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ジュネーブ最高市民は憲法9条支持者

多忙になったが、週末は一人娘と乗馬などを楽しみ、家族との関係も大切にしたいと言うギー・メタン氏

ジュネーブ州議会の議長は「州の最高市民」と呼ばれる。今年1年この任務に就くギー・メタン氏に、スイス特有の兼業政治家としての生活を語ってもらった。

メタン氏はまた、2008年日本で開催された憲法9条を擁護する「9条世界会議ヒロシマ」にも出席。外国を攻撃しないという点でスイスと日本の立場は同じで、この2カ国は世界でも例外的な平和憲法を持つ国だと話す。

ほかの職業を持つ議員

 州の最高市民と呼ばれる理由は、立法、行政、司法の三権分立の中でも一番重要な立法を司る州議会の議長であり、また「この役職に敬意を込めてジュネーブではこう呼ぶ習慣だ」と中道右派のキリスト教民主党(CVP/PDC)の党員であるメタン氏は説明する。

 議長になってから、州内の行事のレセプション、オープニングなどに州民の代表者として招待されることが多く多忙になった。また、電車内などで市民から「テレビで見た」と声をかけられることも多い。

 州議会「グラン・コンセイユ ( Grand Conseil ) 」は100人の議員から構成される。議員は弁護士、教師、農業生産者などほかの職業を持ち、3週間に1度2日間にわたり多種の議題を討議し、しばしば法律を制定する。スイスは州が徐々に加盟していった国だけに、州の独立性が極端に強い。実際州が管轄する分野は教育、司法、警察、税金、社会福祉、健康、交通など、「極言すれば連邦政府だけの管轄は軍隊と外交と言われる位に」多い。そのため州議会では2日間17時から23時に行われる討議で平均50の議題をこなし、それには州政府への発議、質疑、法律の決議などが含まれる。

 しかし、このハードな日程に対する議員への俸給はスイスの平均的給料の1割から2割程度。これは国会議員も同じで、議員はあくまで市民社会の代表として政治に参加し、多くの個人的時間を投入する兼業政治家だ。これを「スイスの直接民主制の根底をなすものの一つだ」とメタン氏は言う。
 
 ところでメタン氏の職業はスイス記者クラブの主催者。以前はジュネーブ州の日刊紙「トリビューン・ド・ジュネーブ ( Tribune de Genève ) 」の編集長を務めていた。
 「政治家と記者は両者とも公衆に訴え、相手の考えに影響を与えていくという点では同じで、過去の記者としての経験が役に立っている」
 と話す。

直接民主制の代表格

 州政治においてスイスの直接民主制を代表するものは「何と言っても州民が発議するイニシアチブと、議会が制定した法律に州民が反対するレファレンダムだ」とメタン氏は強調する。ジュネーブ州のイニシアチブは1万人分の署名を集めれば発議でき、それを州議会は法律と矛盾しないか検討したり、または新提案を提示したりする。

 例えば「今もまだ解決していない、公的な場での禁煙はスタートはイニシアチブだった」。3年前州民から提起され、議会ではホテルの部屋や刑務所など喫煙してもよい場所の例外を設けた法律を制定した。ところが禁煙支持者は例外を作るべきではないと反対し、喫煙支持者は例外が少な過ぎると反対し、結局同法はレファレンダムで否決された。そのうち連邦政府が喫煙禁止の法律を制定してしまい、現在はジュネーブの改正法が連邦法に合致しているか連邦裁判所で検討されているという複雑なプロセスをたどっている。
 
 ところで、州議会の今年の課題については
「時代を反映し、失業問題、老人ホームの改善、さらに隣接するフランスとヴォー州間での鉄道網の拡大や住宅開発問題などが主な議題になる」
という。

他国を威嚇せず平和を保つ誇り

 メタン氏は日本を2度訪れている。2回目は2008年5月で、武力によらない平和を目指す憲法第9条を世界に広めるための会議「9条世界会議ヒロシマ」の講演者として招待された。

「9条の特に第2項は、他国を武力によって侵略しないという点でスイスの中立性と呼応する。スイスは他国を侵略しなくても豊かで他国から尊重される国になった。経済的にも問題がない。問題がないどころか、侵略の危険性のない国ということで信頼され、その信頼に基づいて良い経済関係を築いている」
 とスピーチし、憲法9条を擁護した。

 メタン氏が属する政党は中道右派だが、
「右派、左派といった政治的立場を離れ、スイスの単なる一市民として憲法9条の大切さを訴えたかった。またスイスの憲法もそうだが、日本国憲法は初めはじめは他国であるアメリカから与えられたものだ。しかし、一度受け入れると国民のアイデンティティーの一部になり、それを誇りに思うようになる」
 という。武器を保持し他国を威嚇して平和を保つ多数派の国々の中で、スイスと日本は他国を侵略しなくとも平和を保てるという「ほかとは違う少数派」で、「特殊であるということは誇りにつながるのだ」ということを知ってほしかったと語る。

里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 、swissinfo.ch

1956年11月ヴァレー州/ヴァリス州に生まれる。
1978年、ジュネーブ大学で政治学の学士号取得。
1983~1989年、雑誌「戦略を持つ時代」の記者。
1992~1998年、ジュネーブ州の日刊紙「トリビューン・ド・ジュネーブ ( Tribune de Genève ) 」の編集長。
1998~2010年、「スイス記者クラブ ( Club suisse de la presse ) 」の主催者。

中道右派のキリスト教民主党 ( CVP/PDC )の党員で、ジュネーブ州議会議員。今年は州議会議長を務める。そのほか、国際記者クラブ会長、ジュネーブ赤十字社会長、スイス・ロシア・ウクライナ・カザフスタン・ベラルーシ合同商工会のスイスフランス語圏会長などを兼任する。

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