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スイス直接民主主義の実像に迫る   NGOが本を出版

国の大切な政策を国民の直接投票で決めるスイス. Simon Opladen/swissinfo

スイスの直接民主主義を解き明かした本が14日に出版された。

本の題は『The Guidebook to Direct Democracy in Switzerland and beyond』。欧州の非政府組織(NGO)、国民発議及び国民投票推進協会がまとめた。著者の1人で、同協会の会長も務めるブルーノ・カウフマン氏にスイスの直接民主主義にまつわる話を聞いた。

——本を出版する際、どんなことに注意しましたか。

 様々な意見を反映させて、バランスの取れた本に仕上げることを念頭に置いた。そのためにまず、どんなテーマでも国民投票でその是非を問うスイスでは、直接民主主義が生活の一部として定着していることを記しておきたかった。 

 一方、一部の州では外国人の市民権取得まで投票で決めるところもある。個人が申請する市民権取得に直接民主主義を採用することには疑問を持っているということも指摘しておきたかった。 

 この本を出版した理由は、直接民主主義を通じた国民の意思決定という政治システムをきちんと説明したかったから。近い将来、欧州10カ国で欧州憲法問題に関する国民投票が実施されることを考えたら、興味深い内容だと思う。

——スイスの直接民主主義の特徴は何ですか。

 地域によって様相が異なるので、これがスイスの決定版というのは特にない。ただ、特徴として、市民に優しい政策を決定する結果になっていると言えそうだ。 

 例えば、社会福祉の政策では、直接民主主義のプラス面が出ていると思う。何が必要なのかという問題意識が国民の中にあって、消費者というよりは市民としての立場で判断した結果が反映している。

——直接民主主義は意思決定が遅いという批判には、猛然と反論していますね。

 直接民主主義を実施しているために、国の意思決定に時間がかかるということで、即、このシステムはよくないとは言えない。政策を熟慮することなく、即断して1つの方向に突っ走れば、反動として、何も考えずに逆方向に転換する場合もありうる。 

 だが、直接民主主義を採用しているからといって、その国民が他よりも優れているということではない。国のシステムが直接民主主義をもとに機能しているだけの話であって、問題はそれをどう活用しているかだ。  

 直接民主主義に参加する機会が増えれば増えるほど、社会問題に対して国民の問題意識も高まり、国にとっても健全な状態となるはずだ。

——投票率は40%と、投票者数は少ないという現実がありますが。

 スイスの直接民主主義がやり玉に挙げられる時によく聞く議論だ。ある調査によると、有権者の約20%は毎回投票し、約20%は過去一度もやったことがない。

 でも残りの60%は自分達が関心を持つテーマが是非を問われれば、投票に行くという結果が出ている。平均すると、スイス人は他の国民に比べ、半数以上が政治的決断のプロセスに参加していると言えるのではないか。

 直接民主主義は、神秘的なものでも古臭いものでもなく、近代的できちんと機能する政治システムだ。

 
 スイス国際放送  ウルス・ガイザー   安達聡子(あだちさとこ)意訳 

本の紹介:


本の題『The Guidebook to Direct Democracy in Switzerland and beyond』。

欧州のNGO「国民発議及び国民投票推進協会」(本部・アムステルダム)が英語で出版。

スイス外務省の外郭団体プレゼンス・スイスでも購入可。

定価50ユーロ(約7,000円)。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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