スイスの視点を10言語で

頼りになるのは太陽光エネルギー ソーラー・インパルス

Keystone

「世界で起こっている数々の問題を解決するには、世界のみんなが取り組まなければならない」というメッセージとともに、ベルトラン・ピカール氏は「HB-SIA号」を6月26日、チューリヒ州のデューベンドルフ ( Dübendorf ) 軍飛行場で世界各国から集まった約800人の報道関係者らに披露した。

1人乗りの飛行機だがエアバスとほぼ同じ全幅63.4メートルという長い翼を持つHB-SIA号は、太陽光発電をほぼ唯一の頼りとして世界1周飛行を目指す「ソーラー・インパルス ( Solar Impulse )」のプロトタイプだ。

できるだけ大きく、できるだけ軽く

 「月旅行の時代は終わった。全世界が直面するエネルギー問題を解決するには、太陽エネルギーの技術と、ひとり一人が解決できると強く思うことである」
 と世界的冒険家のピカール氏は機体披露の場で訴えた。ソーラー・インパルスは太陽エネルギーが次世代のエネルギーになり代われることを全世界に向けて訴える「大使」なのだ。

 HB-SIA号が異常に長い翼を持つのは、これまでのものより2割効率を上げた単結晶シリコン型のソーラーパネルで太陽エネルギーを集め、これを全体の9割の原動力として日夜、最高時速75キロメートルで空を飛び続けるのが目的だからだ。

 前後2枚の翼の上一面を1万1628枚のパネルが覆っている。面積は200平方メートル。重さは400キログラムで、機体総重量1600キログラムの4分の1をソーラーパネルが占める。太陽エネルギーのほかは機械が生み出す駆動力などが効率よく使われ、すべて再生可能のエネルギーで飛ぶ。こうして生み出された総エネルギー出力は40馬力。

 エネルギー効率を良くするため、限りなく機体の重量を減らすのがソーラー・インパルスの課題だ。機体デザインの総監督ロベルト・フラフェル氏は
「ねじ1本の重さも軽減するため、特別に作った」
 と明かす。

 全幅が非常に長い飛行機の操縦の技術も問われる。ピカール氏は1999年に気球「ブライトリング・オービター( Britling Orbiter ) 号」で世界を一周することに成功するなど、3世代にわたる冒険一家の一員。第2パイロットのアンドレー・ボルシュベルク氏はタイガー戦闘機のパイロットの資格を持つ機械技術者でもある。

 今回公開された「HB-SIA号」は1人乗りで、2012年に実際に世界1周するHB-SIB号のプロトタイプ。今後、エネルギー効率を上げることに成功すれば2人で操縦し続けるが、このまま1人乗りとなれば、3日目から4日目ごとに地上に着陸しパイロットを交代し、地球を1周することになる。パイロットはその間、本格的には眠れないので、今からメンタルトレーニングをしているという。地上からの制御があるとはいえ、パイロットの負担は相当なものになるとみられる。

地球人ひとり一人へのメッセージ

 これまでも太陽電池で飛ぶ飛行機は作られてきた。1970年代から柔軟性に富むソーラーパネルが製造されるようになり、1980年代にはアメリカの「ソーラー・チャレンジャー ( Solar Challenger ) 」などパネル搭載の飛行機が飛んだ。アメリカ航空宇宙局 ( NASA ) の開発した「ヘリオス ( HELIOS )」 は、太平洋を渡る予定だったが、強風により墜落。2005年にはアラン・ココーニ氏の「ソーロング (SoLong ) 」が、日夜続けて48時間の飛行に成功したりもしている。そして2012年、ソーラー・インパルスが世界1周を目指す。

 「2003年に計画を発表した際、そんなことは不可能だと言われていました。この計画が立ちあがった2003年11月28日から今まで、どれほどの石油が使われてきたことでしょう。ソーラー・インパルスは今日、より現実的になったことは疑うべくもありません」
 とピカール氏は語る。

 再生可能のエネルギーを日常的に利用し、地球を尊ぶことは世界のみんなが動かない限り実現できない。
「ソーラー・インパルスを地球のために戦う精神的象徴として世界に広めたいと思う人は誰でも大歓迎します」
 と訴えるピカール氏は、HB-SIA号の搭載するソーラーパネルの「親」になったり、機体に自分の名前を刻んでもらったり、プロジェクト基地を見学したりできる特権をもらえるサポートメンバーを募っている。

佐藤夕美 ( さとうゆうみ ) 、デューベンドルフ ( チューリヒ州 ) にて swissinfo.ch

飛行機の重量約1600キログラム。全幅63.4メートル、全長20メートル。
2枚の炭素繊維の板の間は気泡状になっている。
左右の翼に2台ずつ取り付けられたエンジンは70個のリチウム重合体バッテリーからなる。それぞれのエンジンの最高出力は10馬力で、直径3.5メートルのプロペラを速度200~400回転/分で回す。

単結晶シリコン型。重さ400キログラム
HB-SIAの主翼に1万748枚、尾翼に880枚が搭載され、炭素繊維リブでつながっている。
エネルギー量は地上のコントロールセンターからの情報をもとに管理される。
例えば、日中の太陽は1平方メートルにつき1000ワットのエネルギーを作り出す。24時間で平均すると1平方メートルにつき250ワット。HB-SIAに搭載されたソーラーパネルと機械が生み出す駆動力など ( 全体の12%を占める ) が生み出すエネルギーは40馬力。

飛行は赤道近くを3日目から4日目ごとに地上に着陸しパイロットを交換し、地球を1周する。最高時速75キロメートル。

総予算は7000万ユーロ ( 約93億円 ) 。

ベルトラン・ピカール氏の前回の冒険「ブライトリング・オービター( Britling Orbiter ) 号」の世界1周では、中国政府が上空を飛ぶことを一時拒むという事件もあったが、ソーラー・インパルス計画では
「 ( 地球の汚染問題なので重要な役割を担う ) 中国がこの計画に参加することを歓迎したい」
 と語っている。

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部