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もう、以前のUBSには戻れない?

投資の失敗がUBSのイメージを破壊 Keystone

スイス最大手のUBS銀行が被ったダメージはもはや修復不可能かもしれない。

しかし、巨大な米銀「ベア・スターンズ ( Bear Stearns ) 」と同じ運命に苦しむことはないと専門家はみている。

 4月1日、度重なる評価損190億フラン ( 約1兆9000億円 ) とマルセル・オスペル会長の退任が発表された。そんな中でもUBSの株価は回復しており、投資家も専門家と同じ見方をしている。しかし、トップ・パフォーマンスを提供できる投資銀行構築の夢はもはや引き裂かれた。これからはウェルスマネジメント部門から富裕層の投資家が逃げ出さないよう、説得に乗り出さなければならない。

サブプライムローンの落とし穴

 チューリヒ大学スイスバンキング研究所のハンス・ガイガー所長は、
「以前のUBSにはもう戻れないだろう」
 と予測する。アメリカのサブプライムローン市場崩壊の影響をヨーロッパで最も強く受けたUBSが、この先数カ月でさらなる損失を計上するかどうかについては、意見が分かれるところだ。

 UBSは依然として高リスクの不動産抵当を担保とした投資をおよそ310億ドル ( 約3兆1644億円 ) 抱えている。UBS発行のレバレッジドローン ( 企業買収向け融資 ) やほかの不安定な資産クラスはこの金額に含まれていない。

 しかし、ガイガー氏はオスペル氏の退任でこれまでの不名誉な出来事の連続にピリオドが打たれたのではないかとみている。
「オスペル氏は12月に『自分が解決策の一部である』と述べている。彼が今去るということについては、後継者のための机上整理が終わったと理解してよいだろう」

ベア・スターンズとは違う

 一方、チューリヒ州立銀行のアナリスト、アンドレアス・フェンディッティ氏はさらなる損失の可能性も排除しない。
「マイナスの要素は今もまだ存在している。この先もまだ何かあるのではないか」

 両氏の意見が一致しているのは、UBSがアメリカの投資銀行ベア・スターンズと同じ運命に苦しむことはないだろうという点だ。ベア・スターンズは破産を回避するため、今年3月平均株価の数分の1の価格で身売りした。

 「ベア・スターンズは、長期的に安定した収入をもたらすほかの業務分野を持っていなかった。UBSとは財源の構造がまったく異なる。UBSは、いざとなれば非常に健康な貯蓄やクレジット、あるいはウェルスマネジメントなどの商品を頼りにできる」
 とフェンディッティ氏。

 UBSはまた、新株引受権証券で150億フラン ( 約1兆5000億円 ) の追加資本注入を予定している。これは業務存続への対策というよりも、予防的にキャッシュを増額する意味合いを持つ。

 しかし、最大の問題はなんといっても富裕層の顧客離れを防ぐことだ。UBSは世界最大のウェルスマネジャーであり、この分野が成功のいしずえとなっている。

不満を抱く顧客

 この先UBSは、不満を抱く顧客や訴訟を多数抱えることになるかもしれない。3月、UBSは顧客に売却済みのいわゆる「オークションレート証券 ( ARS ) 」 ( 入札によって金利が変動する長期債権 ) の価値を引き下げた。だが、顧客はこの証券を確かな投資先と見込んで購入していたのだ。

 ほかの数社とともに、UBSは事実を偽って商品を売却したという疑いでアメリカのマンハッタン地裁の捜査を受けている。しかし、ガイガー氏は
「顧客離れについていろいろと言われているが、とりわけ大きなテーマにはなっていないようだ。これまでの190億フラン ( 約1兆9000億円 ) に加えて第1四半期にも120億フラン ( 約1兆2000億円 ) の赤字を計上したが、キャッシュはまだ流入している」
 と悲観的な懸念を拭う。

swissinfo、マシュー・アレン 小山千早 ( こやま ちはや ) 訳

2007年はUBSにとって波乱の1年だった。ヘッジファンドの「ディロン・リード・キャピタル ( Dillon Read Capital ) 」の崩壊に始まって、その2カ月後の7月には明白な理由の無いまま最高経営責任者 ( CEO ) のペーター・ヴフリ氏が突然辞任した。

10月には、投資バンキング分野で、責任者のヒュー・ジェンキンス氏を含む1500人を解雇すると発表。また、最高財務責任者のクライフ・スタンディッシュ氏も同時期に退職した。

10月末、UBSはサブプライムローン関係で42億フラン ( 約4200億円 ) 、第3四半期に7億2600万フラン ( 約726億円 ) の損失計上を発表した。四半期決算で見る赤字は9年ぶりのことだった。

そして12月、サブプライムローン問題の深刻化でさらに100億フラン ( 約1兆円 ) の赤字が発生する見込みだと発表した。また、シンガポールと中東の投資家から130億フラン ( 約1兆3000億円 ) の出資をあおいで、自己資本を増強することも表明した。株主は2008年2月の株主総会でこの資本注入に同意。

2008年1月にはさらに40億ドル ( 約4500億円 ) の赤字を計上し、損失総額は200億フラン ( 約2兆円 ) に膨らんだ。4月初旬の発表によると、この数字はさらに倍増している。

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