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ケニアからフェアなバラを

花の梱包作業。女性の従業員が非常に多い swissinfo.ch

ケニアはヨーロッパ向けの花の輸出国として重要な位置を占めている。フェアトレードの先駆的存在マックス・ハフェラー ( Max Havelaar ) が深く浸透するケニアから、スイスにもバラが輸出されている。

ナイロビからおよそ40キロメートル南下したジャム・シティ( Jam City ) 村の花栽培所を訪れた。ここでは、フェアトレードで生活を向上させた労働者たちが働いている。

 太陽がジャム・シティの町並みに反射する朝早く、パトリック・マリエさんがぬかるみ道を通って自宅に私たちを案内してくれた。わずか数平方メートルの広さの木とブリキでできた家だ。家の中にいた夫人が、ミシンを自慢げに見せてくれた。中国製だという。「近所の人たちの洋服のリフォームをして、生活の足しにしています」。夫のパトリックさんはヨーロッパ向けの花を輸出するヴァリディ ( Waridi ) で働く。

基金で生活水準アップ

 ヴァリディは12.5ヘクタールの耕地を持ち、1500万本の花を栽培している。その5分の1が、スイスのマックス・ハフェラーも加盟するフェアトレード認証マーク「FLO」付きだ。フェアトレード契約では、輸出の12%にあたる14万フラン ( 約1400万円 ) がフェアトレード基金に回され、およそ350人の従業員に配分されることになっている。基金は「ジョイントボディ」という経営者と労働者の代表で構成される委員会が運営している。委員会の過半数が労働者代表で占められている。

 ヴァリディでは、ジョイントボディがエイズ予防キャンペーン、成人教育、高温でも枯れない植物の栽培の資金を出した。他に、発電機、太陽電池などの購入に6割の資金援助をしている。パトリックさんの夫人が早朝自宅で見せてくれたミシンも、基金の援助で買ったものだ。

最低賃金以上

 マックス・ハフェラーのレグラ・ヴェーバー広報担当者は「花栽培では、労働者の生活の質向上にこうした基金が重要な役割を果たしています」と語る。FLO基準では、労働者の法定最低賃金を確保することになっているが、ケニアの法定最低賃金は1カ月に50フラン ( 約4800円) と、非常に低く設定されている。このため、他の方法を講じない限り、労働者の生活は向上しないからだ。
 
 東アフリカのフェアトレード企業のほとんどは、最低賃金以上を支払っているという。ヴァリディでは1カ月およそ100フランだ。「日当が1ドルで、4割が失業という状況のケニアでは、フェアトレード企業で働けることは大きなチャンスになります」とフェアトレード認証を担当するカドツォ・コゴさんは言う。

 労働組合のラザルスさんも「従業員も労働条件が向上したと肌で感じています。長期雇用契約、経営陣との関係も融通がきくようになりました」と言う。毎月の集会では、解雇を心配することなく労働者が意見を言える。とはいえ、ヴァリディの賃金だけでも生活は苦しいのだとラザルスさんは明かす。

バラ栽培と環境破壊

 一方で、バラ栽培は環境に与える影響が問題視されている。バラが花を咲かせるまでには大量の水が必要で、近くの湖の水が減少しているのだ。対策としてヴァリディでは、花に撒く水の3~4割を再利用するようにした。集められた水はフィルターを通し、肥料と混ぜて再び使う。それでも、毎日500立方メートルの水が消費されるという。なるべく雨水を使うようにしているが、バラ栽培は、地球温暖化問題に伴うアフリカ大陸の砂漠化と密接に関係した産業でもあるのだ。

swissinfo、アンドレア・トニア ナイロビにて 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 意訳

スイス市場に出回るバラのおよそ58%がマックス・ハフェラーが関連するケニアの花畑で栽培されたフェアトレード認証つきと見られる。
マックス・ハフェラーのスイスでの2005年の売上高は2億2100万フラン ( 約213億円 )。

本部バーゼル。1992年、複数のキリスト教団体と民間援助団体が集まって創立された非営利団体。2001年からは独立経営ができるまでに成長。フェアトレードの基準に沿った商品を販売するが、フェアトレード商品の卸も行っている。コーヒーが最初に手がけた商品で、2001年からは花の栽培にも活動を拡大した。

フェアトレード認証マーク
長期的視野に立った開発援助と環境保護をモットーにしたフェアトレードの国際規格。生産ラインやプランテーションで働く労働者の賃金を設定し、社会保障、労働安全の基準を定める。フェアトレードの基金分配は民主的に決められ、労働者の意見が尊重される。仲介者をなるべく排除し、輸出コストを下げることが経営者に要求される。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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