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掃除をするなら岩肌まで

myswitzerland.com

「アルプスの山々の崖を雑巾がけしましょう」というキャンペーンは4月1日に、スイス政府観光局が仕掛けたエープリルフールのジョークだった。しかしこの夏、このジョークは観光客に向けたアトラクションとして現実のものとなった。

「このキャンペーンを発表した4月1日だけで、ホームページを閲覧した人の数は17万人以上に上り、ニュースレターの購読者数も新たに8200人増えた」とスイス政府観光局の広報担当ダニエラ・ベア氏は微笑 ( ほほえ ) む。

鳥の糞をふき取る作業

 「観光客にスイスで楽しく休暇を過ごしてもらうためなら、わたしたちはいかなることでもします」
 と「崖 ( がけ ) 清掃班」のフランツ・ハウサーさんが演説をしている間にも、山では野鳥が岩肌に糞 ( ふん ) を落としていった。ピウスさんの電話連絡を受け「崖清掃班」が出動する。若いクリストフさんは早速ブルニ山 ( Brunni ) に登り、ピウスさんの指示を受けながら、鳥の糞をブラシできれいに落とした。岩肌を巨大な雑巾で拭いたり、岩の裂け目はデンタフロスで掃除したりする。
「こうした手入れがないと30年後には、歯が『カリエス』になるように、マッターホルンも姿かたちがなくなるほどダメージを受けることでしょう」
 とハウサーさん。「崖清掃班員を、今年の夏は募集しています」とビデオは締めくくる。

 「スイスが汚くなっているということではありません。スイス人はきれい好きで、観光客のためには農家も牧草地をきれいにしようとする心意気があります。これは、スイス人の性格を誇張したユーモアのある宣伝です」
 とベア氏は今年の観光局の戦略を説明する。政府の景気安定化政策ではスイスの観光に1200万フラン ( 約11億円 ) の特別予算が付き
「国内、ドイツ、フランス、イタリアといった隣国の市場をターゲットにマーケティングに力を入れています」
 と、「崖清掃班」のほかに、スイスの国旗にアイロンをかける人や、カウベルの調律をするといったポスターも作った。

山を守るためのアトラクション

 スイス政府観光局はエープリルフールのキャンペーンを行った際、「崖清掃」といったアトラクションが具体化することを念頭に入れていたわけではないという。しかし、ビデオの撮影現場となった中央スイスにある「エンゲルベルク-ブルニ・ロープウエー ( Luftseilbahn Engelberg – Brunni AG ) 」は、7月末から10月まで4回にわたり「崖掃除コース」を開催し、観光客を呼び込む予定だ。

 「ビデオにあるような上級クラスのロッククライミングはしません。もちろん、安価な労働力を利用しようということでもありません」
とロープウエー会社の社長のモデステ・ヨッセン氏は説明する。2日間にわたるコースには、岩登りも用意されているが、登山客が山に入って牧草地を荒らしたり、岩を崩したりすることが、山の自然にどのような影響を与えるのかということを参加者に啓蒙 ( けいもう ) するのが目的だ。コースの一環として、山の清掃活動もしてもらうという趣向になっている。

 「スイスは美しい国です。しかし、そういった環境も大切にしなければ存在し続けないのだということを分かってもらえればと思います。こうした啓蒙コースがスイス全国に広まっていくことを望みます」

 スイス政府観光局のエープリルフールは、ブルニ山での崖清掃コースのほか、ルツェルンでは観光局の職員がルツェルン市を掃除しに歩くといったイベントも企画されるなど、スイスの各観光地にそのユーモアが波及している。

佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) swissinfo.ch

「エンゲルベルク-ブルニ・ロープウエー」の「崖掃除コース」
7月31日/8月1日
8月7/8日
8月14/15日
10月10/11日
現在のところまだ予約可能。大人165フラン ( 約1万5000円 )、子ども12~18歳まで135フラン ( 約1万2000円 )。11歳以下 105フラン( 約9400円 )
朝食1回、昼食2回、夕食1回、宿泊費込み。インターネットのサイトから申し込む。初心者向けの崖登りのアトラクションもあるので登山装備が必要。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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