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家事労働者の賃金をクリーンに

ILOの専門家マヌエラ・トメイ氏は、不景気の影響を最も受けやすいのはこの掃除婦のような家事労働者だと言う Keystone

最低賃金の保障もなく、ほぼ最低水準の賃金しか支払われないスイスの家事労働者は不景気の影響を最も受けやすい。

このたび連邦当局は、最低賃金を含む家事労働者の労働契約問題およびジュネーブ州と同様の基準を設ける計画を発表した。

最低賃金の保障

 正確な数字を入手することは難しいが、ジュネーブを基盤とする労働者の権利保護組織「インタープロフェッショナル・ワーカーズ・ユニオン ( Interprofessional Workers Union ) 」は、スイスには未登録の家事労働者が約5万人いると指摘する。

 同組織によると、ジュネーブ州では合計約7000人が家事労働者として働いており、そのほとんどが女性だ。またそのうち約5000人は不法滞在者か、不法滞在者でなくとも家事労働者として得た収入に対する税金を支払っていない。

 先週国際労働機関 ( ILO ) が世界各国の賃金についてのレポートを発表したが、バングラデシュ、サウジアラビア、日本、ヨルダン、ペルー、タイと同様、スイスも家事労働者に対する最低賃金の保障を設けていないことが強調されている。しかし最低月額賃金を3430フラン ( 約26万5200円 ) と定めているジュネーブ州は例外だ。

最大の被害者

 ほかの低賃金労働者と同様、家事労働者は不景気とその後に起こる賃金削減の最大の被害者になるとILOのマヌエラ・トメイ氏は述べる。
「大きな被害を受けやすいのが中流階級ですが、その前にまず家事労働者に影響が出ます」
 
 ジュネーブ州を除く家事労働者の賃金に関するスイスの法律は、州と家事労働者の法的立場によって異なり、時給10フラン ( 約770円 ) から35フラン ( 約 2700円 ) と幅広い。

 ガイドラインを持つ州もあり、ヴォー ( Vaud ) 州は1時間当たり17フラン ( 約1300円 ) 、バーゼル州は20フランから30フラン ( 約1550円から2320円 ) を基準としている。
「しかしガイドラインはガイドラインでしかなく、べつにその通りにしなくてもよいということなのです」
 と「スイス・トレード・ユニオン連合 ( The Swiss Trade Union Federation ) 」のダニエル・ランペール 氏は指摘する。

 最高賃金が支払われている州は、1時間当たりの手取り賃金が25フランから35フラン ( 約1930円から2700円 ) のチューリヒのようだ。

「深刻で波乱に満ちた」

 ジュネーブ州の家事労働者の状況が「厳しく」、「不安定な」一方、スイスのほかの州の家事労働者は「深刻で波乱に満ちた」状況になっているとインタープロフェッショナル・ワーカーズ・ユニオンの家事労働者専門家のジャンジョルジョ・ガルガンティーニ氏は述べる。

「時間給の場合きちんと支払ってもらえますが、フルタイムの場合、給与が全額支払われるケースは半分くらいです」
 家事労働者には法的な権利がなく、労働許可書を持っていない場合、しばしば状況は波瀾万丈になる。問題が積み重なり困窮状態に陥りかねないとガルガンティーニ氏は付け加える。

 そのため、「連邦三者間委員会 ( The Federal Tripartite Commission ) 」は、来春政府に提出する予定の最低賃金を含む家事労働者の契約基準を発表した。それ以前に連邦経済省経済管轄局 ( seco ) はジュネーブ大学に研究を委託し、一般的に家事労働者の給与はほかの職業の給与よりもかなり低いことを確認している 。また不景気のプレッシャーによって賃金が低下する傾向にある。
「多くの場合、全家事労働者の4分の1の賃金は許容レベル以下です」
 とsecoの労働部長セルジュ・ガヤール氏は語った。

組織の不在

 すべての家事労働者の最低賃金額が規定され、その承認がなされるべきだが、スイスの家事労働者の最低賃金に関しては、基本的な争点が明らかだとガヤール氏は述べる。
「家事労働者は自分たちを守るための組合のような組織を持っていません。家事労働は今後も伸びていく分野の仕事ですから、適切な最低賃金を確保しなければなりません。低賃金で働いてこっそりここに住み着くような外国人を引き付けたくありません」
 とガヤール氏は語った。

 最近欧州連合 ( EU ) に加盟したブルガリアやルーマニアとの労働条約の延長が来年2月の国民投票で決定される。連邦三者間委員会は、その結果が低賃金と許容不可能な労働条件に終わらないよう望んでいる。

 「最低賃金の導入は、不法滞在者をも含めたスイス在住者に最低賃金の要求を含む権利を与えます。それによって、最低賃金以下の給与を払い続けている人々はある時点でその差額を払わなければならなくなるのです。これは前進です。そしてこの問題を訴える必要があることの認識の表れです」
 とトメイ氏は述べた。

swissinfo、サイモン・ブラッドレー 笠原浩美 ( かさはら ひろみ ) 訳

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連邦統計局 ( The Federal Statistics Office ) によると、スイスでは8人中1人の給与が低水準にあるとみなされている。
それらの低水準の給与の仕事に32万人が従事している。そのうち70%は女性で、1週間40時間の労働で、1カ月の給与は3783フラン ( 約29万2500円 ) 以下。
過去十数年の間、全労働者数に対する低水準給与の労働者の比率はあまり変化しておらず、11.2%から10.2%に減少した。
低賃金が支払われているのは、主にホテルや小売業、そして従業員数50人以下の小企業10社のうち6社。
低水準の給与で働く労働者の約半分がフルタイムの労働者で、そのうち80%が女性。外国人もまた低賃金労働者の場合が多い。
1世帯当たりの収入では、22人中1人がワーキングプアーのカテゴリーに入り、これは全労働人口の4%弱。80%以上の低水準給与労働者が、配偶者の労働などにより別の収入源を持っている。

連邦移民局の2005年の文書によると、スイスには13万人の不法労働者がいる。
ジュネーブ州には7000人以上、ヴォー ( Vaud ) 州には約1万人、バーゼル州には約7000人、チューリヒ州には2万人以上の不法滞在者が住んでいる。

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