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海外の業務委託業者、スイスの金融、製薬業界を狙う

海外に業務を委託するアウトソーシングは、欧米の経済と雇用にも絡む微妙な問題になりつつある。 Cognizant

クリシュナ・ナガシュワラン氏は、1年半ほど前にチューリヒで米国の情報技術(IT)企業の支社を開いた。

親会社はニュージャージー州を本拠地とするコグニサント・テクノロジー・ソリューションズ(CTS)。彼の使命は、スイスの企業にソフト開発やITサポート業務をCTS社インド支社に移すよう、話を持ちかけることだ。

CTS社をはじめ、賃金の安い海外で業務の外注化(アウトソーシング)を請負う企業は、スイスの製造業界だけでなく、製薬業界や金融などのサービス業界にも目をつけ始めた。アウトソーシングは企業に経費削減をもたらす一方で、国内で雇用流出という現象も生み出す難しい問題を孕んでいる。

アウトソーシング加速化

 CTS社は94年に設立された新興会社だが、すでにインドで約9,000人の従業員を抱える。また、インドで新たに3カ所の支社を近くオープンする予定で、インドでの雇用はさらに増える見通しだ。同社の連結売上高は今年、およそ5億ドル(約554億円)を見込む。

 同社は金融業のソフト開発やサポート業務に強く、銀行大手クレディ・スイスをはじめ、スイスでトップクラスの金融企業が顧客リストに並ぶ。

 次に狙うのは「スイスの製薬業界だ」とCTS社の欧州責任者キム・ラジャ氏は宣言する。北スイスのバーゼルに本拠地を構える大手製薬会社ノバルティスやロシュは「もちろん視野に入っている」と笑みを浮かべる。

 経営効率化のため、スイスでは早くからアウトソーシングを採用している企業が多い。例えば、スイスを代表する企業であるノバルティスや通信会社スイスコム、スイス連邦鉄道(SBB)などはIT業務の一部をすでにインドに委託しているという。

 だが、こうした動きは国内雇用との関係で労働組合から反発の声があがっている。スイスを拠点にして働くコンピュータ技術者の仕事が海外に流出する状況に歯止めをかけなければ、専門技術の職種が国内から消えてしまうとの懸念があるためだ。

 
 スイス国際放送  ラムジィー・ザリフェ   安達聡子(あだちさとこ)

アウトソーシングとは:

コスト削減のために、企業が業務の一部を第3者企業に委託すること。

国内最大手銀行UBSが3月に発表した調査によると、国内の製造会社300社のうち、46%が海外で製造業務の一部を委託している、と答えている。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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