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経済危機はどこ吹く風のオンラインショッピング

スイスの電子商取引はすでに60億フラン ( 約4716億円 ) の年商がある Keystone

全般的な経済の低迷にもかかわらず、スイスの電子商取引の粗利益は2桁台の成長を続けていると専門家は指摘する。

「2010年電子商取引レポート」は、昨年約20社の主要オンライン販売業者の粗利益が平均で14%上昇したことを報告している。

小規模市場

 ノースウェスタン・スイス応用科学大学 ( The University of Applied Sciences Northwestern Switzerland ) は
「大多数は経済危機の影響を全く受けていないか、影響があったとしても低成長程度」
 と6月3日に公式出版したレポートで結論付けている。しかしそれとは対照的に、昨年の個人消費の伸びは約1%に過ぎないとも指摘する。

 電子商取引がスイスで始まってから10年がたったが、過去5年間の年間平均伸び率は25%を記録し、現在では年間60億フラン ( 約4716億円 ) の売上げを計上している。

 現在オンラインショッピングはスイスの商業部門の4%から5%のシェアを占めるが、これはほかの西欧諸国の平均の約半分でしかない。
「ほかの西欧諸国と比較した場合、スイスはかなり小規模の市場です。そして何よりも、スイスは異なる言語地域に分かれています」
 とレポートの執筆者の1人ラルフ・ヴォルフル氏は指摘し、
「世界的な電子商取引の巨大企業が、まずフランスやドイツのような大規模な市場に集中的に進出するのも不思議ではありません」
 と説明した。

安全性の危惧

 しかし、オンラインで収集された個人情報の濫用などの安全性に対する不安が、過去数年間における電子商取引の成長を妨げる障害となっていた。この結果、5月初旬に連邦経済相経済管轄局 ( SECO ) は、電子署名の導入を発表し「電子商取引にとって画期的な日」と称賛した。

 「スイスID ( SuisseID) 」はパスワードで守られているカードで、オンラインでの通信、文書の送信、購入の安全保護ための電子署名として機能する。しかし、使用が一般に普及するようになるまで数年を要すると思われる。

 しかし電子商取引の主要な業者は、今後5年間で年間10%から20%の粗利益の増加を見込んでおり、レポートは電子商取引の2桁台の成長を予測している。

 ウェブサイトでの購入は、カタログ・ショッピングを飲み込んでしまったが、伝統的な小売業者の市場シェアも奪いつつある。これは、オンラインと店舗の両方で販売活動を行う企業にジレンマを起こしている。
「確かに避けようのない共食いが発生しています。一方、以前は電子商取引に乗り気でなかったのに、オンライン販売を開発するようになった企業が増えています」
 とヴォルフル氏は説明した。

チケットとスーパーマーケット

 チケット販売など、電子商取引が需要の50%以上を占めるようになった分野もある。そしてスイスはイギリスに次いで、オンラインよるスーパーマーケットでの買い物が最も発達した国だ。

 大規模な小売業者「ミグロ ( Migros ) 」の子会社「 LeShop.ch 」の最高経営責任者 ( CEO ) で共同創始者のクリスティアン・ヴァンナー氏は、LeShop.chが平均以上の速さで成長を続けていると言う。2010年の第1四半期の売上げは3800万フラン ( 約29億8700万円 ) で、現在一日当たり約200トンの食品を配達している。
「電子商取引は基本的に市場の変革です。これは今や深く根付いた動向となりました。従ってわれわれは、伝統的な小売販売を行っていた地点からオンラインの領域へ移動しているところです」
 とレポートの調査対象になったLeShop.chのCEOヴァンナー氏は語った。

 「業種によっては、オンラインショッピングへの移行の傾向がより顕著なものもあります。例えば、音楽業界は非常に速く移行しました。また書籍業界でも、ここ10年から12年の間にアマゾンがゼロから世界首位の書籍販売業者に成長しました」

 LeShop.chは1月にiPhoneによる購入・配達受付を開始し、すでに売上げの4%を占めている。これはレポートで報告された携帯電話による電子商取引の成長の傾向を裏付けている。

楽観的な将来

 ヴァンナー氏は将来の成長性について楽観的だ。
「これは、全家庭、少なくとも西欧とアメリカの全家庭におけるブロードバンドの普及、そしてそれをさらに容易にする新技術の開発に支えられるでしょう」
 と見通しを語り
「数年の間にタッチスクリーン方式によるインターネット接続がすべての家庭で可能になるでしょう」
 と予測した。

 しかしヴォルフル氏は、2000年代初頭に起きた初期のインターネット・ブームで予測されたように、電子商取引の発展が伝統的な小売の終焉 ( しゅうえん ) にはならないと考えている。
「実際に店舗へ行き、商品を見て手に取る楽しみをオンラインで味わうことはできませんし、店員からアドバイスももらえません」

 「電子商取引は素晴らしい補足手段です。ウェブサイトで食品やその他の必需品を買えたら、重い荷物を運ばずに済みますし、チーズや新鮮な野菜、衣類など、実際に市場や店舗に足を運んで選んだ方が楽しいものを買うために時間を使えます」

アルマンド・モンベリ、イゾベル・レイボルド・ジョンソン 、swissinfo.ch
( 英語からの翻訳、笠原浩美 )

電子商取引の年間成長率 ( 個人消費支出 )
2006年:34% ( 2.9% )
2007年:29% ( 3.7% )
2008年:26% ( 3.9% )
2009年:14% ( 0.9% )

スイス人の約80%がインターネットを使用している。
定期的にインターネットを使用している人々の各年齢層の全人口に対する比率
14 ~19歳:92%
20~ 29歳:90%
30~39歳:88%
40~49歳:78%
50~59歳:72%
60~69歳:51%
( 出典 : 連邦統計局 )

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