため」幼稚園以上も休校にしない、と表明していた。だが子供が媒介して感染が広がるリスクを重く見て、3月13日に全国休校に切り替えた。 

ただ保育園への預け入れについては、医療やライフラインに関わる仕事をしているため、自分の子供を自宅でみることができない親に配慮している。保育園の中には、そのような親を持つ子供を優先的に預かると決めたところもある。

 しかし、状況は州によってさまざまだ。託児所の中には、基礎自治体や州の決定に従って閉鎖しているところもあれば、多くの親が自宅で子供をみることを選んだために、ニーズが無くなり、閉めているところもある。ベルン州の保育園や託児所のように事業を続けているところは、1グループの子供の人数を最大5人など制限しなくてはならない。

65歳以上の高齢者や基礎疾患のある人は特に外出を控えるよう連邦内閣は勧告している。保健庁のコッホ班長はさらに、高齢者は自分でスーパーマーケットに出掛けるのではなく、食料の買い出しは親戚や近所の人などに助けを求めるよう勧める。

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新型コロナ拡大 自治体が高齢者を支援するサービス開始

このコンテンツが公開されたのは、 スイス南部のベリンツォーナでは、高齢者や高リスクの人々に代わって買い物に行くサービスが始まった。新型コロナウイルスのために自宅に留まるよう指示された人々が、孤独に陥ることなく身を守れるようにするのが狙いだ。

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地元メディアの報道によると、新型コロナの感染拡大が特に深刻なティチーノ州では、大手スーパーのミグロが65歳以上の高齢者は入店させないと発表した。 

しかし、スーパーに出掛けないようにとの政府の勧告は、外出を禁止するものではない。スイスの中心的な高齢者支援団体、プロ・セネクトゥーテ外部リンクは、農村地域に住む高齢者には農家のスタンドに行くよう勧める。都会のスーパーよりは買い物客が少ない傾向にあるからだという。 

スイス全国で、リスクの高い人々を助けようとするさまざまな形のボランティア活動や支援団体が現れている。プロ・セネクトゥーテは食事の宅配サービスを行っている。また、外出自粛を余儀なくされている人々が、用事を頼んだり、インターネットや電話で付き合いを続けたりできるよう、地域社会の人々とつながるためのアドバイスをプロ・セネクトゥーテは豊富に提供している。

フェイスブック上のグループや、スイス赤十字が一部出資する「ファイブ・アップ外部リンク」などのアプリは、ボランティアと近隣で助けを必要とする人とをつなぐ手段を提供している。集合住宅の掲示板にチラシを貼るというシンプルなやり方は、手助けできる若者が近所にいることを高齢者に知らせる方法として、若者たちの間でよく使われている。

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(英語からの翻訳・江藤真理)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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