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児童労働との戦い 国の行動計画の後退を許すな

Dorothée Baumann-Pauly

ビジネスにおける人権問題の専門家ドロテ・バウマン・ポーリー氏は、児童労働を撲滅するには、企業に対する測定可能な目標の設定が必要だと訴える。

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国際労働機関(ILO)によると、1億人を超える子どもが農業、漁業、水産養殖、林業、畜産などの第1次産業に従事している。5~11歳の児童労働者の約4分の3が第1次産業で働く。児童労働は子どもの健康と福祉に悪影響を及ぼす。また、多くの子どもたちが学校に通えずにいる。

スイスのチョコレート産業とコーヒー産業は特に、児童労働をめぐる経営上のリスクや風評リスクにさらされている。カカオとコーヒー豆のサプライチェーンは長年にわたり、否定的なメディア報道やNGO(非政府組織)の厳しい監視の対象になってきた。スイス企業は調達量が多く、農場レベルの労働条件を左右するほどの影響力を持つ。

一部の企業はすでに、持続可能なカカオ調達を強化するため2018年に設立された「スイス・サステナブル・カカオ・プラットフォーム外部リンク(SWISSCO)」や、昨年設立の「スイス・サステナブル・コーヒー・プラットフォーム外部リンク(SSCP)」に協力している。どちらもスイスの連邦経済省経済管轄局(SECO)が支援する取り組みだ。スイス政府は、これらの官民連携イニシアチブが児童労働の撲滅に向けた明確な目標と行動計画を策定するよう、はっきり「期待」を示すべきだ。

野心を欠く計画

スイス政府は2024年末、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」の実施に向けた「国の行動計画外部リンク(NAP)」の改定案を採択した。草案は、SECOと外務省の主導のもと、経済団体、労働組合、NGO、学術界の代表から成る専門家グループが作成した。私もメンバーの1人だ。

だが、改定NAPは、専門家グループの草案を反映したものではなく、ビジネスにおいて人権意識を高めるのに役立つ活動を列挙したものに後戻りしている。旧NAPに関する評価報告書(スイス政府が委託)は、「意識の向上ではもはや十分ではない」と結論づけていただけに驚きだ。意識向上ではなく、児童労働といった実質的な問題について測定可能な目標を定める必要がある。

改定NAPは野心に欠けるが、何もかも失われたわけではない。専門家グループの主要メンバーは、改定NAPに付属するより詳細な実施計画を策定・公表することで合意した。SWISSCOやSSCPのようなスイスの官民連携イニシアチブが児童労働の撲滅に向け測定可能な目標を掲げ、影響力のある活動を主導していくよう「期待」を明示するためだ。イニシアチブは進捗状況を長期的に測定・報告できるよう、標準や測定基準を設定し、評価方法を編み出すべきだ。

学術界も、ベースライン調査(編注:プロジェクト効果を測るための基点となるデータの収集・分析)という形で影響測定に貢献できる。主要なパフォーマンス指標の策定や進捗状況の評価も可能だ。

実施計画の策定にあたっては、スイス政府が改定NAPの対象期間(2024~27年)に何を成し遂げたいかを目星とすべきだ。

「良き企業市民」

企業に、スイス国内での雇用創出と納税、そして世界中の「良き市民」であることを期待している――SECOのヘレーネ・ブドリガー・アルティエダ局長は1月、ツークで開催された商品取引業者向けのイベント外部リンクでこう述べた。「良き企業市民」という曖昧な表現が、2027年には実際の影響を示すデータで裏付けられれば有益だ。

これは時代の精神を反映するものでもある。スイスでは1月、企業が社会と環境に与える悪影響への規制強化を求めるイニシアチブ(国民発議)が(国民投票にかけるために必要な10万筆を大幅に超える)約18万筆の署名を集めた。この2回目の「責任ある企業イニシアチブ」への圧倒的な支持は、多くのスイス国民が企業の競争力と持続可能性を両立できる目標とみていることを示している。

スイスの食品・飲料メーカーにとっては、利益追求と規範を調和させる解決策を率先して提案する好機ともいえる。スイスの行動計画には、提案する責任が官民連携イニシアチブにあると明記すべきだ。

※この記事で述べられている見解はあくまで筆者のものであり、必ずしもswissinfo.chの見解を反映するものではありません。

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編集:Anand Chandrasekhar/vm、英語からの翻訳:江藤真理、校正:ムートゥ朋子

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