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森は美しい、しかし、、、

ヴォー州レザンにある薬草植物園「ジョンシアナ」

ヴォー州レザンにある薬草植物園「ジョンシアナ」

(swissinfo.ch)

本格的な夏が到来したヴォー州(Vaud)レザン(Leysin)では、ハイキングを楽しむ家族連れの姿を多く見かけるようになりました。ハイキングの楽しみは、大自然の中で新しい発見をしたり、家族と貴重な時間を過ごす喜びを感じたりすることだと思います。その一方、意外に気づかないのが森林に潜む危険です。「森林での事故」と聞くと遭難や滑落を思いがちですが、有毒植物による事故も多く起こっているので、今日は、実際に起こった中毒例などを紹介しながら森についての認識を新たにできればと思います。

 スイスは国土の3分の2を山が占める山岳国で、そのうちほとんどが標高1200m以上の自然のままの山々です。スイスにとって山岳地帯は、地理的・歴史的に重要であるばかりでなく、スイスを観光する人の60%がアルプスとプレ・アルプスを目指して来るという統計からも、山々を中心とする観光産業はスイス経済にとって欠かせないものであることがわかります。

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 そんなスイスには、小さな森林がたくさんあるので、政府は森の保護と活用のための森林政策を掲げ、森に生育している多種多様の植物を保護しています。スイス国内に植物園がたくさん存在する訳です。

 私の住むレザンには薬草植物園「ジョンシアナ」(Gentiana)があります。開園期間は毎年5月1日から9月30日まで。ローヌ谷が一望できる標高1100mにできた素朴で美しい植物園で、スイスアルプスのダン・デュ・ミディ(Dents du Midi 3257m)やダン・デュ・モークル(Dents de Morcles 2968m)が眼前にそびえています。「ジョンシアナ」は医師や薬剤師を目指す医療専門家のみならず、一般の人々が薬草の効能や有毒植物の危険性を学ぶことができるように造園されています。

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 レザン出身で観光エコノミストのクロード・ゴリス氏(Claude Gaulis)は、2004年に開園した「ジョンシアナ」を設立するために貢献した人で、現在もこの植物園の運営・管理にあたっています。クロードさんはスイス国内でおこる植物による中毒事故は、きのこによる中毒事故の10倍以上だと言います。私が「ジョンシアナ」を訪問した日は無料公開日で、ジュネーブ大学名誉教授でありジョンシアナ財団の会長であるカート・ホステッドマン教授(Kurt Hostettmann)による解説付ツアーがありました。

 このツアーで最初に案内されたのは、森に潜む危険な植物のコーナーです。ホステッドマン教授は有毒植物との接触が原因で起きた皮膚炎などの写真を見せながら解説してくれます。驚いたのはセリ科の「ハナウド」。特に「オオハナウド」の有毒性です。人によっては完治に時間がかかる皮膚炎を起こします。そう言えば、ハナウドはレザンの森を散策するとあらゆる所に群生しています。この他にも植物が分泌する汁液によって身体に起こる危険な症状などの説明があり、森はあなどれないことを実感しました。

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 また、形のよく似た植物には十分に注意する必要があります。その例として、「行者ニンニク」と「鈴蘭」の葉によって起る中毒があります。あるレストランでは、香りのよい行者ニンニク入りサラダを売り物としていて、そのためには従業員が森に入って行者ニンニクを採取します。この日も行者にんにくを採取したのですが、その中に鈴蘭の葉が混ざったことに気づきませんでした。先に行者ニンニクの葉に触れたのでその香りが手に移ってしまい、後から葉の形がよく似ていて毒性の大変強い鈴蘭の葉を摘んだことがわからなかったのです。この日、レストランでサラダを食べた人たちは中毒を起こして病院に運ばれました。

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 別の形態類似例として、「モミ」と「ヨーロッパイチイ」があります。ヨーロッパイチイの葉は命に関わるほどの毒性を含んでいます。モミの葉とそっくりなので、識別する際には葉の裏を観察します。葉の裏が白いのが「モミ」です。ヨーロッパでは、このモミの新葉を摘んでシロップにする人も多いので注意する必要があります。ちなみにこのシロップには咳止め効果があります。

 この他に「きのこ」による中毒があります。毎年、きのこの季節になると、必ずと言ってよいほど、新聞にきのこ中毒の記事が載ります。ホステッドマン教授が次のケースを話してくれました。「ある家族が森で収穫したきのこを食べて中毒を起こしました。病院に担ぎ込まれて治療を受け一旦家に戻ったのですが、15時間後にまた同じ症状で病院に戻ってきました。病院側が事情聴取したところ、きのこのソースが残っていたのでリゾットにして食べたとのことでした。これはいけません。」きのこによる中毒の解毒剤として活躍するのが肝臓疾患に効果のある「マリアアザミ」です。マリアアザミに含まれるシリビ二ンがきのこ中毒による死亡率を減少させているそうです。

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 薬草植物園「ジョンシアナ」には有毒植物だけではなく薬用植物もたくさんあります。記憶系、婦人科系、前立腺系、消化器系、肝臓系、皮膚科系、コレステロール系の疾患に効果のある薬用植物がわかりやすい案内板つきで植えてあります。スイスというと、すぐに思い浮かぶ花「エーデルヴァイス」。このエーデルヴァイスには日焼け止めやシワ防止の効用があり、エッセンスが化粧品として利用されていることを発見しました。

 植物園の名称である「ジョンシアナ」は、スイスアルプスを代表する花の一種でリンドウ科の「ゲンチアナ」に由来します。園内には50種類以上にも及ぶゲンチアナが植えてあり、5月から7月にかけ濃い青色の花を咲かせます。植物園でゲンチアナにまつわる珍しい飲み物を試飲させてもらいました。夏に黄色い花を咲かせるゲンチアナ・ルテアの乾燥根を原材料とした蒸留酒です。18世紀末から存在する薬草系リキュールでアルコール度は37.5%。食欲や消化を促す効果がある食前酒として飲まれているそうですが、苦味があり何とも薬のような味のお酒でした。

森は美しくリフレッシュできる場所ですが、十分な注意が必要で素人判断では決して植物を食べたり煎じたりしない、そして植物を使用する際には専門家の指導を仰いでからということが大切なように感じました。

小西なづな

プロフィール:小西なづな

1996年よりイギリス人、アイリス・ブレザー(Iris Blaser)師のもとで絵付けを学ぶ。個展を目標に作品創りに励んでいる。レザンで偶然販売した肉まん・野菜まんが好評で、機会ある毎にマルシェに出店。収益の多くはネパールやインド、カシミア地方の恵まれない環境にある子供たちのために寄付している。家族は夫、1女1男。スイス滞在16年。

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