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ポンペイ遺跡で仮想古代へ旅しよう

「スパイスワインをもう一杯?」ローマ時代の居酒屋が増加現実によって当時のように蘇る。 swissinfo.ch

遺跡を訪れる観光客は近いうち、3D眼鏡付きヘッドホンをかけるだけで廃墟となったポンペイが2千年前の生きた街としてバーチャルな世界に息を吹き返す。

そんなユニークなコンピュータプロジェクトをジュネーブ大学などが最新の技術を使って開発している。

3D眼鏡でタイムスリップ

 この「ライフプラス」プロジェクトでは目の前に現れる実在の遺跡の上に重ねて、欠けている音やイメージをバーチャルで補足する。3D(立体映像)で当時の室内装飾、植物や動物からローマ人までが仮想現実で目の前に現れるようになるタイムスリップだ。

 居酒屋に行けば女主人がカウンターの後ろからワインを振舞ってくれ、隣の部屋にはローマ美女にいい寄る兵士が見える。貴族の豪邸を訪れれば中庭で女性がおしゃべりを。パン屋を覗けば、パン職人が焼き釜の前で美味しい焼き方のコツを教えてくれる。このようにして灰に埋まる前の西暦79年のポンペイを体験できる。

 史実に基づいて3Dのバーチャルな映像開発を受け持ったのはジュネーブ大学付属のミララブ研究所だ。ローマ歴史家から当時の服装や道具から人々の振舞い方などまで示唆を受けた。また、人の動きや顔などが自然になるように工夫した。

 現段階のこのような原型(プロトタイプ)の開発では映像は観光客が背中に背負うリュックのコンピュータから送信される。しかし、将来はヘッドホンに備えられた装置に受信できるようになるだろう。

バーチャルを越えた増加現実?

 バーチャルリアリティとはコンピュータのこしらえる現実そっくりの仮想現実だ。しかし、ここでは現実は実際に目の前にある遺跡だ。その意味でプロジェクトの責任者、ナディア・マネナタルマン氏は「ここでは仮想現実ではなくて、増加現実です」という。

 増加現実の技術は映画『王の帰還』や『トロイ』など多くの映画で使われている。実際の場所を撮影してから戦場に兵士を足したりする効果だ。しかし、映画の増加現実はできるまでに時間が掛かるのに対し、ここでは技術的にバーチャルな映像が歩いている観光客に即時に組み込まれるようになった。だから、同マネナタルマン氏は「この技術で全く新しいのは即時性だ」と強調する。 

 この点で一役買ったのがローザンヌ工科大学のバーチュアルリアリティー研究所だった。前出のマネナタルマン氏は「この研究所がバーチュアルな世界の組み込み計算と現実の世界の認知とを同時にして上映する計算法をみつけた」と語る。

 他に難しかったのは全くの仮想現実と違って現実と仮想をどう合わせるかだった。つまり、コンピュータにインプットされたバーチャルな映像と歩いている観光客が見ているものとをマッチさせることだ。このため、ヘッドホンに取り付けられたカメラから観光客の視野の情報を送り、その位置と角度を確認し、実際に見ているものとバーチュアルな映像の遠近感を合わせる映像を送る特別なソフトが開発された。これはオクスフォードにあるソフトウエア会社2d3が手掛けた。

 この増加現実の技術が発達し、浸透すれば将来の観光旅行の形が変わってくるのかもしれない。近い将来、エジプトのギザのピラミッドでファラオに出会うといった仮想体験もできるようになるのだろうか。 


スイス国際放送 ジュリー・ハント 屋山明乃(ややまあけの)意訳

- 西暦79年、ヴェズヴィオ山の噴火によって古代都市ポンペイは火山灰の下に埋まった。発掘が始まったのは18世紀になってから。劇場や住居、公衆浴場から石畳の轍、食卓のパンや逃げ遅れた人の死骸まで、時間が凍りついたようにそのまま発見された。ポンペイによって古代ローマの生活ぶりが明らかになった。

-「ライフプラス」プロジェクトはミララブ研究所、ジュネーブ大学とEPFLバーチュアルリアリティー研究所(ローザンヌ)と株式会社2d3(英国、オクスフォード)の共同作業による。

- 3D映像(立体映像):映像を3次元に再現する方式。

-バーチャルリアリティ(仮想現実):コンピュータ技術によって現実世界とそっくりに作られた世界。その世界で感じる感覚を指す場合もあり、「仮想現実感」とも言い換えられる。(現代用語の基礎知識から)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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