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国連人権理事会の枠組み作り、土壇場で決まる                     

国連総会が指定した締め切り時間である深夜12時に修正議長案草案が全会一致で合意に達した Keystone

18日深夜、ジュネーブで開催中の人権理事会の第5回会期最終日にここ1年来、話し合われている人権理事会の新制度作りがようやく全会一致で採択され、19日に承認された。

前身の人権委員会から国別決議案や特別報告官といった制度を引き継ぐかどうかで、先進国と途上国の対立が続いていたが、妥協の賜物である修正議長案が承認された。

 ルイス・アルフォンソ・デ・アルバ議長 ( メキシコ ) が提案した修正議長案で人権侵害があると想定される国へ調査官を置く「特別報告官」制度や、北朝鮮やミャンマーなど人権問題国を対象とした「国別非難決議」制度を維持することができた。その代わり、キューバとベラルーシに関する特別報告官は廃止されることになった。

国別決議の中国の抵抗

 国別非難決議に反対する中国は従来の単純過半数から、事実上これを不可能にする3分の2以上の採択への変更を提案していた。日本や欧州連合 ( EU ) など先進国がこれに強く反対し、最終的には「できる限りの多くの国、せめて15カ国ほどの合意を得る」ことで決着した。 

 外交筋によると、北京オリンピックを1年後に控える中国にとって、これ以上固執してコンセンサスを破ることが政治的に得策でないとの判断で妥協に踏み切ったとみる。 

 19日、アルバ議長は「加盟国、みんなが妥協しました。これは完璧な内容ではありませんが、交渉が完璧な内容に行き着くことはありません」と語った。

スイスが後押しする普遍的審査

 人権理事会で新しく設置されるのは国連加盟国すべてを対象とした人権状況を審査する「普遍的定期的審査 ( UPR、universal periodic review ) 」。これまでスイスのミシュリン・カルミ・レ大統領兼外相が強く後押ししてきた。これは国連加盟国すべてを対象とした人権状況の定期的審査制度で、毎年48カ国が4〜5年置きに審査される。

 国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」はキューバとベラルーシの特別報告官の廃止について正当化できないと評価したが、いずれにしてもキューバやベラルーシはこれまで特別報告官の訪問や協力を拒んでいたと確認した。

スイスの反応

 スイスの国連代表部ブレズ・ゴデ大使は今回採択された修正議長案に関して、「すべての加盟国が歩み寄ったバランスの取れた内容」と評価した。しかし、最終案に普遍的定期的審査において、独立した専門家をサポートする内容が盛り込まれていないことを悔いた。また、スイスは新しく特別報告官に課される規約 ( code of conduct ) に関して 懐疑的だったものの、最終的には妥協した。

 初年度、最大の任務であった運営ルール作りの幕が閉じた。今後、新制度がどのくらい人権理事会の機能、効率を高められるかが焦点となるが、近い将来にその答えが出るだろう。

swissinfo、外電 屋山 明乃 ( ややま あけの )

<人権理事会とは?>

- 人権理事会 ( Human Rights Council ) はコフィ・アナン前国連事務総長の強いリーダーシップで、2006年3月に国連決議によって、従来の人権委員会に代わって国連総会の下部機関として格上げされ、新たに設置された。

- 従来、機能していないと非難を受けていた人権委員会を廃して、もっと効果的な人権擁護機関を創設する意味で作られた。しかし、自国への非難を回避しようとする途上国と先進国との間で対立が続き、発足1年来、組織の運営ルールについての交渉が難航していた。

- 人権理事会は年3回、合計10週間以上の会合をジュネーブで定期的に持つ。この定例会合のほか、深刻な人権侵害が行われている場合、加盟国の3分の1以上の要請による緊急の特別会を開き、即時対応できるようになっている。

- 加盟国は47カ国でアジア、アフリカ、アメリカ、東欧、西欧とそれぞれの地域配分で構成され、任期は3年間。スイスや日本も理事国に選出されている。なお、アメリカは理事国に立候補してない。

- 理事国に深刻かつ組織的な人権侵害が行われた場合は、総会で投票国の3分の2以上の票を得た場合に理事国失格となる。

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