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スイス、核燃料の最終処分場で模索  国際的枠組には慎重

スイス初のベツナウ原子力発電所。同国では現在、5基が稼動中。 Keystone

スイスが国内の原子力発電所から出る使用済み核燃料の最終処分場を求めて模索している。

海外で処分することも含めた包括的な解決策を見つけようと、欧州連合(EU)が立ち上げた研究プロジェクトにスイスも参加する。スイス当局は今後2年間で同プロジェクトに22万フラン(1,900万円)を出資することを決めた。

政府は、同プロジェクトへの参加が「国益になる」とはしながらも、「国民の決断に優先するものではない」と説明する。自国の放射性廃棄物の基本政策に基づき、国内で直接処分することを望んでいるようだ。

スイスの原発事情

 スイスでは原子力発電を早くから始めている。北部のベツナウ原子力発電所が初めて運転を開始したのは1969年。原子力開発はその後、70年代に相次ぐ石油危機で加速した。現在、全国で5基が稼動している。

 連邦エネルギー局によると、スイスの原子力発電は発電電力量の約40%を占める。これに豊富な水力資源を利用した水力発電が加わり、電力需要のほぼ全てを賄う。

 原子力が水力と並ぶ重要なエネルギー源と位置付けられている背景には、同国に原子炉を造る重電メーカーがあるだけでなく、永世中立国の立場からエネルギーの海外依存を嫌う意識もあるという。

 スイスでは放射性廃棄物を発生させた者が最終処分の責任を負う。このため、電力会社と、医療・研究廃棄物を管理する連邦政府が共同で設立したNAGRA(放射性廃棄物管理共同組合)が処分場の選定を行うことになっている。

国際処分場の場合

 NAGRAの科学技術部長を98年まで20年近く務めたチャールズ・マッコンビー氏は、海外という選択肢も含め、「今の段階で最終処分場を決めるのは時機尚早だ」と話す。

 2年前、ロシアが使用済み核燃料を海外から集め、国内に最終処分場を作ることに関心を示したが、スイスは安全性の問題から却下した経緯がある。「ロシアが国際的な処分場となる選択肢が浮上する前にまず、国際的な査察体制をしっかりと築く必要がある」と同氏は指摘する。

 環境保護団体グリーンピースのスイス支局のイブ・ゼンジャー氏は、国際処分場は「電力会社が単に自分達の問題を海外へ輸出しようとしているだけ」と冷ややかに見る。「ロシア国内には環境基準がなく、国民もすでに原発による被害を被っているのに」と話す。

国内処分場の選定

 86年に旧ソ連ウクライナ共和国で起きたチェルノブイリ原発事故を機に、世界各国で原子力反対の動きが生まれたが、今では原発容認論が復活している。スイスもその一例で、昨年行われた国民投票では、原子力発電の停止などを求めた2つの反原子力法案が否決された。

 スイス当局は、原子力発電所で生じる使用済み核燃料の再処理を英国とフランスに頼み、処理後再び国内に運び戻して管理施設に約40年間貯蔵し、それから最終処分場となる地中に深く埋める計画だ。

 だが、最終処分場の選定作業は難航している。スイス中部ルツェルンの近郊に高、中レベルの放射性廃棄物の地層処分施設を建設する提案が2002年に住民投票で否決されている。

 NAGRAは現在、東部に最終処分場を立地するプロジェクトの可能性を調査している。 


 スイス国際放送 ウルス・ガイザー  安達聡子(あだちさとこ)

使用済み核燃料とは:

原子力発電所から取り出した燃えカスの核燃料のこと。

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