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人権審査、日本は死刑制度維持を再確認

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6月2日から18日まで開催されている第8回国連人権理事会で、すでに審査を受けた32カ国の審査結果文書が採択された。

「普遍的定期審査」は全国連加盟国192カ国の人権を4年間で審査する新制度として注目されている。4~5月に審査を受けた32カ国は、審査制度の最終段階として今回、他国からの勧告への返答を付けた審査結果文書を提出し、今後4年間の人権改善のガイドラインを明らかにした。スイスと日本両国の結果文書は6月12日に採択された。

人権の具体的な改善

 スイス代表の連邦外務省人権局長ポール・セゲール氏は、冒頭演説で、
「勧告された31項目中、8項目はすでに実行されているもので、6項目はただちに受け入れ、2項目は拒否した。残り23項目は各担当局などと検討した結果、14項目を受け入れ、9項目を拒否した」
 と具体的に表明した。

 スイスでは最近、右派国民党 ( SVP/UDC ) などによるスイス在住の外国人の権利規制を求めるようなイニシアチブが国民投票にかけられ、外国からもひんしゅくを買い、こうした傾向に反対する勧告が焦点の1つとなった。これに対しセゲール氏は、
「国際的人権擁護に参加するスイスの人権政策をかんがみ、イニシアチブが発足した場合でもこれを国民投票にかけることを認めるか、否かのメカニズムを構築する」
 と保証した。また連邦人権機関の創設勧告に関しても、積極的に可能性を探っていると述べた。

 締めくくりにセゲール氏は、「普遍的定期審査 ( Universal Periodic Review・UPR ) 」のスイスにとっての収穫として、国内の約30のNGOが連合を形成したこと、また、人権の概念が含むさまざまな主題の枠を取りはずして、NGOなどと活発な議論ができたことを挙げた。さらにスイスのジュネーブで、UPRという、人権の具体的な改善を受け入れるプロセスが行われたことは喜びだと述べた。

受け入れるか否かを国際社会で宣言

 同じく1カ月前に人権審査を受けた日本は、6月12日代表の宮川眞喜雄 ( まきお )大使が他国からの26の勧告に返答する形で冒頭演説を行った。人権教育をはじめ、児童、女性、障害者などの人権問題で多くの改善を行ってきたことや、今後の努力を表明した結果文書が数カ国から高い支持を得た。

 しかし、ヨーロッパ十数カ国から勧告を受け、焦点の1つとなった死刑制度廃止問題では、
「日本政府は死刑制度の廃止も、モラトリアム ( 一時停止 ) も受け入れる立場にない」
 と表明した。

 死刑廃止を支持してきた日本弁護士連合会 ( 日弁連 ) の代表としてスピーチを行った大谷美紀子氏は
「これほどはっきり宣言されるとは思わなかった」
 と落胆の色を隠さなかった。UPR の結果文書で今回受け入れないと宣言された項目は、次回4年後の審査の対象にならないからだ。

 一方UPRそのものは、国際法に関わる一人の弁護士として高く評価し、
「受け入れる、受け入れないを国際社会で明らかに宣言すること、一国の人権問題を総まとめにできたこと、さらに192カ国が平等に審査台に立つこと、この3点の意味は大きい」
 と分析した。例え「受け入れない」という宣言でも、その否定的態度が他国に知られることが重要だと見る。

 また、外務省外交政策局人権人道課長の木村徹也氏は、結果文書が採択された後の人権問題の具体的取り組みについては、
「新しい制度なので、どこから手をつけていくか、今後じっくり検討してから始めたい」
 と語った。

 いずれにせよ、今回結果文書が採択された32カ国は、これをガイドラインに模索しながら人権改善を行い、4年後に再審査を受ける。

swissinfo、里信邦子 ( さとのぶ くにこ )

国連人権理事会 ( HRC ) が行う全加盟国192カ国の人権状況を4年間で審査する新しい制度。各国の人権を、普遍的かつ平等に審査する制度。

第1回審査は4月7~18日で、イギリス、ブラジル、南ア、モロッコなど、第2回は5月5~19日で、パキスタン、フランス、スイス、日本など、16カ国が審査を受けた。2011年に予定された第12回セッションで192カ国の審査が終了する。

審査前に、被審査国は自己評価である「政府の人権状況報告書」を提出。国連人権高等弁務官事務所 ( OHCHR ) が「国連の人権条約機関の報告書」、「NGOの報告書」を用意する。これらの3種類の性質が異なる資料を基に、国連加盟国は被審査国の人権に関し、質問、勧告を行う。

1国に関し3時間に及ぶ審査が行われる。会期中は1日に午前、午後と2カ国が審査を受ける。審査終了から48時間後に、報告書が作成され採択される。

その後の人権理事会で被審査国が勧告に返答した文書をつけた、審査の結果文書が採択される。

今回6月2日から18日まで開催されている第8回国連人権理事会で、4~5月に審査を受けた32カ国の結果文書が採択された。

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