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ヒズボラ−イスラエルとスイスの中立性

ヒズボラ軍によりイスラエル北部のナハリア市が爆撃された。一方、ベイルート北部は、イスラエル軍により空撃され、多くの死傷者が出ている。 Keystone

ミシェリン・カルミ・レ外相はフランス語圏の日刊紙、ルタンのインタビューで、イスラエルのレバノン攻撃を「程度を超えた行為」と非難した。7人の閣僚は緊急会議を開き、永世中立国スイスとしての公式な態度を調整し、発表した。

一方、アメリカ、フランス、国連などの大使を務めたエドアード・ブルンナー氏は、「カルミ・レ外相が毅然とした態度をとったことは、スイスの外交方針に沿ったもの」と評価している。

 イスラエルのヒズボラを狙ったレバノン攻撃に対するスイス政府の公式見解が出されたことで、永世中立国としてのスイスについての議論が再び湧きあがっている。スイスは公式見解の中で、ジュネーブ憲章の委託国として人権を尊重するよう呼びかけた。永世中立国とはなにか。アメリカ、フランス、国連などの大使を務め、中東情勢に精通するエドアード・ブルンナー氏に尋ねた。

swissinfo : カルミ・レ外相は永世中立国であるスイスは、積極的に発言し行動するべきであるという意見です。外相の態度は、スイスの永世中立国の歴史を変えようとするものですか?

ブルンナー : 積極的な中立はなにも新しいものではありません。スイスはこれまでも、積極的に他国と連帯する外交政策を棌ってきました。例えば、冷戦の時代ですが、事件が起こった際、スイスがはっきりと意見を表明したことはいく度かありました。ソ連のハンガリー侵攻、チェコスロバキア侵攻、アフガニスタン侵攻などに際して、批判声明を出しました。南アフリカのアパルトヘイト政策も批判しました。こうした態度表明は、永世中立となんの齟齬もきたしません。

swissinfo : スイス政府のイスラエル−ヒズボラ戦に対する表明が出されたことをきっかけにし、永世中立国としてのあるべき姿について議論が湧いています。これは、スイスの根本的な問題にかかわることでしょうか。

ブルンナー : 閣僚たちは、中東問題のような微妙な問題について、発言を控えたいのではないかと思います。ですから、連邦外務省は直接イスラエルとヒズボラの対立に言及することを避け、ジュネーブ憲章が定めている人権の厳守を訴えたわけです。人権の尊重は、永世中立であろうがなかろうが関係ないからです。スイスはジュネーブ憲章を委託された国ですから、人権について発言する権利もあるというわけです。

swissinfo : 現在起こっている中東での戦闘について、2つの意見があります。1つは2つの国の対立。もう1つは、国と武装勢力の対立。ブルンナーさんはどのように見ますか。

ブルンナー : 国と国の対立ではありません。イスラエルはレバノンと戦っているのではなく、ヒズボラと戦っています。いずれにせよ、現在は国と国が対立することはありません。1国の政府と反政府グループ、もしくはテロリストグループなどが対立します。

swissinfo : そうなると国際法でも定義も変わってきますか? 

ブルンナー : そうです。国と国との対立はなくなり、宣戦布告をする人もいない。例えば、スリランカ、コロンビア、アフガニスタン、それにイラクもそうです。現在進行中のイスラエルとヒズボラも同じことが言えます。このような対立、紛争が起こった場合、すべての関係者に対して人権の尊重を訴えなければなりません。

swissinfo : スイスが人権の尊重を訴えることは必要ということですが、こうした現在の対立、紛争では永世中立国の介入する余地はないということでしょうか。

ブルンナー : 確かに世論のそのような批判は高まりましたね。というのも、外務省がヒズボラを擁護しているかのような印象を国民に与えたからです。それは、レバノンで多くの民間人が犠牲になっていることを見逃すわけにはいかなかったからですが、スイス政府はイスラエル人の犠牲者についても配慮すべきです。

戦闘当初、スイスは平衡感覚が取れていませんでした。しかし、それは、カルミ・レ外相のせいではなく、広報担当官の責任ではないでしょうか。それで、再びスイスの永世中立国としてのあり方の論議が湧いたのだと思います。

swissinfo、フェレデリック・ブルナン 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 意訳

<エドアード・ブルンナー履歴>
1932年生まれ
ジュネーブ大学で司法を学ぶ
1956〜1997年 連邦外務省勤務
アメリカ、フランス、国連大使などを歴任
1991年 国連の中東特別大使に任命される
1994年 国連のグルジア・アゼルバイジャン特別大使に任命される

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