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スイス最大の民族祭

スイス最大の民族祭「ウンシュプンネン」。200年前に開催された当時から、たくさんの見物人が集まった。 swiss-image

ウンシュプンネン祭が9月1日から3日間インターラーケンで開催される。スイス全国から色とりどりの民族衣装を着た人たちが、ダンスをしたりヨーデルを歌う。昔は牛飼いの娯楽だったというスイス式相撲や石投げ競技に、男たちが力試しをしに来る。

起源は1805年。昨年が200周年だったが、インターラーケンの駅も水浸しになるなどベルナーオーバラント一帯が洪水に見舞われ、祭は中止された。今年はその分も楽しもうとスイス人や観光客の期待が高まっている。

 人口5000人の小さな観光地に押し寄せる見物人は10万人。内外から報道陣が500人は来ると主催者はいう。祭に直接参加するスイス人は4000人。「スイスには民族衣装が700種類もあり、スイスの文化は多様だ。12年に1度しか開催されない、スイスの伝統文化を体現するスイス人が一堂に会する祭です」と主催委員会の代表ウェーリ・ベットラーさんは宣伝する。

起源は村と都市の和解から

 スイスがナポレオンに実質的に支配された19世紀初頭、それまで都市と村は同等の権利を持っていたが、ナポレオンによる「 調停法 」により、ベルン地方では都市の貴族が再び権力を持ち始め、村と対立した。両者の和解をはかるためにベルンの貴族が企画したのが、ウンシュプンネン祭である。

 アルプスに伝わる伝統を新たに評価するのもその時の目的だった。特に、アルプホルンの奏者で第1回ウンシュプンネン祭に参加できたのは2人だけ ( クリストフ・ヴィースさん、郷土歴史研究家 ) で、アルプホルンは、祭によって救済されたともいえるという。

観光業の起源となった祭

 ヴィースさんは祭が200周年を迎えるにあたり、その歴史を本にまとめ出版した。「ウンシュプンネン祭は政治的な意図で始まったが、ベルナーオーバーラントの観光を広める大きな役割を担った」と語る。第1回が開催された1805年には、フランスの新聞にも広告を載せ、ベルンの貴族たちが積極的に外国人の知り合いを招待したのだという。

 こうして3000人もの人がインターラーケンを訪れた。第2回の1808年は、スイス建国500年を記念 し ( 要約を参照のこと ) さらに盛り上がり、訪れた観光客は5000人に上った。当時、ホテルは2軒しかなく、地元の人たちが観光客を受け入れたが、ジュネーブの銀行家ネッケルの娘など有名人の名前も残っている。

 およそ100年の空白の後、第3回は1905年に開催されたが、その時もインターラーケンの交通局が積極的に観光誘致の1つとして、ウンシュプンネン祭を利用したのだという。その効果があってか、現在のインターラーケンは多くの観光客が訪れる名所の1つとなっている。

投げることなんて無理な石投げ

 開催当初からスイス式の相撲、石投げなどアルプスの農村で行われていたスイスの伝統的な競技があり、民族衣装を着た人々が祭りに興じた。大砲の弾を投げたり、口にくわえたスプーンにタマゴを載せて走るというものもあったが、現在は消滅した。
 
 石投げはドイツ語でSteinstossenといって「石押し」という意味。「投げるなんて無理」と言うのは、インターラーケンから唯一この競技に参加するペーター・ミヒェルさん。83.5キログラムの石を頭上まで上げゆっくり助走し、腕を少しだけ後ろに曲げることで石に勢いをつけ、押し投げる。助走せずに石を頭上まで上げてそのまま地面に投げつける人もいる。そもそも力が足りず、腕を曲げることなどできないという。

 木材工場オーナーのミヒェルさんは、体重が石と合計すると200キロ、身長が197センチメートルという巨漢だ。長身なので遠くまで投げられる利点はあるが、助走のときにバランスを取るのが難しいのだそうだ。それでも彼の助走距離はほかの人より2倍はある。

 「数人がかりで石を運んでいるのを見て、手伝おうとした。わたし1人で軽々と持ち上げることができて、周りをびっくりさせたのがきっかけ」で3年前から石投げを始めた。すでに3.9メートルを記録しており、今回の目標は4メートルという。

政治に使われた石

 ウンシュプンネンの石は、スイス国内でもっとも有名な石だ。草刈り鎌を研ぐ際に鎌を固定するのに使われていた石が、石投げにちょうど良いとされたと伝わっている。1905年に新しい石が探されたが「1808年と同じ石だった可能性がある」とヴィースさん。以後毎回、同じ石が使われてきた。

 ところが、その石は1984年、ジュラ地方の独立を支持するグループに盗まれてしまった。独立運動と祭のつながりがないことから、石が狙われた理由ははっきりしない。1999年にはブリュッセル近郊にあるワインセラーで発見されたが、その後も欧州共同体 ( EU ) の旗を意味する星が刻まれるなど数奇な運命をたどり、現在どこにあるのかは分からない。1985年のウンシュプンネン祭からは、オリジナルと同じ重さで、同じような形に削られた石が使われている。

 ウンシュプンネンの石は銀行の金庫に保管されるほど大切にされ女王様のようだというミヒェルさんは、星が刻まれたオリジナルには興味はないという。「刻まれた星の分2.3キログラム軽くなっているし、石投げには政治はふさわしくありません。オリジナルが発見されても、誰も投げようとしないでしょう」と言う。ミヒェルさんは、自分で作ったレプリカの石で練習に励んでいる。

swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) インターラーケンにて

<1808年が建国500周年>
現在は1291年が建国年とされるが、19世紀初頭は1308年だったという史料を元に、500周年を祝った。

<ウンシュプンネンの石による石投げの記録>
ルツェルン ( 1948年 ) でのアルプス祭で投げられた2.89メートルが長い間の最高記録だった。1998年にベルンのスイス相撲祭で3.97メートルが記録された。2004年にミヒェルさんのライバルが4.11メートルを記録し、現在に至っている。

9月1〜3日まで
<問い合わせ>
インターラーケン観光局
電話 +41 33 826 56 56
石投げ決勝は2日14時30分から
3日10時からパレード

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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