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英EU離脱問題 国民投票を民主的に行うには

スイスのジュラ州は1978年、国民投票の結果、ベルン州からの独立が決定した。地域住民は広場に集まり、独立を喜びあった Keystone

組織からの離脱は何かと物議を醸すものだ。今、欧州連合(EU)離脱の是非を問う英国の国民投票が、現代の民主制度に求められる重要な側面を浮き彫りにしている。一つは法律面、もう一つは政治的枠組みだ。ドーバー海峡からクリミア、そしてスイスのジュラ地域に至るまでの事例を整理してみた。

 英国民がEU離脱か残留かを決断することは、少なくともある点で史上初の出来事となるかもしれない。もし離脱となれば、2009年に修正が加わったEU基本条約の発効以来、加盟国の離脱に関する条項が初めて適用されるケースとなる。このリスボン条約の第50条には、「加盟国は憲法上の要請に従いEUを脱退することが可能である」とある。

 万が一、英のEU離脱が現実となっても、国民投票の結果EUに背を向けるのは英国が初めてではない。1982年2月23日、グリーンランドの住民投票では反対53%で当時の欧州共同体(EC)離脱が決定した。人口わずか5万人のこの旧デンマーク植民地は、決定の数年前に獲得した新しい自治権を行使したというわけだ。

スイスの風刺画家マリーナ・ルッツさんによるイラスト「ああ、もう一つ孤島が!」(2016年6月17日) Marina Lutz

欧州のEUに関する国民投票は60回以上

 70年代初期から現在に至るまで、欧州ではEUに関する国民投票が幾度も実施されている。72年3月23日にフランスが先陣を切り、賛成多数で当時のEC拡大を可決(68.3%)。以来、欧州各国ではEU加盟やEU統合の強化に関する国民投票が既に60回以上行われた。その中にはスイスのようなEU非加盟国も含まれる。スイスでは72年に欧州自由貿易連合(EFTA)加盟を可決してから(賛成72.5%)、欧州政策に関する国民投票が既に10回も行われている。

 スイスでも欧州25カ国でも、こういった国民投票の3分の2はEUに肯定的な結果が出ている。しかし否定的な出来事ほど一般の記憶に残るもので、例えば92年にデンマークがEU設立条約(マーストリヒト条約)を否決したケースや、スイスが欧州経済領域(EEA)協定批准を否決したケースがそれに当たる。こうしたケースが人々の記憶に残りやすい理由は、国民の意思が政府や連邦議会の方針と相反していたのと、そのことが国際的にも物議を醸したためだ。

直接民主制の専門家、ブルーノ・カウフマン Zvg

 特に政治的な組織からの脱退を問う国民投票はデリケートな位置づけにある。別の組織に加わるために脱退が必要になるケースもある。事実、近年の出来事がそれを証明している。ウクライナ南部のクリミアでは2014年3月16日に住民投票が行われ、96%の投票者がウクライナからの分離を選んだ。その20日前、クリミアの最高会議庁舎が親ロシア派武装勢力によって占拠され、首相らが解任された。住民投票を監視する欧州安全保障協力機構(OSCE)の派遣は阻止され、投票は秘密投票の原則に反して行われた。

「レファレンダムの悪用だ」

 国連はクリミアの住民投票は非合法であるため「無効」と宣言し、欧州評議会のヴェニス委員会はこの投票結果を「レファレンダムの悪用」とする一方で、ロシアはこの「住民の決断」を理由に、投票の2日後にクリミア半島を編入にした。

 その一方で、スイスの例はまったく違う。法律や領土などの自治権をめぐり、国と市民が長年対立してきたジュラ地域がその良い例だ。

 フランス語圏のジュラ地域はスイス北西部に位置し、カトリック信者が大半を占めるが、1815年のウィーン会議でドイツ語圏のプロテスタント信者が大半を占めるベルン州に編入された。過去200年間に分離派による暴動も度々あったが(1960年代初期のジュラ分離運動など)、基本的には法律に則り、また民主主義に基づき問題を解決する試みが行われた。国や自治体などあらゆるレベルで既に合計50回以上の国民投票が行われ、特に過去50年間に新たな解決策が幾度も提案された。そしてこの流れは1978年9月24日、ジュラ地域をスイスで26番目の州として独立させるか否かをめぐる国民投票で山場を迎えた。

 ところがジュラ地域の独立をめぐるこのプロセスは、この歴史的な国民投票から約40年経った今でも完結していない。2017年にはジュラ地域の複数の自治体が(ベルン州に属するジュラ地方南部の主要自治体ムーティエも含む)ベルン州にとどまるか分離して新しいジュラ州に移行するかを投票で決定する。

自由で、公正で、秘密主義

 クリミア、ジュラ地域、英脱EU問題、南スーダン、スコットランド、カタルーニャ州。独立運動がどれだけ民主的に行われるか、これらの例から学ぶところは多い。注目すべきポイントは第一に、国民投票が安定した法的枠組みのもとで行われるか否かだ。2014年9月18日に行われたスコットランド独立住民投票では、英国議会の後ろ盾があったことに対し、同年、カタルーニャ州のスペインからの独立の是非を問う住民投票は、スペイン政府の意に反し実施された。

 第二のポイントは、国民投票が行われるまでに公に討論を行う時間がどれだけ与えられるかだ。これはクリミアとジュラ地域の例でも明らかだ。

 そして第三のポイントは、分離を問う国民投票が民主的に行われるには、行政側がきちんと体制を整えているかどうかだ。秘密投票が守られ、国民が自由かつ公平に投票できるよう保証するのは、行政の役割だからだ。

(独語からの翻訳・シュミット一恵 編集・スイスインフォ)

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