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世界禁煙デー スイスの喫煙・禁煙事情

スイスでは3人に1人が喫煙者 Keystone

他の欧州諸国と比べて禁煙の場所が少なく、たばこが安い喫煙者天国のスイス。たばこの消費削減を目指す「たばこ規制枠組み条約」は世界保健機関(WHO)の本部ジュネーブで交渉された産物だ。しかし、スイス国内での禁煙策はまだまだのようだ。

世界禁煙デーに際して、スイスで今年は「子供が喫煙者にならないために親がモデルを」と親への禁煙キャンペーンを展開している。一方、WHOは「医療関係者が患者に禁煙を促すように」と呼びかけている。

この他、スイス喫煙予防連盟は世界禁煙デーのイベントとして1ヶ月(6月5日〜7月5日まで)禁煙したら5000フラン(約43万円)の賞金が得られるコンテストを実施。あの手この手で難しい「禁煙への道」を支援している。

親が止めれば子も止める?

 同連盟によれば、米国で行われた研究によると子供が8歳、9歳になる前に禁煙をできた親は子供が後からたばこを吸わなくなる傾向があるという。同研究は両親が禁煙に成功した場合は子供が17歳、18歳でたばこに手を出す確率が39%減るといい、「親が子供の良い例」となるように奨励している。

医療関係者に喫煙者が多い?

 WHOの発表によると医療関係者による禁煙アドバイスは患者の禁煙率を30%も上げ、看護婦による禁煙への支援があった場合は禁煙率が50%も上がるという。WHOはより多くの人と接触があり、最も情報を有している医療関係者が禁煙を促すことが最も効果的であるとみている。

 WHOが行った10カ国を対象にした保健、医療分野で働いている人への調査によると、多くの国で医療関係者の喫煙率がその国の平均より上回った。ロシアでは男性医師の63%が喫煙者、中国では男性医師の61%が喫煙者だという。

 これに対してWHOのデコスタシルバ医師は「自らが吸っていては患者に禁煙を積極的に勧められないので残念だ。医療関係者は自分のためにも他人のためにも喫煙をするべき」と手厳しい。

受動喫煙の害

 また、連邦健康局も職場での受動喫煙(非喫煙者が喫煙者のたばこの煙を吸うこと)をなくすキャンペーンを打ち出した。同局によると職場で半数以上の人が、たばこの煙にさらされており、これによる肺がんや心臓への疾患、ぜんそくなどといった問題が軽視されていると警告している。

禁煙に関してはまちまちのスイス

 スイスが「たばこ規制枠組み条約」の批准に必要な法整備にはまだ、広告の原則禁止、未成年への販売(スイスでも自動販売機がある)、受動喫煙の予防などがある。連邦制のスイスでは喫煙に関する法律も州によって異なるため、それぞれの州の法整備が整うには2010年ぐらいまでかかりそうだ。

 スイスではたばこ1箱5.80フラン(約503円)、税率が60%で近隣諸国の75%〜80%に比べると低いほうだ。

 ジュネーブでは最近、政府機関の建物や病院、大学では全館禁煙となった。しかし、レストランやバーなど公衆の場での喫煙を禁止したイタリアやアイルランドなどの欧州諸国と比べるとまだまだ、「たばこ後進国」と言える。

 スイスがたばこに対して甘いのは「日本たばこ(JT)、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)やフィリップポリス・インターナショナルなど多くの外国たばこ産業の欧州本部がスイスにあるからだ」との声もある。もっともこれを「煙たい話」とたばこ業者は反論するだろう。


swissinfo  屋山明乃(ややまあけの)

-世界保健機関(WHO)が1987年から始めた世界禁煙デーは5月31日に定められている。

-WHOは今年の世界禁煙デーに「保険医療関係者が患者に禁煙を促す重要性」を呼びかけている。

-WHOでは世界のたばこ消費削減を目指す「たばこ規制枠組み条約」が2003年の5月、192カ国から承認され、今年の2月27日に発効された。

-「たばこ規制枠組み条約」ではたばこの広告の原則禁止、包装面積の30%以上の警告表示、税制による値上げ、未成年者への販売禁止、職場などでの受動喫煙の防止、公衆の場での禁煙などを定める。批准した国は3から5年間以内に国内の関連法の整備を迫られる。

-日本はこの条約に2004年3月に調印し、2004年6月に批准した。

-スイスはこの条約に2004年6月、調印したものの、法整備が整っていないのでまだ批准していない。なお、たばこ消費大国である中国や米国も条約に調印したものの批准していない。

-WHOによると今後50年間で、たばこの害による死亡者数は4億5千万人に及ぶだろうと予測している。

-連邦健康局によるとスイスでは毎年、たばこによる被害で8,000人が死亡し、うち800人は受動喫煙による。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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