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スイス観光局 グリーン作戦

エンガディン地方の美しい景色は、観光客を呼び寄せるには格好の要素

今年の夏あなたは、金採掘に行きますか? スイスではお化けに会うこともできます。それとも、自分の時計を作ってみようと思いませんか?

このような誘いは、スイス政府観光局が今年仕掛けた呼び物の一部。金融・経済危機のさなかだが、スイスに観光客を呼び入れようと観光業界は必死だ。最近のプロモーションビデオによれば、山の掃除のヘルパーになることもできるという。

スイスに忠実な観光客

 4月3日、ルツェルンで開催されたスイス観光振興年次総会「ホリデー・デー」で観光局の最高経営責任者 ( CEO ) のイェルク・シュミット氏は
「スイスを訪れるお客様にすばらしい体験をしてもらうため、全力を尽くすということです」
 と言う。値引きをするのではなく、観光客に可能な限り最高のサービスを受けてもらうことが目的だという。

 サンモリッツの最高級ホテル「バドルッツ・パラス ( Badrutt’s Palace ) 」の支配人、ハンス・ヴィーデマン氏は
「経済危機ですって? 従業員には、われわれは2つの世界戦争も生き延びた、110年も経営しているのだと言い聞かせています。将来何が起こっても、われわれは生き延びます。今年のウィンターシーズンの売り上げは上々でした。5000万ドルの損害を出した人に、わたしたちはその賠償はできませんが、その人に対して居心地の良い時間を提供することはできます。それがわたしたちの仕事です」

 顧客の中には、代々そのホテルルームをキープしているという人もいる。また客層が多様なため、一部の人が経済危機でダメージを受けても、全体的な数字には大きな影響はないという。

 とはいえ、スイス政府観光局のイギリス、アイルランド市場担当のエヴェリン・ファロネ氏は「スイスに忠実な観光客は、超大金持ちだけではない」と説明する。確かにポンドはスイスフランに対して大幅に下落した。しかし、スイスの魅力を発見した人たちは、スイスに戻ってくると見込み、スイスに忠実な観光客をターゲットにしているという。

 アメリカからの観光客数は減少した。この傾向は続くと見られるが、北米担当のアレクサンダー・ヘールマン氏は、経済危機をチャンスと見ているという。
「多くの人々が、親しみの湧く、行きやすい場所、安全な場所としてスイスを選んでいます」 
 と明かす。

持続性

 今年の観光振興年次総会のパネルディスカッションでは「成功か持続か」がテーマだったが、答えはおそらく両方だ。
「観光は環境汚染につながる。これはわれわれには変えられない。一方、旅行したいと思う人の欲望も変わらない」
 とシュミット氏。
「旅行は矛盾する、というのがわれわれのメッセージだ。しかし、もし旅行をしたくて、しかも持続性のある観光を大切にするならば、スイスは適している」

 公共交通機関が発達しているということばかりがスイスの誇りではない。湖畔にあるバドルッツ・パラスは湖水を利用した水力発電で構内暖房を始めたといった具合に、環境に優しい経営は観光客に受けるという。
「リピーターのお客様は、今回はどのような新しい試みがあるのかと聞いてくれたりもします」
 とヴィーデマン氏は言う。
 
「持続性のある発展」は多くの市場で受け入れられる要素だ。北米市場担当のへールマン氏によると、「持続性」は過去2年間でアメリカにおける最大の関心項目に躍り出た。例えば隣人が失業し旅行どころではない時に、自分だけ旅行して後ろめたさを感じるとしても、環境意識の高いスイスに旅行することで心のバランスを取っているという面もあるという。

世界の結びつき

 アラブ諸国市場でさえ、持続性のある発展は注目されている。アラブ市場担当のタヴフィク・メリ氏によると
「現在はやや停滞気味ですが、持続性のある観光がブームになればアラブ諸国からも大きな観光客の流れが生まれるでしょう」

 持続性のある開発を商売とするパオラ・ギラニ氏は、グローバル化ですべてのものが結びついている中、人々は自分たちの責任をより感じるようになっているという。
「消費者が買い物をするとき、それは観光旅行をするときでも同じですが、お金で物の価値を評価しているのであり、物の値段だけが決め手ではないのです。手ごろな値段でなければなりませんが、一番安いものを求めるのではなく、条件も見ます。例えば、製造者の労働条件、環境保護への配慮など」
 とギラニ氏は言う。

 スイスがこの点でもっと発展の可能性があり、経済危機はスイスに恩恵をもたらすであろうとパネリストたちは口をそろえて語った。ジャン・フランソワ・ロート会長は「観光業の将来は緑である」と討論を締めくくった。

swissinfo、ジュリア・スラッター ルツェルンにて 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 訳

金融・経済危機に直面し、スイス政府は観光業に 1200万フラン ( 約10億6000万円 ) を投入した。不景気では遠出はあまりしないだろうとの判断から、ターゲットはドイツ、フランス、イタリアといった隣国とスイス国内にした。
2009年は、スイスを訪れる人の宿泊日数は減少すると予測されている。2月はイギリスからの観光客の総宿泊日数は激減し、前年同月比で21%マイナスだった。また、アメリカからの観光客の総宿泊日数も20% 減少した。2008年は夏に観光客が増え、総宿泊日数はその前の年より増加していた。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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