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春よ来い

スイスに春が訪れた。今年の冬の充分な雪と零下の気温は果物にとって最高のコンディションだったという Keystone

ここ20年間例を見ない厳冬が終わり、スイスにようやく春が訪れようとしている。

この寒く長い冬を楽しんだのは、ウインタースポーツを楽しむ人たちだけでない。農家もこうした冬を歓迎した。「基本的に農業にとって厳冬は非常に大切。寒さが害虫や病原菌を殺してくれるからだ」と「スイス農業組合 ( sbv/usp ) 」のサンドラ・ヘルフェンシュタイン氏は語った。

厳冬は土を蘇 ( よみがえ ) らせる

 今年の冬は、初雪が昨年の10月末には降り始め、積もった雪はほとんど3月まで溶けなかった。
 「積雪は土にとって非常に良い。土の侵食を妨げ、湿気を逃がさないからだ。また土は凍ると粉状に細かくなり、水が巡回しやすくなる。さらに雑草も押し倒す。この3月末は木々がまだ芽吹く寸前の黄色い色をしているが、昨年この時期はもうすっかり緑だった」
 と、ベルン州農業教育センター「インフォラマ ( Inforama ) 」の果物・ベリー類課長、ユルク・マウラー氏はこの厳しい冬を肯定的にとらえた。

 さらに、この冬は気温の大きな変動がほとんどなかったとマウラー氏は指摘する。過去20年間の冬は変動があり、2、3週間早く植物が芽吹いていた。しかし今年は
「われわれが本来の冬と呼ぶにふさわしい、充分な雪と零下の気温を保った冬だった。果物にとっては最高のコンディションだった」
 と喜ぶ。

 この冬のもう1つの特徴は、スイス全土が同じような状況だったということだ。低地でも朝は寒く、気温は零下まで下がった。暖かいスイスの西部では、過去20年間しばしば平年より2、3週間早く春を迎えていた。しかし、
 「ただ1つの問題は、スイス全土が同じような状態だったので、例えばイチゴなどがスイス中で一斉に出荷されるということだ」
 とマウラー氏は懸念する。
 
 野菜の生産者は冬の間減少した生産を取り戻そうと、今急ピッチで働いている。冬でも収穫ができたのは寒さに強い長ネギだけだったが、これも長期にわたって土が凍って引き抜く収穫作業には苦労させられた。ほかの冬野菜は早期に収穫して貯蔵していたものだった。

 「厳冬は害虫を殺し、土を清潔に蘇らせる」
 と「スイス野菜生産者組合」のフェライ氏も厳冬を歓迎する。寒さが問題になることはまったくない。花粉を運ぶ、野菜生産に大切なハチなどの昆虫も寒さに影響を受けない。なぜなら飼育者から卵の形で購入し、植物が生長するにつれて孵化 ( ふか ) させているからだ。

自然については予言できない

 しかし、寒い冬は全てにおいて完璧だったわけではない。牛の糞を主体にした肥料をまく時期を逸した農家が多かったからだ。
「こんなに寒い冬は過去20年間経験していない、従来なら土地が凍っていないので、肥料はもっと早い時期にまけていた」
 とヘルフェンシュタイン氏は言う。法律によって気温が零下である場合や雪が土を覆っている時期は肥料をまくことが禁止されている。今、ようやくまける時期に来て、隣から肥料を分けてもらう農家も出てきた。また、法律に今後例外を設けるよう働きかける農家もあるという。

 一方果物生産者の中には、初雪が早かったので雹 ( ひょう ) などを避ける覆いをすぐに掛けられなかった農家が多かった。また、水分を多く含んだ重い雪が果樹の枝や覆いを支える柱を折ったりという事故もあった。

 しかしマウラー氏は哲学的な発想をし、
「20年に1度、果樹の枝を折るような大雪が降ることはある。時には春や秋にさえこうした雪が降ることもある。以前つぼみがついた4月に突然20、30センチメートルも積もる湿った大雪が降った。その時の被害はもっと大きかった。それに比べれば、今回の初雪の被害はたいしたものではない。それに自然とはこうしたものだ」
 と語る。

 最後に、今年の理想的な冬は良い収穫を約束してくれるのではとの質問に、
「預言者ではないので何とも言えない。まだ4月と5月がある。遅い霜が5月半ばまで続く可能性がある。春が遅く来た場合、植物はそれ程成長していないので寒さによる被害を受けにくいという面は確かにある。しかし正直なところ、何も分からない」
 とマウラー氏は締めくくった。

swissinfo、ジュリア・スラッテール 里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 訳

春の到来は春分の日によって記される。

北半球の春分の日は、通常3月20日もしくは21日とされる。

理論的に春分とは、太陽の通り道である黄道が天の赤道を横切る交点に太陽の中心が来た時をさす。

今年、ヨーロッパでは3月20日だった。

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