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シャーロック・ホームズ、スイスを楽しむ

名探偵シャーロック・ホームズ(右)とワトソン博士とがスイスにやってきた

(swissinfo.ch)

コナン・ドイル著の『名探偵シャーロック・ホームズ』は、スイスを舞台にした場面が多い。ロンドンに本部を置く「シャーロック・ホームズ協会」の会員は、これまでに何度もスイスにツアーを組んでいるが、そのたびに大きな話題になっている。

彼らは、英国はもちろん欧州全域や北米からも馳せ参じている。スイスインフォが、たくさんの「ホームズ」や「ワトソン」達に囲まれて話を聞いた。

 19世紀ビクトリア朝時代の水着を来たこの「巡礼者」たちが、スイスのリゾート地の温泉にがやがやと入ってくると、周りの観光客は目を丸くした。「シャーロック・ホームズ」と「ワトソン博士」が、こっちで静かに朝食を取っているかと思えば、あっちではシャンペンを空け、振り返ると温泉プールにぷかぷか浮かんでいる。一体どんな深刻な事件を追いかけているのだろう?

 突然、女性の悲鳴があたりをつんざいた。たまたま「ワトソン博士」が近くにいたが、どうすることもできなかった。女性はプールサイドで静かに息を引き取ってしまった。いつもの虫メガネと愛用のパイプ、鳥打帽姿の「ホームズ」が到着したが、彼でさえも、すぐには何が起こったのか解明できなかった。

 英国王室当局は、「女性の死因は毒くらげの針だ」との見解を発表した。スイス当局もかけつけて、死亡した女性を担架に乗せて運んでいった。しっかり英国国旗のユニオンジャックを「死体」の上にかけるのも忘れない。

愉快な仲間たち

 容疑をかけられたクラゲが、水から引き上げられると、周りにいた沢山のホームズやワトソンたちが、景気の良い歌声で盛り上げる。英国生まれのはずのホームズだが、なぜかスイス海軍歌も含まれている。しかも、どうやらこの海軍歌が特にお気に入りらしい。

 シャーロック・ホームズ協会の昔からの会員であるアイリーン・ホルマンさんは温泉の上にあるレストランで、びっくりぎょうてんした。他の会員が彼女の絵葉書を売店で見つけ、彼女に差し出してサインを頼んだのだ。

 ホルマンさんは、自分が絵葉書になっているのを、しげしげと見つめた。確かにこの箱型の椅子に座っているのは自分だ。けれど、彼女は自分が絵葉書になっているなんて、今初めて知ったのだ。

 今回のシャーロック・ホームズ協会主催による「8日間スイスの旅」に参加したのは60人の会員。年代物の服装に身を包んでスイスを周遊する彼らを、誰も止めることはできない。本の舞台になった所ならなおさらだ。

 『シャーロック・ホームズ最後の冒険』で、ホームズが宿敵モリアーティ教授と対決したライヒェンバッハの滝は、ベルン州のマイリンゲンに実際に存在している。もちろん、彼らにとっては聖地だ。 この小さな村にはホームズの像や博物館、ホテルもある。シャーロック・ホームズは、村に対する多大な貢献から、名誉市民号まで授与された。しかしそれから24時間以内に、ホームズはライヒェンバッハの滝で命を落としたことになっている。

ちょっとこの人たち大丈夫?

 さて素朴な疑問がある。彼らは気が狂っているのか、それともちょっとエキセントリックなだけなのか。ワトソン博士に扮したチャールズ・ミラーさんがスイスインフォのぶしつけな疑問に答えてくれた。

 「エキセントリックなんてちっとも思っていませんね。楽しむ時は徹底的に楽しむ。それでみんなこういう格好をしているのですから」。ミラーさんの名刺には「ボーヌワイン狂い」と「女中の膝愛好家」と印刷してある。どうやらワインと女性もお楽しみらしい。

 次に口をはさんだのは別のシャーロック・ホームズ(本名はフィリップ・ポーターさん)。「いやいや、私たちは、自分たちがいかれていると自覚していますよ。協会創設者のトニー・ハウレットはこんな言葉を残しています。『キチガイは、自分が気が狂っていることに気づかない。でも私達は自分たちがちょっと変わっていることを知っているからまともなのだ』

 大方の参加者の意見は、単に「陽気なゲームを楽しんでいるだけ」だ。つまり、彼らは心から休暇をエンジョイしており、同時にスイスの観光業は、このユーモアたっぷりのツアーを待ちわびている、ということだ。
 
 この「ゲーム」は、毎回マスコミに大きく取り上げられる。「ホームズ」だってそれは承知だ。「傲慢に聞こえるかもしれませんが、スイスでメディアに追いかけられるのは慣れています。それでシャーロック・ホームズに興味を持っていただけるのなら、われわれは万々歳ですよ」

自明なことだよ、ワトソン君

 おっと忘れてはいけない、このツアーにはホームズの宿敵、モリアーティ教授も参加している。彼がホームズを殺したのだ。「限度などというものないね。やりたいことをやるだけなんだよ。巧妙なわなを仕掛けてまんまとやったというわけさ。どうしてもホームズという奴が気に入らなくてね」。とたんに周りから非難の声があがる。

 「もっと私のアカデミックな能力に敬意を払っていただきたいね。数学の教授としては右に出るものはいないんだよ」。ホームズを突き落としたライヒェンバッハの滝を背にして、彼に自責の念はまったくないようだ。

 コナン・ドイルは、『シャーロック・ホームズ最後の冒険』で本当にホームズを殺してシリーズを終了してしまうつもりだったが、読者の懇願に負けて後にホームズを復活させる。しかし見るところ、現代の読者のシャーロック・ホームズへの愛も、当時の読者に勝るとも劣らないようだ。

 「自明なことだよ、ワトソン君」。シャーロック・ホームズなら言うだろう。

swissinfo ロバート・ブルックス 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳

キーワード

著者のコナン・ドイルはスイスが大好きで何度も足を運んだ。

ドイルは小説や講演でたびたびスイスについて触れ、スイスの観光業に大きく貢献した。

1894年にドイルは世界で最初にスキーでマイエンフェルダー・フルカ(2445m)を超えてアローザからダヴォスまで渡り、スキー人気に火をつけた。

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補足情報

-ロンドンの「シャーロック・ホームズ協会」は1934年創立。

-現在の会員は約1000人。

-同協会は、これまで6回もスイスでホームズの足跡をたどっている。

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