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契約農業協同組合の成長

コカーニュ園の会員は半日の農作業を年に4日おこなう swissinfo

スイスのフランス語圏では、地元の契約農業協同組合が栽培し、宅配してくれる新鮮な有機栽培の果物や野菜を求める家庭が増えている。

ジュネーブ州の契約農業の分野においてパイオニア的存在の1つである協同組合「コカーニュ園」は、今年8月で30周年を迎えた。

急成長を見せるコカーニュ園

 1978年に地元消費者によって設立された「コカーニュ園 ( Jardins de Cocagne ) 」は現在400家庭、合計1000人の会員数を誇り、会員は毎週または毎月、ジュネーブ南西部で栽培された有機農産物が詰まった買い物袋を受け取る。コカーニュ園は非常に好評で現在100人が入会待ちだと、責任者の1人クロード・ミュードレ氏は言う。
「今現在、需要は実に高いです。長い間クチコミを通して年間10人ぐらいの割合で会員が増えていましたが、現在は驚くことに、毎日新規の申し込みがあります」

 地元契約農業協同組合は1960年代に日本で生まれたといわれている。その後、アメリカ、フランス、そしてさまざまな発展途上国に広まった。スイスでは、契約農業協同組合というコンセプトは30年余り前からあったが、急成長を見せ始めたのは2000年からだ。

 消費者が地元の協同組合を好み、スーパーを避けるようになった理由はさまざまだ。多くの人が、自分が何を食べているのか、どこから来たものなのか、どのように生産されているのかということをもっとよく知ろうと思うようになった。また、食の安全に対する関心や地元の農業をサポートしたいという思いもある。

地場産を食べる

 「季節ごとの旬の野菜を食べる習慣を身に付けるのは、本当に大切だと思います」
 と、ジュネーブ大学で地質学の博士課程に所属し、3年前にコカーニュ園の会員になったジェローム・シャブレさんは言う。
「食の安全により関心を払う人が増え、鮮度の落ちたまずいものを食べることにうんざりしているのだと思います。スーパーのミグロ ( Migros ) またはコープ ( Coop ) で売っている有機食品の値段で単純計算してみると、スーパーの有機野菜はとても高い上に質は非常に劣っています。一方、コカーニュ園で野菜を買った場合の年間消費額を算出してみると、 ( 値段と品質において ) 私たちは間違いなくスーパーに勝っています 」

 同じく会員のシュテファニー・ユストリッヒさんも、契約農業協同組合というコンセプトは地域に定着したようだと言う。
「コカーニュ園やほかの組合から野菜を求める友人がたくさんいます。また、興味を示す人も増え続けています。短期間に同じような組合がたくさんできました」

 「わたしは、自分が住む地域で育った農産物を口にしたいと思いました。スイスやヨーロッパのある生産地から消費者の住む場所に作物を運搬するというのは、まったくばかげています」
 と、2007年に始まったローザンヌに拠点を置く協同組合「フロン園 ( Jardins du Flon ) 」の会員のシャンタルさんは言う。

マイナス面

 しかし、こうした協同組合にもマイナス面はある。通常は年会費前払いという支払方法や、あまり融通の利かない配達日時、また、夕食に本当に必要なのはズッキーニなのにウイキョウが送られてくるというような不愉快な不意打ちもある。

 「契約農業協同組合は、スイス産の農産物を食べるように人びとに働きかけ、関心を高めるには適役です。しかし、利用者にも積極性が求められ、契約をしっかり守る必要があります」
 と、「スイス・マーケット・ガーデン組合 ( Swiss Market Garden Union ) 」の広報課のニコラス・ベルトルド氏は言う。

 しかも、宅配される物の中にキクイモやナシのようなあまり馴染みのないものを発見することもあると、シャンタルさんは説明する。
「わたしはサトウニンジンやカブがあまり好きではありませんが、契約農業というコンセプトは、普段の食生活に少し広がりを持たせることを余儀なくさせます」

 また、会員は自分の手を泥まみれにするよう求められることもある。コカーニュ園では、会員が植え付け、土堀り、宅配用の買い物袋を詰めるなどの半日農作業を年に4日しなければいけない。

 しかし、こうした社会的な接触もとても重要だと、ミュードレ氏は言う。
「わたしたちは、同じ目的を持った人たちが集う小さな組織の一部です。良質の農産物を食べ、農作業をし、正当な報酬を受け取りたいというようなことを思っています。みなさん非常に熱心です。これは大切なことだと思います」

スイスのドイツ語圏では

 スイスのフランス語圏では、約3400家庭が20ある協同組合の1つから定期的に野菜の入った買い物かごを受け取っている。20の組合のうち、7つの組合はジュネーブ州に拠点を置き、5つはヴォー州にある。

 しかし不思議なことに、このような協同組合はドイツ語圏には根付いていない。現在、バーゼルに1980年から始まった組合が1つある。連邦農業局 ( BLW/OFAG ) によると、多くの農場が果物や野菜の定期宅配をおこなっているが、生産者と消費者の間に契約が結ばれることはないという。

 ドイツ語圏のスイス人は「食糧主権」 ( 畜産・農業・漁業にかんする政策や方針を農家やその土地に住む人たちが自主的に決める権利 ) のような理念を掲げるよりも、これまでの地域の伝統に合わせていこうとしているようだと、フリブール州のプリンジュ ( Pringy ) にある協同組合「ノートル・パニエ・ビオ ( Notre Panier Bio )」のゲルハルド・ハシンガー氏は言う。

swissinfo、サイモン・ブラッドレー ジュネーブにて 中村友紀 ( なかむら ゆき ) 訳

地元契約農業協同組合は1960年代に日本で始まったといわれている。その後、アメリカ、フランス、発展途上国に広まった。スイスでは、このコンセプトは30年近く前からあったが、実際に始まったのは2000年だ。

スイスのフランス語圏では、約3400家庭が20の協同組合の1つから定期的に野菜の詰まった買い物かごを受け取っている。20の協同組合のうち7つはジュネーブ州に拠点を置き、5つはヴォー州にある。ドイツ語圏には、バーゼルに1つある。

典型的な契約農業のやり方を用い、消費者が農家や地元農家グループと契約をし、必要な作物を生産してもらう。毎月決められた量を届ける代わりに消費者が希望するものを作り、農家は生産高を上げる。値段も含め、品質、量、配達日はすべて事前に決められる。

協同組合によって、会員は果物、野菜、穀類、乳製品、精肉、さらにワインやオリーブオイルが入った買い物袋や箱を受け取る。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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