レッチュベルクトンネル開通
アルプス縦断鉄道 ( NEAT/NLFA ) 計画の一環として工事が進められてきた、レッチュベルクトンネルが6月15日、開通した。
ベルン州南部からヴァレー / ヴァリス州まで、全長34.9キロメートルのトンネルは、スイスの交通政策と環境政策の象徴だ。
スイスはヨーロッパの中央に位置し、ドイツからイタリア、フランスからオーストリアをつなぐ交通の要 ( かなめ ) として、国の経済が発展してきた。しかし、国内を通り抜ける貨物トラックが及ぼす環境への悪影響も見逃せない問題になっている。政府はスイス国内を通過するだけのトラックによる貨物輸送を、全面的に鉄道輸送に移行するため、アルプス縦断鉄道計画を打ち立て、巨額の資金を投資し工事を進めている。
アルプス縦断鉄道の要所
アルプス縦断鉄道に欠かせないのが、アルプス山脈を通るゴッタルドトンネルとレッチュベルクトンネルの2本だ。ゴッタルドトンネルはウーリ州のエルストフェルト ( Erstfeld ) からティチーノ州ボディオ ( Bodio ) までの57キロメートルで、世界最長の鉄道トンネルとなる。
このほど開通したレッチュベルクトンネルは、ベルン州フリュティゲン ( Frutigen ) からヴァレー / ヴァリス州のラロン( Raron ) を結ぶ。1999年7月から8年かけて完成した。総工費は当初よりおよそ10億フラン ( 約1000億円 ) 上回り、最終的には43億フラン ( 約4300億円 ) となる見込み だ。予算の増額は、周囲の住民と環境への配慮、安全技術面での出費、掘り進む間に地盤の不安定な地層に出くわすなど、予想外の出費が重なったためだ。
政治判断で作られたトンネル
国民投票によりアルプス縦断鉄道計画が63%の賛成票を得、承認されたのは1992年のことだった。ゴッタルド地方とレッチュベルク地方にそれぞれトンネルを新しく掘るという国をあげての大計画が国民に承認されたにもかかわらず、トンネル建設には批判的な声が上がり続けた。
オットー・シュティッヒ財務相 ( 当時 ) は「鉄道利用度の見込みや収益計算が甘い。そのため十数億フランに上るこの負債の返済は危うい」と指摘し、工事の中止を訴えた。財務省と交通エネルギー省が激しく対立したことは、いまでもスイス国民の記憶に鮮明に残っている。
国外からスイスに乗り入れ通過するだけのトラックに対しては、通行料を課税することに対し、ヨーロッパ諸国から非難の声が上がった。これに対しスイス政府の対案は、アルプス縦断鉄道を完成させ、トラックごと鉄道で輸送するというもの。レッチュベルクトンネルの建設を可能にしたのは「ゴッタルドトンネルの『交通政策上の必要性』に対し、国内政治と対ヨーロッパ外交の勝利の結果」( 6月10日付NZZゾンターク紙 ) 。レッチュベルクは、対ヨーロッパ政策に必要なトンネルとして見られるようになった。
スイスの交通、環境政策のシンボル
予算オーバーについては1998年、公共交通機関の増強とそれに伴う追加予算が再度国民投票により63.5%の支持を得て可決された。経費を確保したレッチュベルクトンネルは即刻着工され、ほぼ計画通りに列車運行の今日を迎えることとなった。
運行開始にあたりモリッツ・ロイエンベルガー交通エネルギー相は、ドイツ語スイステレビ局が6月11日に放映した特集の番組で「オープンセレモニーには各国の代表も招待している。その場でスイスの交通、環境政策を国内外に示すことができる」と語った。
毎日110本の電車が通過する予定のレッチベルクトンネル。単線のため5〜7分の遅れが出ると、ダイヤに大きく影響が出たり、路線変更を強いられると見られている。レッチュベルクトンネルは交通網として不十分なインフラであると見るヨーロッパ諸国の運送会社の目は厳しい。ダイヤの乱れが運送日程に影響を及ぼすことを懸念し、外国企業に対する「いじめ」だとスイスの交通政策を批判している。
ヨーロッパの中央に位置するスイスの環境保護と交通経済の発展の両立を図るアルプス横断鉄道計画は、レッチベルクトンネルで試される。
swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )
<レッチュベルク・データ>
全長34.6キロメートル
走行列車の時速最高250Km/h
労働者数 延べ2500人
建築事故による死亡者5人
総工費43億フラン
設置されているビデオ133台
火災発生通告装置3200カ所
緊急ランプ2500カ所
電話437台
<レッチュベルクトンネルの歴史>
1986年 アルプス縦断鉄道計画の検討開始
1992年 国民投票によりゴッタルドトンネルとレッチュベルクトンネル建設を含むアルプス縦断鉄道計画が承認される
1998年 公共交通機関の増強とアルプス縦断鉄道の追加予算が国民投票で承認
1999年7月 着工
2002年5月 トンネル中間地点まで掘り進む
2007年6月15日 開通
12月9日から通常ダイヤで運行を開始する予定
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