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ラクレットはヴォー州の特許

ラクレットチーズはヴォー州産のみ。味も違いでも意見の対立。 Keystone

丸いチーズを半分に切って、火であぶって溶かす。ジャガイモとピクルスで食べるチーズのラクレットは、寒い冬に好まれるスイスの郷土料理。ラクレットと名づけられるのは、ヴォー州産のみとする決定が連邦農業局によりこのほど、下された。

生産地の名前が付いているエンメンタールなどは生産地規制が緩い。香水にシャンペンと名付けることを禁止したフランスなどとは違うスイス。連邦農業局のラクレットの生産地規制の決定に、ヴォー州以外の生産者が反発している。

ヴォー州のラクレット生産者団体がラクレットをヴォー州産のみにするよう、連邦政府に働きかけていた。このほど、連邦農業局はラクレットはこの訴えを認め、ヴォー産以外の国内産チーズはラクレットと明記できないとの決定を下した。ヴォー州以外のラクレット生産者は控訴する構えである。

ヴォー州の伝統料理

 チーズを溶かして食べる習慣は、1574年から記録として残っている。
「当時はジャガイモの代わりにパンと食べた」
とスイスラクレット協会のマルクス・チュミ理事長は説明する。19世紀にはラクレットという言葉が使われ始め、20世紀になるとラクレットはチーズを溶かして食べる料理であり、ヴォー州のチーズという認識が定着したという。

 グリエールやエンメンタールとは違い、ラクレットは地名ではないものの、農業局の調査によると、消費者の4割以上がラクレットをヴォー州と密接に受け取っている。しかも
「ラクレットの語源は、ヴォー州以外では使われない単語で、チーズを削ぐサーベルの意味」
と農業局のイザベル・パーシ弁護士は今回の決定の理由として挙げた。
 そもそも、
「ヴォー州のチーズは未加工のミルクを使っているが他のチーズは加工ミルクで作られているので、違う食品」
と同弁護士は、ラクレットでもヴォー州のラクレットは味自体が違うと反論している。

訴訟の構え

 年間国内消費量が1万6千�dある中、ヴォー州産のラクレットは2千�dにとどまる。引き続き、他の州のラクレットが生産されなければ、国内の需要にはまったく追いつかない。
 また、スイス国内では外国産も生産地規制を受けるものの、外国では規制外となってしまうのは不公平という声もある。

「ラクレットはヴォー州に限らないスイスの料理。しかも、昨年の調査では、味にほとんど違いはなかったとの結果も出ている」
と前出のチュミ氏は味の上でも反論し、訴訟の構え。訴訟となれば最終結論は、10年先となるという。

スイス国際放送 佐藤夕美 (さとうゆうみ)

とろけるチーズ、ラクレットはヴォー州産のみに名づけられるとの同州の生産者が訴えた。

連邦農業局がこれを受け入れたため、9割にあたる他のチーズ生産者が反発。

ラクレットは16世紀からヴォー州で作られていた郷土料理。

外国産はスイス国内では規制の対象となるが外国では対象外となり、スイスチーズの競争力にとって不利。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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