スイスの視点を10言語で

スイスワインの魅力

チューリヒ市内にあるブドウ畑でも収穫が始まった。今年は猛暑のため3週間ほど早い。(撮影、マーク・レドソン) swissinfo.ch

ワインといえばフランス産やイタリア産が主流。スイスでワインを製造していることさえ、外国ではあまり知られていない。理由は、生産量が少なくスイス産ワインは国内で消費しきってしまうからという。スイスはワインの消費の6割を輸入に頼っている。

しかも、スイスは山国で、気候がブドウに合っていないという偏見もわたしたち日本人にはありはしないか。ところが、知る人ぞ知るスイスワイン。当地に住むワイン通のテスター浩美さん(41)のように、
「口当たりもよくキリリッとしていて好き」と、スイスのワインなら白がお勧めというファンは多い。 

外国にはあまり出回らないスイスワインだが、スイスワイン輸出協会は近年、日本でもプロモーションを行うなど、輸出に力を入れている。しかし、効果はまだあがっていないようで、
「日本ではアルプスの国スイスでワインを作っていることさえ知らない人が多い」
とスイス東部のオボンで3代目のブドウ畑を引き継いだ森本彗芝(もりもとふいち)さん(50)はマーケッティングの問題であると指摘した。
森本さんの6.2ヘクタールの畑から醸造されるワインの総量6万本のうち、1万本は日本へ輸出されている。

州がオーナーだったブドウ畑

 スイスでもフランスに近い西部のスイスロマンド地方やイタリアに接するティチーノ州のワインは特に有名。しかし、東部のドイツ語圏のワインも同様に、ローマ時代からの歴史があり見逃せない。
 たとえば615ヘクタールのワイン畑があり全国6位というチューリヒ州には、数多くのワイン製造者が腕を競っているが、州が経営していた畑もある。

 ベネディクト修道会がチューリヒ北部のライナウに居を構えた844年以来、修道院ではワインを醸造していたと記録に残っている。

 1000年を経てチューリヒ州がライナウを支配して以降、修道院の運営は苦境に。カトリックの修道院に対する増税策が敷かれたためと、ライナウ・ワインを紹介するパンフレットにある。

 増税のほか州の政策的な一連の「いじめ」により1862年、修道院は閉鎖に追い込まれ、ブドウ畑も州のものに。ライナウ修道院のほか、チューリヒ市内にあったフランシスコ会の修道院も実は、宗教革命により同じ運命をたどっていた。こうしてチューリヒは徐々に、広大なブドウ畑を所有するようになった。

 20世紀になるとワインは病院内での消費以外、外部にも販売されるようになりチューリヒ市内のレストランでも取り扱われるようになった。

 民間化促進の波に乗り、大手醸造会社に売却された97年後も、チューリヒ州セラーワインとしてのブランドは引き継がれ修道院の建物の浮き彫りが付いた立派なボトルで市販されている。

 宗教改革によりカトリックの修道院所属のブドウ畑が自治体に没収されたり、民間企業に売却した例はチューリヒ以外にも各地に見られる。チューリヒよりドイツに近いシャフハウゼン市も広大なブドウ畑を所有しており、こちらの畑は、修道院から民間企業へ、そして現在は、市が経営している。

スイスワインも負けてはいません

 ライナウの年間製造量はおよそ31万リットル。ちなみにスイスの総生産量は、1億1500万リットル。ブドウの種類は主にロイシュリングで、リースリング、ピノ・グリ、ブラウブルグンダー(ピノ・ノワール)も栽培されている。赤、白、ロゼがそろいその種類は30種。ほとんどが15スイスフラン(およそ1300円)前後で手ごろな値段。気泡性ワインやグレープジュースもある。

 ライナウ畑のシュテファン・フヴィラー代表によると、
「白ワインも赤ワインもフレッシュで軽い。白ワインは食前酒や魚に適し、赤ワインは日常の食卓を飾るワインとして適切」
という。
 ほとんど国内で消費されるが、ドイツ、ギリシャを始め、カザフスタンや韓国のホテルなどにまで輸出されている。

 例年より収穫は3週間早く、いまが最盛期。猛暑に見舞われ、若いブドウの木は水不足に絶えられなかったというが、チューリヒのブドウは10才から50才。霜やあられの被害もなかった。今年のワインは100年来の上出来と期待が掛かっている。
「収穫は乾燥のため、15%ほど少ないが、不景気から値段は据え置く」
とフヴィラー氏。今年のワインはお買い得なワインとなりそうだ。

珍しさがセールスポイント

 「ワインも食べ物の好みと同じ。珍しいワインを捜している人にはスイスワインは最適。シャスラの白はスイスでしか作られていない」
と前出の森本さん。珍しいことも売り物のスイスワイン。どれが良くてどれが悪いかなどとは人それぞれの判断だが、スイスワインは和食に合うと太鼓判を押した。

 輸出されずに国内で消費されてしまうが、国内ではスーパーマーケットで簡単に手に入るスイスワイン。スイスを訪れた記念に是非1本、日本へお持ち帰りになられるのはいかがだろうか?

スイス国際放送 佐藤夕美(さとうゆうみ)

連邦経済省農業局のワイン統計によると、今年度(2002年7月1日から今年6月末まで)スイスで消費されたワインの量は2億8580万リットル。前年より1.3%少なかった。

全体の消費の4割を占めるスイス国内産のワインの消費量が減少していることが理由。

国内産赤ワインの消費量は3.3%、白ワインは8.5%前年より少なかった。

輸入ワインの消費量は増加し、特に白ワインの消費量は6.9%増だった。

日本の消費量 1人あたり 2.5リットル

スイスの消費量 1人あたり 51リットル                       

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部