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みかけは美しい家庭菜園

都市の入り口を飾る集合家庭菜園...アアラウの菜園 Keystone

春になると、畑仕事の素人はサラダが食べたくて、やっきになって種、苗、化学肥料を買い求める。

スイスインフォがインタビューした農業の専門家に言わせると、素人は化学肥料や殺虫剤を使い過ぎる。野菜をどうしても手に入れたい人がエコロジストであるわけがない。

 家庭菜園に化学肥料や殺虫剤などを大量に投入することは、環境(水、土)を破壊し、健康にもかなりの影響を及ぼす。専門家たちは事の重要性に気づきながら、どれ程汚染が進んでいるか把握できないでいる。というのも、全て個人所有の土地で起こるため、公の地質検査機関が入れないし、野菜も直接生産者の口に入るので、公的食品検査を通ることがないからである。

厳しい法律はできたが

 2005年8月1日付けでスイスは、ヨーロッパ基準に合わせた化学薬品に関する新しい法律を採用した。これは最も毒性の強い化学薬品に関するものだが「殺虫剤には生物を殺す成分が含まれています。これが危険なのです。だから使用量をきちんと表示する必要があります」と連邦内務省厚生局化学薬品課のピエール・クレタ氏は言う。

 リュリエ園芸センターの農学者アントワンヌ・ブッソン氏によると化学薬品が及ぼす健康面での問題はさらに複雑である。まず、植物は化学薬品をあまり吸収しないので、毒性はそれ程残らない。例えば、重金属成分は野菜の中にわずかしか吸収されないが、その代わり土の中に残ってしまう。

集合家庭菜園

一番問題なのがこの集合家庭菜園。もともと19世紀に農村から都市に移住した労働者の心を癒そうというのでスタートしたこの菜園だが、現在は市町村から各個人が数平方メートルの土地を借りて耕しており、スイスには2万6000以上もある。

 この菜園を耕す人たちが問題で、「うちのトマトのほうが隣のよりもっと赤い」といった競争をする。こうして化学薬品を大量に投入された菜園は、古ければ古いほど汚染されており「時には基準値の60倍もの金属成分の滓が残っていることがあります。しかし、小さい面積に化学肥料を少量まくのはなかなか大変で、残った肥料を管理するのも大変ですからね」とブッソン氏。

 「だいたいスイス人のきれい好きが問題です。畑の小さい虫を忌み嫌う。でもこうした虫が畑には大切なのです。20世紀までは植物に殺虫剤などかけたりしなかった。でも今はスーパーでこうした化学薬品が簡単に手に入る。これも問題です」と植物学者アイダ・ゴデル氏は言う。

 園芸家であり肥料会社ハウワートで働くアラン・ボバーさんは「肥料会社は肥料の成分と使い方をきちんと表示すべきです。 素人の人達は望めば自分の畑の地質を検査してもらうこともできるのに、現実にはなにもせず多くの人が2倍の肥料は2倍の効果をもたらすと信じている」と批判する。

家庭菜園も自然維持の一役を担う

 ゴデル氏は、こうした大量の化学薬品を投入すれば全てうまくいくといった考えを変えてもらうため、本を書いたり、講演をしたりと飛び回る。「だいたい、一度話をすると、考えを変えてくれることが多いのです。植物には相性の良いものとそうでないものがあって、それをうまく組み合わせてやると、化学薬品は必要ないということを教えるだけで納得してくれます」「毎年2万2000種の植物が地球上から姿を消していきます。たとえ都市の菜園でも、植物の種を守るために果たす役割があると思います」

swissinfo、イザベル・アイシェンベルジェ 里信邦子(さとのぶくにこ)意訳

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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