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新内閣成立 独語圏と仏語圏で意見が分かれる プレスレビュー

スイス各紙はもとより、外国の新聞も今回の投票を大きく取り上げた。 swissinfo.ch

スイス政治史上歴史的な選挙が終わり一夜明けたきょう、国内外の新聞は結果とその影響などを大きく取り上げた。                             

今回の選挙は連立与党間における駆け引きや戦略が目立った。44年間変化のなかった4党の配分や出身地、男女の割合などまったく無視され、スイスの政治史が新しい転機を迎えたと言えよう。                                        

国内各紙は第1面で、新しく選出された2人の閣僚をクローズアップした写真と共に、大きく報道した。今後の見通しとしてドイツ語圏の新聞は一般に、4党による連立政権が保たれたと楽観視している。一方、フランス語圏の新聞の一部は、悪態を付いて結果を嘆く記事まであった。

経済の活性化を期待できるのかという疑問

 自由民主党寄りで経済界を代表する一般紙の「ノイエ・チュルヒャー・ツアイトゥング」(NZZ)は、化学薬品会社の社長であるクリストフ・ブロッハー氏と経済アドバイザーのハンスルドルフ・メルツ氏の選出について、「経済政策のドリームチームになるのか」と、景気対策が進むことを期待する世論に懐疑的である。「経済政策は、右派、左派の対立のみならず、経済の専門家の間でも対立はありうる。しかも、スイスの連邦政治は常にコンセンサスが基本。閣僚の構成員がどのようなものであろうとも、革命など起こりえない」という論説を経済面で発表した。

ブロッハー氏が選出されなかったなら、最悪事態に

 ドイツ語圏の東部で発行されている「ズートオストシュヴァイツ」紙は、「多くのスイス人は今回の結果に失望しショックを受けている。しかし、ブロッハー氏が当選しなければ、さらに状況は悪化するだろう」と慰めの口調。国民党はブロッハー氏か野に下るかと宣言していたことから、連立制が保たれたことを評価し、「政治のカオスが避けられた。右派が独自路線を歩むシナリオはない」と評価している。
 発行部数最大のドイツ語圏の大衆紙「ブリック」は新閣僚夫人を中心とした報道で、1面に「シルビア・ブロッハー幸福の只中」の題と共にブロッハー夫婦のキスシーンの写真を載せた。

左派の力弱まる

 ドイツ語圏日刊紙「ターゲスアンツァイガー」は、「社会民主党とキリスト教民主党は力を失った」と政治が右派寄りになることを指摘。さらに、女性で、最年少の「メツナー氏の不信任により、女性閣僚は1人に減り、平均年齢もいままでの56歳から59歳に上がる。高齢化し、男性が征服する保守派の内閣になった」と落胆的である。さらに、国民党が2ポストを占めることについては、議員数に沿ったもので「国民の意思に従った結果である。しかし国民党のようにブロッハー氏1人に頼っている政党は珍しい」。ブロッハー氏は、政治家としての責任を果たすことが問われると釘をさしている。

フランス語圏は批判的

 フランス語圏の日刊紙「トリビューヌ・ド・ジュネーブ」は、「情け容赦のない勝利」と書き、さらに経済紙の「ル・タン」は一面の論説で、「ブロッハー氏の個人的勝利は連立政権の党配分が崩れたこと以上に政界を不安定にさせる。同氏は多くの政敵をもろともせず、選挙に勝利した」と書いた。
 最も批判的なのはヴォー州の「24ウール」で、「糞たれ、それはブロッハーだ」と激しく罵倒している。

悲観的な外国紙

 経済ニュースをトップに置くのが常の「フィナンシャル・タイムズ」は例外的に第1面に、スイスの選挙を取り上げ、「スイスの国家主義者がEUとの関係を圧迫する」という題で記事を書いている。
 同様に「ニューヨーク・タイムズ」は「ブロッハーがスイスをEUから遠ざける」という見通しである。
 また、ドイツの日刊紙「フランクフルター・アルゲマイネ」も、「口うるさいオヤジがやっと閣僚になった」。今後スイスは、「財政の大幅引き締め、社会福祉の縮小、対移民受け入れの引き締めなどが進む。EU反対派のブロッハーは、1992年にスイスが欧州経済地域(EEA)の非加盟を決めて以来の外交を引き続き行うだろう」とスイスの独自路線が強まると予想している。

スイス国際放送 佐藤夕美 (さとうゆうみ)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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