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スイスは盗難美術品天国?

インターポールサイトから、バグダッド美術館から盗まれた「ヌビア人を攻撃するライオン」、象牙、紀元前850〜750。 Interpol/British Museum

文化財不法輸出入等規制法などが存在しないスイスでは、美術品が税関を通らず「トランジット」できる。この種の無法状態を改善しようと政府はユネスコ条約批准するため、国内法の整合に取りかかっているが、骨董商など美術業界から激しい反対の声が出ている。

現行だとイラクで略奪された美術品なども5年後には合法的にスイスで売却できることになる。美術品の取引地として有名なスイスでは、イラク戦争前にもイラク政府がニニブ宮殿で盗まれたアッシリア王像の行方の捜査以来を申請している。

美術・骨董商天国のスイス

 欧州美術基金(TEFAF)の2002年の研究によると世界美術品売買総額の47%が米国、次いで、英国が25%、フランス7,6%ドイツが3%弱でスイスは世界5位の2,34%占め、総合売上高はスイスだけでも6億2千400万ユーロ(約840億円)にも及んだ。

 このスイスの美術市場における高い地位は、欧州で中心的な位置にあることと、現行のスイス法では文化財の輸出入に関する規制がないことによっている。スイスにはいくつかの「自由港」と呼ばれる税関吏の立ち入り検査のない倉庫(保管所)が存在し、通過(トランジット)する品物は輸入審査などを受けなくて済むため、多くの宝物が倉庫に眠っていると言われる。

 イタリアで違法発掘や盗まれた美術品がスイスを通過して洗浄され、他国へ運び込まれているとの非難を受け、92年以来、政府は文化財保護を目的とするユネスコ条約加盟のための国内法の調整を行っているが、長年美味い汁を吸ってきた美術業界からの反対が強い。

過熱する改正法案

 新しい法案は自由港の通過制度を廃止し、全ての品物を輸入品として税関に申告すること、盗難の事実を知らずに購入した者に対する文化財の返還請求権を現行の5年から15年に延ばすこと、さらに骨董・美術品の取得地などの申告義務強化などが含まれている。

 国民議会を通った改正案は6月にさらに上院の承認を得なければならないが、考古学者のコルネリア・イズラーさんによると「美術業界との妥協の産物。もっと強いものにならずに残念」と話す。同氏は「欧州諸国の返還請求期間は盗まれた時点から30年なのに改正案では15年を提案しているのは問題」といい「倉庫で15年眠らせておくのは可能だが30年となると難しい」と指摘する。

ユネスコ条約

 1970年に採択されたユネスコ条約(文化財の不法な輸出入および所有権の移転の禁止および防止に関する条約)は盗難のあった被害国から要請があれば返還するように定めている文化財保護のための条約であるが、日本は2002年に批准、発効している。現在96カ国の加盟国があるが、スイスも2004年に加盟予定。なお、日本の返還請求期間は文化財に関しては10年と定められている。

バグダッドの美術品の行方

 この他、文化財を守る条約に、戦争時の文化財保護を定めたハーグ条約があるが、戦争後の略奪に関しては当てはまらない。また、スイスが2004年にユネスコ条約に加盟したとしても、国際条約は遡及しないので、スイスでは5年後に合法的にバグダッド美術館の盗品を売ることができるということになる。


スイス国際放送、A.Y.

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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