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火のある暮らし —スイスの山の冬—

昔ながらの薪オーブン

(swissinfo.ch)

スイスに来た当初に「どの家庭でも、夜の家の中が暗い」と思った。日本でよく見られるように、白い蛍光灯を煌煌とつける明るいリビングにはお目にかかったことがない。むしろ間接照明で柔らかい光が好まれる。時にはその電灯ですらも全て消されてしまうことがある。そしてキャンドルを点し、そのほのかな灯りのもとで人びとが食事とおしゃべりをしながら時間を過ごすのだ。スイスの家庭では、日本よりも頻繁にキャンドルを使う。考えてみると、スイスに来てからは日本にいた時よりも本物の火を扱うことが多くなった。今日は、この火のある暮らしについて書いてみよう。

 たとえぱ、街の飾りのクリスマスツリーは別として、クリスマスイヴに教会や家庭で樅の木を囲んで祝う時には本物のロウソクに火を灯すのが普通である。はじめてそれを見たときは、火事が心配で気もそぞろになってしまった。同僚にいわせると、「電球? そんなのはクリスマスツリーじゃないよ」ということらしい。

(swissinfo.ch)

 私は東京で生まれ育ったからなおさらなのかもしれないが、軽々しく火を扱うことは許されないという感覚があった。もちろん料理の時、それにお風呂を焚く時にも火を使っているのだが、着火と消火にはシステムとしての安全弁があることに慣れていたし、加えて個人でも火事にならないように細心の注意を払うのが当然だった。だから、たとえばキャンプファイヤーなどの、制御が難しい火については、できるだけ手を出さないようにし、行うときは消火用のバケツを用意するなど、大掛かりな準備が必要で、火そのものが非日常な存在だった。

(swissinfo.ch)

 だが、スイスでは火はもっと馴染みの深い存在だ。前述のように、一年を通じて頻繁にロウソクを使うし、たとえどんなにモダンな建築だとしても、新築する家に暖炉や薪ストーブを希望する人が多い。リビングには火が燃えていてこそ冬の夜を楽しめるというわけだ。さらには、かなり不便なのだけれど、昔ながらの薪ストーブ、暖炉、それに薪のオーブンだけで生活する知人も何人かいる。

(swissinfo.ch)

 我が家のキッチンはごく普通の電気オーブンとコンロで、きちんと温度設定もできる。暖房もセントラルヒーティングなのでどうしても火を焚かなくてはならないわけではないのだが、連れ合いの趣味で冬はほぼ毎晩、薪ストーブに火を入れる。当然ながら、私が薪ストーブの火の世話をする機会もある。スイスに来た当初は怖々やっていた着火や灰の処理だが、最近はごく普通の作業としてテキパキできるようになった。

 とある友人の自宅では暖房も調理もすべて薪だけ。昔ながらのストーブは、調理と暖房の両方を兼ねている。友人が仕事から帰宅すると最初にすることはストーブに薪をくべることだ。部屋が暖まるまで、もしくは調理が始められるまでには相当の時間がかかるし、微妙な火加減などはあまり期待できない。けれど、その不便さと暖かい雰囲気が好きなスイス人は多いのだ。

 さて、こうして冬の間、薪を燃やしまくるので、煙突には煤がたまる。これをきちんと処理するのは各家庭の責任というだけではなく、義務である。煙突のある家庭は、決まった期間ごとに専門家である煙突掃除業者に来てもらって、掃除をしてもらわねばならない。こういうことにまできちんと法律があるのだ。かなり懐古主義で、不便だけれども暖かく、さらにきれい好きでなければならない薪ストーブ生活は、いかにもスイスの田舎らしい冬の情景だと思う。

ソリーヴァ江口葵

プロフィール:ソリーヴァ江口葵

東京都出身。2001年よりグラウビュンデン州ドムレシュク谷のシルス村に在住。夫と二人暮らしで、職業はプログラマー。趣味は旅行と音楽鑑賞。自然が好きで、静かな田舎の村暮らしを楽しんでいます。

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