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欧州議会選挙の意義 EUの投票率が回復、理由は亀裂の深刻化

連邦議事堂とクロード・ロンシャンのポートレート写真

欧州連合(EU)ではEU支持派と反対派の対立が深まっている。バランスを取るには、市民に近い政治が重要だということが、スイスの例から分かる

(swissinfo.ch)

第9回欧州議会選挙の開票日の夜、欧州各地で歓喜の声が上がった。投票率は欧州連合(EU)加盟国全体だと51%で、前回および前々回より8ポイント上昇。これまで低下の一途だった投票率が、初めて回復した。

目覚めた「デモス」

開票後、政治家からはポジティブなコメントが相次いだ。欧州委員会のマルティン・セルマイヤー委員長官房長は「市民選挙を通し、EUの民主主義は全体的に強化された」と発言をした。

EUの状況を考えれば、今回の選挙には大きな意義がある。古代ギリシャ語でいうところの「デモス(民衆)」はEUに4億2700万人いるが、EU行政当局の構成に影響を及ぼせるのは欧州議会選挙だけだ。欧州委員会と欧州理事会は加盟国ないしはその首長が選ぶが、そこでは組織的な利害が絡まる。

執筆者

クロード・ロンシャン氏は、スイスで最も経験豊富で声望の高い政治学者およびアナリストの一人。

調査機関「gfs.bern他のサイトへ」を設立後、定年まで所長を務める。現在も同機関の取締役会長。スイス・ドイツ語圏向けスイス公共放送(SRF)で30年間、国民投票と選挙のアナリストおよびコメンテーターとして活躍。

スイスインフォの直接民主制に関する特設ページ#DearDemocracyで毎月、今年のスイス総選挙についてコラムを執筆。

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慣例と対立が投票率に貢献

しかし、選挙結果を手放しに喜べるわけではない。通常、高い投票率は慣例的に投票所に行く人が多いためであり、投票率の上昇は対立の深まりを示すことが多いことが、選挙研究で分かっている。

各EU加盟国の結果がそれを裏付けている。これまでと同じ高い投票率を維持したのは、ベルギー、ルクセンブルク、マルタなど。今回新しく欧州の平均投票率を上回ったのは、スペイン、ポーランド、ルーマニア、ハンガリー、ドイツ、チェコ、デンマーク、オーストリア、フランスだ。

投票率上昇の要因となったのが、加盟国内の対立だ。スペインではカタロニア独立問題が国を二分化。ルーマニアでは汚職問題が政府に重くのしかかる。ポーランドとハンガリーは権威主義的な与党が政権を握り、野党が隅に追いやられている。

そしてオーストリアとフランスでは選挙運動期間中、政局が非常に不安定だった。最後にドイツでは、時代遅れの二大政党制が大きく退潮し、左派からは緑の党が、右派保守からは「ドイツのための選択肢(AfD)」が台頭している。

スイスから学べること

欧州議会選挙の投票率は今回初めて上昇した。スイスも長い間、下がり続ける投票率に悩まされてきた。1995年には42%にまで下がったが、それ以降はゆっくりだが着実に上昇し、前回の総選挙(2015年)は約49%だった。

スイスでは二つの大きなテーマが再び政治的議論の的となった。一つは冷戦後の対EU政策、もう一つは政治および社会における男女均衡だ

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スイスでは二つの大きなテーマが再び政治的議論の的となった。一つは冷戦後の対EU政策、もう一つは政治および社会における男女均衡だ。

1992年に政府が欧州経済領域(EEA)の加盟を目指した際は、農村の住民が強く反発。これを機に、支持政党がバラバラだった保守右派の有権者が投票所に駆け込み、国民党を支持する側に回った(政党については本文最後の囲み欄参照)。

他方では、93年の連邦閣僚選挙でクリスティアーネ・ブルンナー氏が落選したことに対し、反対デモが行われた。その結果、都市を中心に多数の女性が社会民主党や緑の党を支持するようになった。

