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デジタル格差を解消できるか デジタル連帯基金を承認

欧州国連本部で会見する国際電気通信連合(ITU)の内海義雄事務総局長。 Keystone

将来の情報社会のあり方をどうデザインしていくかを考える、国連主導の第2回世界情報社会サミット(WSIS/2005年11月)に備える第2回準備会議で、前サミットで先送りになっていた、途上国のIT開発を資金的に支援する「デジタル連帯基金」のあり方について決まった。

加盟国に承認を得たこの基金はセネガルのワッド大統領とジュネーブ市が提案し、2004年8月に創設されもので、あくまでも自発的な拠出に基づくということで新たな基金設立を渋っていた先進諸国の合意を得た。

この基金は科学技術と経済格差がそのまま情報格差(デジタルデバイド)につながる悪循環を断ち切るためのもので、IT革新が発展途上国の武器となるように援助するのが目的だ。世界で最も貧しい国々が対象になる。スイスの法法に基づくデジタル連帯基金(Digital Solidarity Fund)はジュネーブ市やフランスのリヨン市、イタリアのトリノ市などが賛同し、現在のところ120の自治体が基金拠出を約束している。

なかなか進まないサミット

 スイスの連邦情報局(COMCOM)の事務局長であり、WSISのスイス代表であるマルク・フーラー氏は今回の準備会議について「もう、既に前サミットで決まったことをむし返す議論が目立ち中々進まない 」と苛立ちを隠せない。スイスはこれまでも前サミットのホスト国として多くの予算と労力を使ってきた。それでもフーラー氏は「デジタル連帯基金が加盟国に承認されたことは大きな一歩だ」と評価した。

先の見えないインターネット管理体制

 前回のサミットで最大の難題であり、論点となったのはインターネットの国際的な管理体制だ。現在、インターネットのドメインネームやIPアドレスの配分などの管理は米国の民間団体ICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)の主導で行っている。前サミットで、一部の途上国から、これを国連のような中立的な機関に統治権限を委譲すべきとの声が出ていた。先進国などは現行の民間主導による柔軟な管理体制を支持しているため、前回は、国連に作業部会を創設して報告書を検討するということで決定は棚上げになった。

 今回の準備会議ではこの作業部会の報告書がまだ出ていないため、議論を進めることができなかった。次回ジュネーブで行われる第3回準備会議(9月)で激しい論争がおきるのは必至だろう。一部の関係者からは「チュニジアでも結論は出ないだろう」との見方も出ている。

チュニジアへの険しい道

 国際電気通信連合(ITU)の内海義雄事務総局長は25日、ジュネーブでの会見で今回の準備会議について「第一段階のジュネーブでは情報社会のデザイン構築に成功した。第二段階のチュニジアを成功させるにはジュネーブで採択された基本宣言や行動計画をどう実行に移すかにある。その意味でデジタル連帯基金を加盟国が受け入れたことは大きい成果だ」と語った。

 しかし、NGOなどからは「この基金は“自発的”なもののうえ、概にあるものを認めただけで、何の進展もない妥協策だ」といった厳しい批判も出ている。

 言論統制が厳しいとされるチュニジアでの次期サミット開催について、前出のフーラー氏はスイスインフォに「チュニジア政府が国連のルールに則ってメディアや市民団体をサミットに参加させることを期待している。もし、そうでなければサミットは悲劇的なものになるだろう」と語った。


swissinfo  屋山明乃(ややまあけの)

<世界情報社会サミット / World Summit on the Information Society>

– 世界情報社会サミットはインターネットが生活に浸透してきているいま、今後の情報社会をどうデザインしていくかを考える初めてのサミット。

– 第1回サミットはスイスがホスト国で、ジュネーブで2003年12月10日から12日に行われ、176カ国、各国政府やNGOなど約2万人が参加した、原則宣言と行動計画が採択された。

– サミット第2回は2005年11月16日から18日にチュニジアのチュニスで行われる予定。これまでの成果を評価し、今後、実地すべき行動計画を採択する。

– 各サミットはそれぞれ3回の準備会議と世界各地の地域準備会議が開かれてから行われる。

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