銀行の守秘義務、廃止への外圧
脱税やマネーロンダリングなど経済犯罪に関し、フランス、イギリス、スペイン、デンマーク、ドイツの欧州連合 ( EU ) 5カ国が、リヒテンシュタインに対しOECDが定める情報提供の基準に従うよう強く求めている。
当面の標的はリヒテンシュタインだが、スイスやルクセンブルクにも同じ要求が出される可能性は高い。
ドイツポスト ( Deutsche Post ) の社長はじめ、多くのドイツ人の脱税に利用されたリヒテンシュタインの投資基金スキャンダル後、欧州連合 ( EU ) からリヒテンシュタインに対しEUとの協定を結ぶよう要求する動きが高まっている。
戦う姿勢で臨む
こうした中、フランス、イギリス、スペイン、デンマーク、ドイツの5カ国は、経済協力開発機構 ( OECD ) が定める利子税に焦点を当て、これに違反した場合も違法行為に当たるという立場からリヒテンシュタインに対し、情報提供し協力するよう求めた。これらの5カ国は2002年に締結した、他国から要請があった場合は情報を提供するという内容のOECD協定も引き合いに出している。この協定は、一国が銀行の守秘義務を「隠れ蓑」にすることを阻止する目的で作られた。協定にはスイスとルクセンブルクを除く全てのOECD加盟国が調印した。
EU委員会はリヒテンシュタインと交渉すべく動いていたが4月22日、ルクセンブルクがリヒテンシュタインに対する外交的措置は行わないと発表したことから、足踏み状態になった。ルクセンブルクが反対したのは、EUが定める財産税の改定問題で特にドイツとフランスからの強い批判の矛先が自国に向けられることを懸念しているためだ。
連鎖反応か?
EU諸国内でルクセンブルクはベルギーとオーストリアと並び、外国人の財産税については源泉徴収する制度を採ることで自国の銀行の守秘義務を保護してきた。EUはこれを許容しているが、容認は暫定的なものと捉えている。ルクセンブルクと同様、外国人の財産税を源泉で徴集するスイス、リヒテンシュタイン、アンドラ、サンマリノ、モナコの5カ国が、他国からの要請があれば情報を提供することにEUと同意した場合、ルクセンブルクもその義務を負うよう強いられるだろう。
「リヒテンシュタインのスキャンダルは、将来問題視されるであろう深刻な問題を示唆するものだ。銀行の守秘義務をいかなる手段を用いても、撤廃させることがEUの最優先課題だ。リヒテンシュタインが強力な圧力に負けた場合、ルクセンブルクやスイスがこれに抵抗するのは非常に難しい」
と事情通は見ている。
外圧が弱まることはない。特にフランスは7月1日からEU議長国として、脱税撲滅を第一目標として挙げている。ドイツはOECD内でこの問題に積極的に動き、6月に予定されているOECD首脳会議でも議題に上げている。
swissinfo、ブリュッセルにて タンギ・フェルホーゼル、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 訳
スイスには匿名口座はなく、銀行は名義人の情報を把握していなければならない。しかし、顧客の情報は銀行の守秘とする。銀行が所有する顧客情報は、唯一犯罪に関係しているという疑いがある場合、司法の要請により提示される。しかし、脱税は犯罪とは見なされていない。
銀行に守秘義務を課しているのはスイスのほか、ルクセンブルクとオーストリアのみ。
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