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通貨の番人 GAFA投資進めるスイス中銀が抱えるリスク

スイス国立銀行のファサード
(Keystone)

グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン。「GAFA」と総称され政治さえ動かす力を持つ巨大IT企業たちに、巨額を投資する世界でもまれな中央銀行がある。スイス国立銀行(SNB)だ。 

米証券取引委員会(SEC)は1億ドル以上の米国株を保有する機関投資家に、四半期ごとに保有株の総額・数量などの開示を義務付けている。SNBもその対象で、直近3月末時点で保有する米国株は2507銘柄、総額911億6099万ドル(約9兆8千億円)。上位10銘柄には米国を代表する大企業が名を連ねる。

SNB保有米国株 保有額の推移

SNB保有米国株 保有額の推移を示す折れ線グラフ

公表データで遡れる2013年6月からの変化をみると、アップルやフェイスブックなど、「GAFA」と呼ばれる巨大IT企業への増額が際立つ。6年前にトップだったエクソン・モービルは低調だ。足元の順位は米国の時価総額ランキングに酷似する。

一方、保有株数を眺めると、その順位は少し異なる。トップはジェネラル・エレクトリックの2903万株で、2013年から王座を譲ったことはない。その他通信事業者や精密、製薬などの企業がトップ10に並び、GAFAではアップルしか顔を出していない。GAFAに積極投資しているというより、保有株の評価額が膨らんでいる格好だ。

SNBの米国株 保有数

SNBの保有する米国株数の推移を示す折れ線グラフ

フラン売り介入の副産物

SNBの株買いがこれほど注目されるのは、個別株を買う先進国の中央銀行はスイスくらいだからだ。SNBは米国株を含め1527億フラン(約16兆6千億円)を外国株に投じている。一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は株の購入が禁止されており、欧州中央銀行(ECB)の資産購入プログラムも国債や政府機関債などに対象を絞っている。日銀も上場投資信託(ETF)の購入を通じて株に投資するが、個別の銘柄の買い手として名が挙がることはない。これら中銀の資産の大半は国債で構成されている。

SNBはなぜ個別株を買うのか。他の中銀との違いは、SNBが金融緩和の手段として資産を購入しているわけではないことだ。

日銀などの資産購入は国内の金融市場に十分な資金を提供することで、企業がお金を借りやすくし、景気を下支えする狙いがある。多少はリスクの高い資産を買い取り、市場参加者がリスクを取って投資するのを促す必要があるが、「景気刺激」の名目で個別企業の株を買い入れれば市場に思わぬ憶測を呼ぶ。大半は安全性の高い国債に振り向ける。

一方、SNBの株買いの資金源は、フラン相場の高騰を食い止めるための為替介入だ。リーマン・ショックや欧州財政危機以降、安全通貨とされるスイスフランには資金が集まりやすく、フラン高が進みがちだ。フラン相場を押さえるため、SNBは2011年9月にフランの対ユーロ相場に上限を設け、無制限でフラン売り・ユーロ買い介入をする姿勢を見せた15年1月に上限は撤廃されたが、その後もフラン高圧力が高まる場面では介入を続けていた。

買い入れた外貨は、緊急時に外貨建て債務の支払いなどに充てる外貨準備に充てられる。昨年末時点で7385億ドルと、10年前の10倍以上に膨らんだ。ただ18年初以降は増加が止まっている。フランが上昇しにくくなり、介入の必要がなくなってきたためだ。

外貨準備とフラン相場

SNBの外貨準備高の推移を示すグラフ

スイスで外貨準備の管理は中央銀行の役割で、「いつでも金融・通貨政策をとる余地がある」状態を保つ使命がある(中央銀行法第5条他のサイトへ)。SNBは04年に策定した投資政策の基本方針で「長期的な収益性とリスクのバランスを改善するため、外国為替資産の一部は、株を含む国債以外の資産にも振り向ける」と明記している。

要は、スイス企業が輸出競争力を失わないために為替介入を行い、その結果貯まった外貨の運用先として、一部を米国株など先進国株に充てているという構図だ。

外貨準備は、スイス中銀のバランスシート(貸借対照表)の資産の部に「外国為替投資」と計上される。2018年の決算では、外国株が124億フランの損失を出したが、外国債券の損失56億フランと合わせた損失180億フランのうち、113億フランは為替相場の変動が原因だった。外国株は配当金340億フランという収益ももたらしており、株の暴落がなければまずまずの収益源と言ってよさそうだ。

本当のリスクはどこに?

SNBはどのように収益とリスクのバランスをとっているのか。外国為替投資の内訳をみると、7割は外国債、2割が外国株、1割がその他の債券で、この配分はほぼ一定だ。通貨別にみたユーロ建てが40%、ドル建てが35%、円建てが10%、英ポンド・カナダドルなど他の通貨が15%程度という比率もほぼ変わらない。

SNBで投資方針を決めるのは理事会他のサイトへだ。総裁と副総裁、理事から成る組織で、日本の政策委員会に当たる。安全性や流動性、収益性を踏まえ、金融政策と利益が相反しないように投資戦略を立てる。その枠組みの中で、行内の投資委員会が通貨の配分や期間などを決める。中銀の監視役である銀行評議会(Bank Council)他のサイトへもリスクを管理する。

株式投資に関しては次のようなルールがある。

  1. 購入対象は主要株価指数を構成する上場企業の株。先進国・途上国かは問わない
  2. 戦略的利益を追求することはなく、一般的に株式の選択には関与しない。株価指数の組み合わせを複製することによって受動的に管理する
  3. 潜在的な利益相反を排除するために、原則として中・大型株の銀行および先進国の銀行には投資しない
  4. 国際的に違法な武器を製造する企業、基本的人権を大規模に侵害する企業、または重大な環境破壊を体系的に引き起こす企業には投資しない

リスクはきっちりコントロールされているようだが、国民の目は厳しい。批判の矛先はリスクの高さよりも、環境や人権への配慮が足りないことだ。

スイス気候連盟はSNBの投資が気温を4~6度上昇させていると非難。昨年4月にはパリ協定や国連の持続可能な開発目標(SDGs)に公式にコミットするなど、10項目の提言を盛り込んだ報告書を発表した。

ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)は昨年、トーマス・ジョルダン総裁との独占インタビュー他のサイトへで、SNBが米軍需メーカーのレイセオン株を保有していると厳しく追及された。総裁は「兵器メーカーをすべからく除外するのではなく、違法な兵器を生産する企業の株はポートフォリオから外している」と説明し、中銀の方針に変更はないと強調した。

スイスの「軍隊なきスイスを目指す会他のサイトへ(GSoA/GSsA)」らはSNBや政府系基金などに兵器メーカーへの投資を完全に禁止するよう求めるイニシアチブ(国民発議)他のサイトへを提起。昨年6月に必要な署名を集め成立した。連邦議会は今年6月にイニシアチブに反対する方針を決めた。来年にも提案の是非が国民投票にかけられる。

扱う金額も中銀という立場からも、SNBの投資方針が市場の手本となるのは確かだ。だが環境や人道を突き詰めすぎると投資が恣意的になったり、投資先が絞られすぎたりといった危うさも出てくる。SNBにとっての最大の投資リスクは、直接民主制の根付いたスイスの国民性かもしれない。

swissinfo.ch

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