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誰でも気軽にインパクト投資 スイススタートアップ企業の挑戦

例えば新興国の工場労働者支援プロジェクトへの投資も、社会的なインパクト(影響)を秘めている Keystone / Nasser Nasser

公正で環境に優しい社会作りに貢献しながら資産を増やす―― そんなインパクト投資をオンラインショッピングのように気軽にできるようにしようと、スイスのスタートアップ企業が奮闘している。だがスイスでインパクト投資が主流になるにはまだ課題が多い。

このコンテンツは 2020/12/02 08:30
Dorian Burkhalter, swissinfo.ch

販促用動画に映っているのは、リラックスした様子で肘掛け椅子に腰かけるYova他のサイトへのティルマン・ラング最高経営責任者(CEO)兼共同創業者だ。膝の上に乗せたラップトップをすいすい操作し、再生可能エネルギーや男女共同参画・兵器製造など投資したい・したくないプロジェクトを選んでいく。Yovaのアルゴリズムが瞬時に計算し、数秒後にはラング氏の希望に沿った投資戦略が表示される。債券や株式などへの投資比率は、個人の価値観や投資目標に一致するように配分されている。

インパクト投資には「経済的な利益だけでなく、社会的・生態学的なインパクト(影響)を生み出す狙いがある」― ラング氏はこう説明する。

この種の投資は従来、機関投資家や富裕層向けの商品だった。だが技術革新とともに投資コストが小さくなったのに目を付け、Yovaは「一般的な人々」向けのインパクト投資を開発した。

米国の非営利組織(NPO)グローバル・インパクト投資ネットワーク(GIIN)他のサイトへは、世界のインパクト投資市場が足元で7150億ドル(約74兆円)に達していると見積もる。世界銀行グループの国際金融公社は昨年発表した報告書で、今後26兆ドルに成長する可能性があると試算した。

投資銀行モルガン・スタンレーが2019年に米国で行った調査によると、持続可能な投資をしたいと望む回答者が約85%、ミレニアル世代では95%に上った。こうした需要を満たすには、十分なインパクトがあり、かつ合理的な投資リターンを達成する投資商品の品揃えを充実させる必要がある。

株主からの圧力

Yovaのポートフォリオには、上場企業の株式が含まれている。プライベートエクイティ(未公開株)投資は多くの場合、最低投資額が高く流動性が低いため、一般の個人投資家には向かないからだ。

インパクト投資に対しては、ただ既存株式を売り買いするのではなく、新株を発行すべきだという批判がある。株の購入によって新しい、影響力を与える可能性を持つプロジェクトに資金が流れるという保証はなく、売却を受けてファンドマネジャーが行動を変えるとも限らない。

ブラックロックやバンガードなどの巨大ファンドマネジャーは、市場での力を活用して、環境や社会問題への解決に貢献してきた。例えば、石油ガス会社のエクソンモービルや銃器メーカーのスターム・ルガーなどだ。だが近年、これらのファンドの介入は十分ではないとの批判が広がっている。

Yovaはミューチュアル・ファンド(自由運用型投資信託)とは異なり、個人投資家がポートフォリオに組み込まれた株式を直接所有することになる。このため投資家が株主総会で企業戦略の決定に関与できるとラング氏は説明する。

業界団体スイス・サステナブル・ファイナンス(SSF)他のサイトへによると、スイスのインパクト市場は504億フラン(約5兆8千億円)に上る。だがスイスの1兆1600億フランに及ぶサステナブル投資市場の中ではごく一部。SSFのザビーネ・デベリCEOは、その背景を次のように説明する。

透明性の向上

スイスのインパクト投資家は昔から新興市場の民間プロジェクトへの投資が多い。新興市場は▽分散投資しない▽流動性が低い▽リスクが高い、という特徴があるため、「現地のノウハウ、現地のデューデリジェンス(資産査定)、適切なパートナーをたくさん持ち、販路を確立する必要がある。それにはいつも時間がかかる」(デベリ氏)。

だがこの傾向に変化が生じている。SFFの最近の調査では、インパクト投資のマネジャーたちは株式市場への注目を高めている。足りないのは資本ではなく投資機会だという。デベリ氏は、インパクト投資に潜むリスクやリターンについても理解を深める必要があるとみる。

インパクト投資のリスク・リターン比率は、1万3千を越えるスイスの助成型財団にとってとりわけ大きな意味があるとデベリ氏は考える。だが財団の投資先には厳しい規制があり、市場拡大を妨げる可能性がある。

Yovaは個人投資家に的を定め、公設市場の規模を活用し、プロセスを自動化することで急成長を遂げた。2020年1~3月期に利用者数が倍増。4月には新たな資金調達と国外展開計画を発表した。

ラング氏はYovaを通じて金融業界の透明性を高めたいと考えている。インパクト投資に限らず、あらゆる形式の投資がインパクトを持つ。「休眠預金ですら銀行はそれで何かをする余地がある」

自分のお金がどのように投資されているか人々が理解を深め、「理想的にはそれを良い方向に仕向けたい」とラング氏は話す。投資先に関する知識を得れば、投資家はもっと銀行に問いただすことができる。

「インパクト投資が不可能ではないこと、費用がかさまないこと、他の投資と同じリスクやリターンがあること、そして素晴らしい経験になることを示す必要がある。それは、引いては業界が透明性・持続可能性を高める圧力にもなる」(ラング氏)

インパクト投資の可能性

インパクト投資は気候変動や貧困など、世界的な課題を解決する企業やプロジェクトに資金を直接振り向けることを目的とする。

例えば持続可能性に欠ける化石燃料生産者に投資したり、再生可能でないエネルギー全てを投資対象外にしたりするのではなく、特定の再生可能エネルギー生産者に選択的に投資できる。

インパクト投資家が慈善家とは異なるのは、金銭的な見返りを見込んで出資することだ。その見返りが再投資されれば、エシカル(倫理的)投資がすそ野を広げていく可能性がある。

インパクト投資は国連の持続可能な開発目標(SDGs)他のサイトへにおいて、2030年までに民間部門の投資額を年2.5兆ドルにする目標の達成に貢献すると期待されている。

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(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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