その後は同じことが繰り返された。社民党は95年から2003年の間、3期連続で国民議会(下院)選挙に勝利。さらに緑の党と国民党は4期連続で議席を伸ばした。その結果、スイスの政党勢力図は極端な多党制と、弱い中道派で構成されるようになった。

政治学では、イデオロギーが対立する政党が多数存在しても、中道派が政権につけるのであれば、バランスの取れた民主主義が可能とされる。

欧州議会選挙の意義

EUにとって今年の欧州議会選挙は何を意味するだろうか?それを知るには、過去を振り返る必要がある。

これまで分かっていることは、欧州の政治勢力図がこれほど崩れたことは今までにないということだ。キリスト教系と社会民主党系の政党は弱体化し、連立を組んでも有権者の過半数から支持を得られないでいる。そして政局を左右するような対立が増加。EUの主眼を経済政策に限定できなくなった。

そしてブレグジット問題はEU内の対立に変化をもたらした。これまでは経済政策やEUと加盟国との関係を巡る対立が主だったが、遅くとも16年から親EU派と反EU派の対立が際立つようになった。

反EU派は、EUに懐疑的な一部の市民だ。主に右派のポピュリストたち(左派にもポピュリストはいる)から扇動のターゲットにされている。イタリア、ハンガリー、ポーランドでは反EU派が政権を握るが、英国とフランスでは議会総選挙が多数決制で行われているため、そのような状況が防がれている。

一方、多数派なのがEU支持派だ。欧州議会選挙の選挙戦で、極右の政治家たちが「EUを阻止するために、ブリュッセルで攻防戦を繰り広げるつもりだ」との趣旨の発言。それに危機感を覚えたEU支持派は、域内の市場自由化に関する経済政策を支持。また、社会的にリベラルな方向性を擁護することから、リベラル派および環境派の強化につながった。

新しい道が求められる

この分析が正しいなら、今後5年のうちにEU内で亀裂が深まるだろう。今のところ多数派なのが、EU支持派だ。欧州議会の3分の2に相当する751議席を占める。そのため、欧州委員会と欧州理事会で占める割合も高い。

しかし、従来の政治手法が揺らいでいる。ドイツとフランスが協議に臨む際、これまでのように事前に打ち合わせて、意見を合わせることがなくなった。

過去40年のEU政策で行われてきた手法では、今後5年すら立ちいかないだろう。

「分極化が進んだ欧州で民主主義を強化するには、まず分極化の中でバランスを見つけなくてはならない」

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EUがすべきことは?

まとめると、EU内で政治的関心が高まった今年、投票率が上昇した一方、亀裂が深まった。分極化が進んだ欧州で民主主義を強化するには、まず分極化の中でバランスを見つけなくてはならない。

それには2通りある。一つは、連立を広げ、EUをブレずに統治すること。それにはリベラル派との強い結束が不可欠だ。もう一つは、テーマごとに多数派を組むこと。そこで重要なのが、世界に視野を広げる一方、加盟国独自の利益を現実的かつ意識的に結びつけることだ。

スイスは後者を選んだ。大連立で、多数派はその都度変わる。それでこれまで悪い経験をしてきたことはない。ただ、戦略的な理由からの例外もある。

スイスの例で学べることが一つある。それは、民主主義を実践するには、EUは市民の利益とメンタリティを重んじる必要があるということだ。

EUもこのことを意識し出した。市民の一部は異を唱え、またほかの市民は希望を抱いている。

EU反対派と支持派を結びつけるには、EUはもっとフレキシブルに、特に市民に近い存在にならなくてはいけない。なぜならこれがEUで目覚めた「デモス」が最も望んでいることだからだ。

スイスの主要政党

SVP/UDC: 国民党(保守系右派)

SP/PS: 社会民主党(左派)

FDP/PLR: 急進民主党(リベラル右派)

CVP/PDC: キリスト教民主党(中道/右派)

GPS/Les Verts: 緑の党(左派)

GLP/PVL: 自由緑の党(中道派)

BDP/PBD: 市民民主党(中道派)

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(独語からの翻訳・鹿島田芙美), swissinfo.ch

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