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もぐもぐスイス味 その9 — モモヨ隊員と今日はトルテ —

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中央スイスに位置するツーク州 ( Zug ) の名産のサクランボ。3月末から4月初旬には日本の桜よりやや白味を帯びた花を咲かせ、6月には濃い赤で肉感たっぷりの実をつける。

日持ちがしないので、青果として売られるのはごく一部。大部分はアルコール度40度以上の透明な火酒キルシュ( Kirsch ) となる。これを使ったケーキが ツーク風キルシュ・トルテ ( Zuger Kirschtorte ) だ。

 州税が低く抑えられ、積極的に外国企業の誘致があるからだろう。富裕層が多く住むといわれるツーク。市内には多くの高層ビルが建っているのではないかとの予想は裏切られた。駅の中央口を出ると、巨大なツーク風キルシュ・トルテの看板で玄関先を飾る店が立て続けに3軒もある。ここには、キルシュ・トルテの世界が広がっていた。

ケーキでほろ酔い気分

 製造工場でのデモンストレーションをしてくれるのは「シュペック ( Confiserie Speck )」 。担当は、トルテ職人の見習い2年目のサムエル・ダロさん。赤い帽子にマフラーがすでに板についていて、職人としての誇りが伺われる。

 ダロさんによるとキルシュ・トルテの難しいところは、トルテの上下をはさむ固めのビスケット。柔らかくもなく、硬くもなく、適度に湿度を含ませるのがコツだという。ビスケットが濃い茶色であるのがシュペックの特徴だ。スポンジの部分に含ませるのは砂糖をたっぷり含んだシロップ状のキルシュで、アルコール度は33%。直径22センチメートルのトルテに1.8デシリットル含ませるのだと明かされる。

 バタークリームが、ビスケットとスポンジのつなぎの役割を果たす。どっしり感があるのに、甘くない。デモンストレーションに参加した地元の男性に「良いキルシュ・トルテとは」と尋ねると「そりゃ、あなた、好みの問題」とのこと。

 そこで、食べ比べをすべく元祖の「トライヒラー ( konditorei Treichler )」 に行った。
こちらのケーキは、バタークリームがより濃いピンク。キルシュの味がしっかり分かるし、より甘い。パンフレットに説明が載っている、スポンジにキルシュを含ませている場面の写真では、キルシュが飛び散っていて大胆だ。

…でモモヨ隊員は

 本日はパテシエ見習君の案内でキュルシュ・トルテの工場見学なのだ。若い男の子が朝から晩まで、あまあいお菓子を作っているところへお邪魔するのだ。息をしているだけでも酔っ払ってきそうなシロップタンクの部屋やトルテ作成の実演を見せてもらった後、お隣の昔風シックなカフェでトルテとコーヒーを頂く。

 トルテは周りのアーモンドの香ばしいこと。重たくって酒くさいばかりというイメージだったけれど、なかなかよろしい。

 キルシュのせいで足元、雲の上の隊長にくっついて、今度は元祖キルシュ・トルテのお店「トライヒラー」に入る。元祖! キルシュ・トルテ発祥の店と看板。でっかいカフェだあ。飲み物を注文したらトルテは自分で取りに行く。むっ。トルテに青々したお店のロゴ入りプラスチックカバーが・・・。これはいかんのう、せめて無地・透明にしておくれ。
 
 トルテは、とにかくたっぷりとキルシュ入り。バタークリームも多めだったり、全体にどっしり感がある。

 とにかくキルシュたっぷりじゃなくちゃダメというならトライヒラー。でも全体に軽めで繊細な「シュペック」が日本人向けかしらん。いや、決して若い見習君に案内してもらったからとヒイキとちゃいます。本当。

swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) & モモヨ

<シュペック ( Confiserie Speck )>
住所 :  Alpenstrasse 12, 6304 Zug
電話 :  +41 41 711 38 88
予約 :  デモンストレーションは必ず電話で予約のこと
時間 : ショップの営業時間 月〜金曜日、6時半〜19時。土曜日、7〜17時。日曜祝日、8〜12時 ( 喫茶は休業 )
メニュー : 工場でのデモンストレーションと試食は15フラン。喫茶店で各種トルテとコーヒーなら8.80フラン ( 約880円 )
予算 : 2人でデモンストレーションと喫茶での試食30フラン ( 約3000円 ) 。
行き方 : チューリヒから電車でおよそ20分。駅を出て左側の通りAlpenstrasseを徒歩で3分。広場の手前
ケーキの発送も電話で受け付けてくれる

<トライヒラー ( Konditorei Treichler )>
住所 :  Bundesplatz 3, 6304 Zug
電話 :  +41 41 711 44 12 ファクス : +41 41 710 75 32
予約 :  可能
時間 : ショップ、喫茶共に、月〜金曜日、6〜18時半。土曜日、7〜17時。日曜日、9〜17時。昼食は11〜14時。軽食は開店中いつでも可能
メニュー : ツーク風キルシュ・トルテ4.7フラン ( 約470円 ) 、ミネラルウォーター 4.30フラン ( 約430円 )
予算 : 2人でケーキとミネラルウォーターで、18フラン ( 約1800円 )
行き方 : チューリヒから電車でおよそ20分。駅を出て左のAlpenstrasse通りを右に折れて徒歩で5分
ケーキの発送も電話で受け付けてくれる

発案者はアッペンツェル出身のハインリッヒ・ヘーン。1921年にツークで製造と販売を開始した。1928年と1930年にはロンドンのパン・菓子品評会で金賞を受賞し、以後、多くの国際品評会やスイス国内で高く評価され続けている。
ヤポネーゼ底 ( Japonaisböden ) と呼ばれるビスケットがスポンジの上下を挟む。スポンジに火酒のシロップをたっぷり吸い込ませる。ビートの赤い汁でバタークリームをほんのりピンクに色づけ、パウダーシュガーを振りかけて仕上げる。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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