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「物語」のあるスイスのチーズ

審査のポイントは「見ため目」「味、香り」「堅さ、生地」の3点で、最高得点20点で評価される Yuki Nakamura

スイスのチーズのナンバーワンを決めるコンクール「スイス・チーズ・アワード」が、スイス北東部の山あいの村、トッゲンブルク地方のウンターヴァッサーで開かれた。

スイス産チーズの知名度を高める目的でチーズの産地を巡って開催される「チーズ・アワード」は、今年で6回目を迎えた。市場に出回る前に、普段は知りえない作り手の顔が見える貴重なコンクールだ。

薪の煙が香ばしい

 今回チーズ・アワードに出品された474のチーズの中からチャンピオンになったのは、グリュイエールのシャルメイ ( Charmey ) でチーズ作りに励むジャン・ルイ・ロッホさんの「グリュイエール・ダルパージュ ( Le Gruyère d’alpage AOC ) 」 だった。大賞のチャンピオンは前回の2006年から始まった賞で、ロッホさんは2代目チャンピオンだ。
 「 ( 自分が作るチーズは ) 完璧とは決して言えませんが、とても良いチーズだと思います。後継者が足りないのが問題ですが、この賞を頂いたことで将来が開けると思います」
 と、ロッホさんは受賞の喜びと今後の抱負を語った。

 ロッホさんは、夏のアルプスでの放牧期間中に山小屋でチーズを作る。牛を育て、乳搾りをし、牛乳の質を見極めながら、チーズの製造までを手がける。ほとんど機械を使わず手作業でおこなわれるため、大量生産ができないという。

 ロッホさんのチーズのようにグリュイエール地方で作られるチーズは産地名を取って「グリュイエール ( Le Gruyère AOC ) 」の総称で知られる。今年、日本から最終審査員の1人として参加したチーズ専門店「フェルミエ」の本間るみ子社長はチャンピオンのチーズは素晴らしかったと評価しながらも
「グリュイエールはスイスのチーズの中でも大変おいしいので、ほかのチーズと同じ土俵に並べるとほかのチーズがかわいそうですが」
 とグリュイエールはそもそも格別だと語ってくれた。

 同じく最終審査員だったフランツ・シュヴェグラー氏も
「昔ながらの製法で、薪で火をおこして作られたチーズです。薪の煙が山小屋いっぱいに広がり、それがチーズの中にも入っていったようです。スモークハムのような香ばしい味がしました」
 と、ロッホさんのチーズには「物語」があると絶賛した。

山小屋チーズがトレンディー

 過去15年間で、スイスのチーズ市場に変化が起きた。特に、地域限定の特産チーズが増えたという。近頃は大手スーパーでさえ、地域限定チーズを扱うようになっている。こうした傾向についてチーズ・アワードの主催者「フロムアーテ ( FROMARTE )」の会長アントン・シュムッツ氏は、消費者のグルメ志向が背景にあると指摘した。

 こだわりのあるチーズを求める風潮は、今年の審査にも影響を与えたようだ。
「一昨年の初代チャンピオンは、山のふもとの製造所で作られたチーズでしたが、今年は、チーズ文化が生まれた場所、つまり山の上の放牧地で作られたチーズが評価されました。スイスのチーズの伝統に戻ってきました」
 とシュヴェグラー氏も言う。
 
 スイスのフランス語圏にあるチーズの産地はほとんど訪れているという本間氏も、丹念に作られていることを良いチーズの条件としてまず挙げる。
「作り手の顔が分かるチーズが、わたしにとっての良いチーズです」
 伝統的な作り方をしているか、牛を大事に育てているかなど、責任を持ってチーズ作りに取り組んでいることが大切だという。さらにスイスのチーズの良さは、厳しい管理規定の中で生まれる安全性にあると言う。
 「あれほどの高地に牛が放牧され、草しか食べていないわけですから、牛が不健康であるはずがありません。スイスには 『アルプスの少女ハイジ』 の世界が思い浮かぶようなおいしいチーズがたくさんあります」

swissinfo、 ウンターヴァッサー村 ( ザンクトガレン州 ) にて、中村友紀 ( なかむら ゆき )

2007年のスイスのチーズ総生産量は17万6280トンで、前年より1.9%増加した。そのうち約99%が牛乳から作られたチーズだが、山羊や羊の乳のチーズも作られている。
総生産量のうち約3割が国外に輸出され、2007年は過去最高の輸出量5万9302トンを記録した。
今年7月に「スイス・チーズ・マーケティング ( SCM ) 」が発表したところによると、2008年上半期の輸出総量は2万7673トンで前年同期よりも約2450トン増加した。
2007年のスイス国内のチーズ消費量は、1人あたり20.7キログラムと過去最高を記録した。

スイス産チーズ限定のコンクール。2001年に始まり、不定期に開催され今年で6回目。
第6回チーズ・アワードは2008年9月11日から14日の4日間、ザンクトガレン州のトッゲンブルク ( Toggenburg ) 地方のウンターヴァッサー ( Unterwasser ) で開かれた。今回は、チーズ・アワードと並行して、チーズ祭り「ケーゼ・ターゲ ( Käsetage ) 」も開催された。
今年の出品数は過去最多の474。審査員にはスイスを含めた世界9カ国の、生産者、研究所、学校、販売業者など幅広い分野から95人が選ばれた。
審査のポイントは「見た目」「味、香り」「堅さ、生地」の3点で、それぞれ5段階評価され、最高得点20点 ( 「味、香り」のみ得点が2倍される ) で競われる。まず、1次審査で各カテゴリーの1位が決まり、その中からさらにチャンピオンを決めるため、15人の審査員が最終審査をおこなう仕組みだ。
2008年のチャンピオンは、ジャン・ルイ・ロッホさんが作る「グリュイエール・ダルパージュ ( Le Gruyère d’alpage AOC ) 」だった。
大賞の「スイス・チャンピオン」は前回の2006年から始まった賞。初代チャンピオンは、クレシエ ( Cressier ) に住むエーヴァルト・シャーファーさんの「モン・ヴュリー・ビオ ( Mont Vully Bio ) 」だった。

グリュイエール地方で作られる「グリュイエール ( Le Gruyère AOC ) 」の中でも、夏の短い放牧期間中に山の上で作られるチーズのこと。「ダルパージュ ( d’alpage ) 」とは「 ( 高原の ) 放牧地の」という意味のフランス語。チーズ・アワードでは個別のカテゴリーとして扱われている。

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