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スイスの通信・放送業界、業種超え競争加速へ

ケーブルコムが7月1日から割安なIP電話サービスを提供する。 Keystone

スイスの通信会社とケーブルテレビ(CATV)会社による業種間の垣根を越えた競争が加速している。

スイスのCATV会社ケーブルコムは7月1日から、同社の配信インフラを使って国内通信最大手スイスコムよりも割安な電話サービスを提供する。一方、スイスコムも来年から本格的に放送事業に参入する計画だ。

スイスコム、ケーブルコム両社とも全国に広がる自前の通信網を背景に、「総合通信事業」に名乗りをあげる。国内の通信事業と放送事業は、両事業の融合に一歩踏み出す新たな競争段階に入った。

IP電話で挑戦

 ケーブルコムは昨年からインターネットを使って格安通話が可能なIP(インターネット・プロトコル)電話サービスを始めた。IP電話は、インターネットで文字や画像を送るのと同じように、音声をデジタル信号に変え双方に送る仕組みになっている。

 価格はスイスコムの月額基本料金25.25フラン(約2,200円)に比べ、20フラン(約1,750円)と割安。7月1日からは夜間と週末が無料となる。

 格安にできる理由は、近くのサービス会社に電話をする市内通話料金にインターネットを利用する料金が加わるだけで、長距離通話料金を必要としないためだ。店頭で売られている格安の国際電話カードもこの方式を採用している。

 現在、固定料金でネットの接続が可能なように、IP電話を使えば全世界中、何時間話しても月額一定料金の通話が将来、実現するといわれている。

 ケーブルコムのルドルフ・フィッシャーCEO(最高経営責任者)は、今回の新価格レートは「今後も変えるつもりはない」と話す。同社のIP電話加入世帯は現在、約3万2,000世帯だが、今年末までに倍以上の8万世帯まで広げるつもりだ。

大競争の波

 一方、スイスコムもCATV業界に売り込みをかける計画だ。

 CATVは業者がテレビ局や衛星放送などの番組を受信し、敷設したケーブルを通して加入者に有料で番組を配信するシステム。ケーブルを利用すれば、インターネットやIP電話もできるため、加入世帯が急増している。

 連邦政府が67%保有するスイスコムの昨年の連結決算は、売上高が58億フラン(約5,070億円)と好調だった。ここで放送業界参入を決断する背景には、従来の電話システムの運営維持コストが増大、顧客獲得競争も激化しており、事業多角化で収益確保の道筋をつける必要があるためだ。

 同社は今夏、子会社スイスコム・ブロードキャストを通じて数百世帯を対象に、試験的に放送サービスを開始する。うまくいけば、来年にも全国で展開する見通しだ。スイスコムのジャン・アルダーCEOも「電話、ネット接続事業、デジタルテレビ放送を、一社で提供できれば強みになる」と話す。

 ただ、技術的な問題が立ちはだかる。ニュースや音楽など多くのチャンネルを同時に配信するには、既存の電話回線よりも広い(ブロード)周波数帯域が必要となる。このため、スイスコムの利用者が通信から放送サービスに切り替えたい場合、電話回線から放送回線に接続先を切り替えることを余儀なくされる。

 アルダーCEOは「接続がすばやく交換できて、利用者が苦にならないようなものにしないとダメだ。技術的な問題が克服できれば、500ものチャンネルを同時に提供するのも可能なはずだ」と話している。

 同社は切り替えが容易になる技術開発を目指し、今後5年間で10億フラン(約870億円)を投じる。


 スイス国際放送  ジェイコブ・グレーバー   安達聡子(あだちさとこ)

スイスコム vs ケーブルコム

�@ 電話回線: 
スイスコム、400万世帯に提供。ケーブルコムは3万2,000世帯。

�A テレビ放送: 
ケーブルコム、200万世帯に提供。スイスコムは今夏から数百世帯へ。

�B インターネット: 
スイスコム、59万6,000世帯にADSL(非対称デジタル加入者線)を提供。ケーブルコム、公表せず。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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